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「最強のチーム」

  インデペンデンツクラブ代表理事 秦 信行 氏

早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)。野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。1994年國學院大学に移り、現在同大学名誉教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。2019年7月よりインデペンデンツクラブ代表理事に就任。

 

 WBC(WORLD BACEBALL CLASSIC)での侍ジャパンの戦いは見事だった。米国フロリダのローンデポ・パークで行われた決勝戦で日本がアメリカを3対2で破り優勝したのが3月21日(日本時間3月22日)だったが、それにもかかわらず、このコラムを書いている4月10日過ぎになっても、未だにTVではWBCの激戦の模様が時折放映されている。それほどドラマチックな戦いだった。
 中でも6戦目の準決勝メキシコ戦は、筆者もTVで見ていたが、壮絶な試合だった。4回にメキシコに3ランを打たれ先行され、ようやく7回裏になって吉田正尚の3ランで同点になったものの、すぐ次の8回表にメキシコに2点を取られ5対3になった。その時点で筆者もこれは今日は負けたなと思わざるを得なかったが、その裏の8回裏に1点を返して1点差になり、そして土壇場の9回裏、大谷の2塁打に始まり次の吉田がフォアボール、吉田は代走周東に代わり次が不振の村上、その村上が左中間フェンスに当たる2塁打を放ち大谷と周東が生還、見事逆転勝ちを収めたわけである。
 そして翌日の決勝戦、相手は米国、この日は投手戦といえる試合になったが、日本は7人の投手リレーで見事に米国を破り勝利を収めた。
 日本は優勝したわけだが、優勝を見届けてすぐに筆者は以前このコラムで紹介したダニエル・ニコル『最強のチームをつくる方法』(かんき出版)という本のことを思い出した。本を取り上げたのがこのコラムの166回「最強チームの作り方」、なのでご記憶の方もおられると思うが、この本は少人数集団である「チーム」の優劣を左右する要因は何なのかを野球やバスケットなどのスポーツ・チームだけでなく、レストランの厨房や軍隊の特殊部隊の話など、数多くの成果を上げた「チーム」の事例を紹介しながら、「チーム」が存分に力を発揮できる共通した要因を導き出している。
 著者のダニエル・ニコルは結論として、強い「チーム」のキー・ファクターは、優秀なメンバーを集めることでも、強力なリーダーに牽引されることでも、挑戦的で野心的なビジョンを持つことでもなく、(1)チームメンバーが安心・安全だと思える環境を整えること、(2)チームメンバーが自身の弱みや欠点をフランクに開示すること、(3)チームメンバー全員が納得する共通の目標を持つこと、の3つだというのだ。
 (1)の安心、安全な環境が侍ジャパンにとって何を意味するかは少し分かりにくいが、少なくとも栗山監督に選ばれたメンバー全員は招集から決勝までの約1月、自ら辞退する以外退場させられることはない環境だった。(2)は、今回の選手30人だけでなくコーチ陣も含めてコミュニケーションは極めて良好だったようだ。そして(3)は言うまでもなく、「優勝」という共通の目標は、チーム全員が強く意識していた。
 こう考えて来ると今回の侍ジャパンは正に最強のチームだった言って良いように思う。中国戦から始まって韓国、チェコ、オーストラリア、そして準々決勝イタリア、準決勝メキシコ、決勝米国と7戦全勝だったのは当然だったといえるのかもしれない。

※「THE INDEPENDENTS」2023年5月号 掲載 - p3より
※冊子掲載時点での情報です