「おむつのサブスクから保育業界を変革するニッチ戦略」

鮫島正洋の知財インタビュー

「おむつのサブスクから保育業界を変革するニッチ戦略」

鮫島：出生率の低下が事実として進んでいる一方、保護者の仕事と子育て両立や保育士の過酷な労働環境も社会問題として注目が集まっています。これを行政だけでなくビジネスとして解決することが求められている中、「おむつのサブスク」は誰もが嬉しい卓越したアイデアですね。

上野：おむつに名前を書くといった慣習が保護者にも保育施設・保育士にも大きな負担となっています。これに対し、月額定額料金を支払うだけでおむつ・おしりふきが直接保育施設に届き、サイズや枚数関係なく使い放題になる「手ぶら登園」を2019年7月にリリースしました。2023年4月には導入数が3,400施設を超え、都内では4つに1つの施設で普及が進んでいます。

鮫島：上野社長の出身企業であるユニ・チャーム(株)と二人三脚で事業を育ててきました。

上野：きっかけは後輩からの相談です。保育施設の利用率や利用人数が増加傾向にある中で、「家庭内」のニーズではなく、「保育所内」の利用実態や展開方法について知りたいと。当時、認可外保育施設の経営で手ぶら登園できる仕組みを運用していた事に着想を得て、これを認可保育施設でも実現できるスキームを構築し、当社と共同でビジネスモデル特許も取得しました。2022年4月からは、この仕組みを「Kaoすまいる登園」として花王(株)とも提供開始しています。

鮫島：ユニ・チャーム(株)の懐の深さに感銘を受けましたし賛同もします。協業してくれる企業は歓迎ですが、模倣されるケースもあったのではないでしょうか。

上野：ほぼ全てのおむつメーカーや卸売が参入してきましたが既に撤退された企業もあります。重要なのは、如何に保育施設や保護者を理解し、カスタマーサクセスを実施するかです。単純におむつを運び、保育士の負担が増えては本末転倒です。メーカーや卸売では対応できないきめ細かなサポートが強みで、極めて低い退会率を実現しています。

鮫島：知財戦略だけでなく、現場の細部で課題発見とナレッジを蓄積してきたことが競合の追随を許さない強みになっていると理解しました。大企業との連携においても、対等なビジネスパートナーとしてお互いに付加価値を提供し合っている模範例ですね。今後の展開はどのようにお考えでしょうか。

上野：保育施設を取り巻く環境は課題山積で、おむつのサブスクは入り口に過ぎません。保育施設をより簡単・スマートに探すことができる「えんさがそっ♪ 」や、子育てサービスの優待サイト「にこにこ子育てプログラム」も早いスピードで立ち上がりつつあります。コロナ禍で保育がエッセンシャルワークであると社会が再認識し、潜在的な問題にも目が向けられ政策的にも動きがある今、当社が存在感を発揮するチャンスだと捉えています。

鮫島：当分野はグロースマーケットであると認識を改めましたし、おむつという地味だけれど重要でニッチな領域からエントリーして大きな社会課題にアプローチしていくというのは多くのスタートアップが参考にしてほしい戦略です。少子化は日本が課題先進国であり海外展開も十分可能性があると思います。今後の取り組みに大いに期待しています。

―「THE INDEPENDENTS」2023年5月号 P12より

※冊子掲載時点での情報です