「真正品の並行輸入が商標権侵害となるか否かを判断した事例(2UNDR事件)」
弁護士法人 内田・鮫島法律事務所
弁護士/弁理士 高橋 正憲 氏
2004年北海道大学大学院工学研究科量子物理工学専攻修了後、(株)日立製作所入社、知的財産権本部配属。2007年弁理士試験合格。2012年北海道大学法科大学院修了。2013年司法試験合格。2015年1月より現職。
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知財高裁令和3年5月19日判決
1 事案
本件は、「2UNDR」(指定商品:下着)についての商標権者等(控訴人)が、「2UNDR」と付された商品(下着)を輸入、販売等する被控訴人の行為が、商標権侵害に該当するとして差止、損害賠償を求めた事案です。 本件の特殊事情としては、控訴人自身が商標を付して商品を販売代理店に販売した後、販売代理店との販売代理店契約が解除されたにもかかわらず、解除後に、販売代理店が被控訴人に商品を販売した事情があります(商品自体は真正品)。2 大阪地裁の判断
真正品の並行輸入については、商標権侵害となるか否かの判断基準が最高裁によって示されており、東京地裁は、同判断基準に沿って、商標権侵害に該当しないと判断しました。========
【真正品の並行輸入が商標権侵害に該当するかの判断基準】(最高裁平成15年2月27日判決)
商標権者以外の者が、我が国における商標権の指定商品と同一の商品につき、その登録商標と同一又は類似の商標を付したものを輸入する行為は、許諾を受けない限り、商標権を侵害する。しかし、そのような商品の輸入であっても、〈1〉当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者により適法に付されたものであり(以下「第1要件」という。)、〈2〉当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一人であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があることにより、当該商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示するものであって(以下「第2要件」という。)、〈3〉我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあることから、当該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価される場合(以下「第3要件」という。)には、いわゆる真正商品の並行輸入として、商標権侵害としての実質的違法性を欠く。
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知財高裁も同様に、本件は商標権侵害に該当しないと判断しました。
控訴人は、第1要件は、「適法に付された」に加え、「適法に流通に置かれた」ことまで要求するものであり、本件は販売代理店契約が解除された事情があるので、「適法に流通に置かれ」ておらず、第1要件をみたさないと主張しました。
これに対し、知財高裁は、仮にそのように考えるとしても、販売代理店は、控訴人から正規に商品を購入したのであるから、この時点において、商品が「適法に流通に置かれた」ことは明らかである、と判示しました。
そして、契約解除の点については、販売代理店契約が解除された事情があるとしても、控訴人との関係で債務不履行の問題を生ずるとしても、販売代理店は商品の処分権を失うことはないのであり、商標の出所表示機能が直ちに失われることはなく、第1要件を具備すると判断しました。
以上のとおり、知財高裁も、本件は商標権侵害に該当しないと判断しました。
3 本裁判例から学ぶこと
真正品の並行輸入は、多くの分野で行われていますが、これが商標権侵害になるか否かは、上述した最高裁が示した判断基準(第1要件~第3要件)に沿って判断されることになります。同要件は、いずれも、商標の機能(自他商品識別機能、出所表示機能、品質保証機能)を害するか否かを根拠にしており、商標権者の商品流通に対するコントロールについての意思とは無関係です。したがって、商標権者からすると、契約により(販売地域制限や契約解除)、商品の流通をコントールしたいとの意思を有していたとしても、本件のように、一旦適法に流通させてしまった商品に対しては、必ずしも、商標権侵害との構成で、流通をコントロールすることが難しい点に留意が必要です。
※「THE INDEPENDENTS」2023年1月号 P9より
※掲載時点での情報です
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