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「再編後の新興市場の展望について」

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<特別レポート>

2022年3月7日 インデペンデンツ月例会

以下のテーマについてディスカッションを行っていただいた内容をお届けします。


■パネリスト

鳥居克広氏:証券会員制法人札幌証券取引所専務理事

永田秀俊氏:(株)東京証券取引所上場推進部長

鈴木武久氏:(株)名古屋証券取引所取締役

酒井慎一氏:証券会員制法人福岡証券取引所専務理事


モデレーター 秦信行:認定NPO法人インデペンデンツクラブ代表理事
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秦:スタートアップ成長のための重要なインフラである証券取引所は、スタートアップ経済拡大に向けてどのようなことを考えておられるのか、それをお伺いするのが特別セッションの主な趣旨です。

鳥居:昨年2021年は道内企業の上場は他市場への上場も含めてゼロだった。とはいえ、上場意欲が停滞している感じはない。今年を展望すると、東証の市場再編、TOKYO PRO Market(TPM)からのステップアップ、そして脱コロナ、という3つのキーワードがある。東証の市場再編で上場及び維持基準の均質化で「グロース」への上場は難しいと考え、地方市場を絡ませての上場という動きが出て来るのではないか。また道内にTPM上場会社が3社あり、それらが札証にということも考えられる。札証には他市場との同時上場会社がないのでそれも改善していきたい。
 地方創生の観点からも上場企業を増やすことは重要だ。北海道は道内の株式会社数に比べて上場会社が少ない。その是正に向けて昨秋から行政、経済団体、証券関係の皆さんに集まってもらい研究会を開催中。IPOの準備企業に対して補助金を出すのはどうかといった意見も出ている。地道なIR活動を重視し地方市場の存在感を高めたい。

永田: 東証では、4月4日から現行の4市場が「プライム」「スタンダード」「グロース」の3市場に再編される。「グロース」はマザーズのコンセプトを踏襲する高い成長可能性をもった企業向けの市場である。各市場は上下ではなく、並列の関係の、異なるコンセプトの市場である。このため、従来の一部指定基準や市場変更基準のような「市場区分間の変更」のための緩和された基準は設けておらず、異なる市場区分に移行する場合も変更先の市場区分の新規上場基準の充足が求められる。新しい「グロース」市場は従来のマザーズと基本的なコンセプトは変わらないが、成長可能性を実現するための事業計画を、上場後もその進捗について、KPIなどを示して開示することが求められる。

鈴木:東証と同じく4月4日に市場のコンセプトをリニューアルする。最大のポイントは、名証のメインプレーヤーが国内の個人投資家だということに重きを置いてリニューアルすることだ。従って、名証に上場している企業は個人投資家を大切にしている企業ということになる。同時に市場のネーミングを「プレミア」「メイン」「ネクスト」に変更する。「プレミア」は大企業向けの市場と位置付け、東証の「プライム」と概ね同等の上場基準にした。「メイン」は中堅企業の市場で上場基準は東証の旧ジャスダック市場と同等、「ネクスト」は近い将来、上位市場へのステップアップが期待される次の時代を担う企業の市場となる。
 「ネクスト」は従来のセントレックスと上場基準は基本的に変わらない。しかし成長性に対する考え方は変えている。高い成長性とはどの程度なのか曖昧だった。そこで着実な成長を求めることとした。また、長く「ネクスト」市場にいるのではなく3年内を目途に「メイン」市場にステップアップをしてもらいたいと考えている。
 セントレックスからステップアップした企業は16社あり、その内の10社は東証一部に上場している。セントレックス上場企業の本店所在地を見ると東京が50%、東海3県が約30%となっており、決して地元の企業だけの市場ではないことを覚えておいていただきたい。

酒井:昨年3月末時点の福証の上場会社は、本則市場92社(単独上場20社)、Qボード15社(単独上場5社)、合計で107社(単独上場25社)となっている。ここ10年新規上場数は残念ながら3社の壁を超えられていない。昨年9月に上場した(株)Geolocation TechnologyはTPMからの上場企業であり、11月の(株)フロンティアは後述する九州IPO挑戦隊の入会企業である。
 福証もファーストステップ市場を目指している。直近では今年2月に大石産業が東証2部に重複上場されている。Qボードから東証へのステップアップは地方取引所のダイナミズムにつながると思うので、その動きを加速させたい。

秦:首都圏はかなりスタートアップのエコシステムの整備が進んでいるが日本のそれ以外の地域はどうなのか、そのあたりについて取引所としてどのように見ておられるのか。

鳥居:札幌市を中心に協議会が出来ており推進拠点都市に指定されている。そこには札幌近郊の市町村や道内主要都市も参加し、札証も参加している。さらに行政ばかりでなくVCやIPOの先輩企業なども参加している。札証としてスタートアップの育成は将来的にIPOにとって重要だと考えてはいる。銀行系VCが出来るとか、IPOした企業のCVCが生まれ、かつてのサッポロバレーとまでは行かないにしても盛り上がりは出来つつある。

鈴木:中京地区はスタートアップが出にくい地域だと言われてきたが、近年は名古屋大学や中部経済連合会などを中心にスタートアップ輩出に向けた動きが出て来た。それに呼応して、2018年に愛知県が愛知スタートアップ推進ネットワーク会議を立ち上げ、名証もその一員に加わり愛知スタートアップ戦略が策定された。2020年には浜松地域にも同様のコンソーシアムが立ち上がり、両者を合わせて内閣府からスタートアップのグローバル拠点都市に選ばれている。2024年10月を目途にスタートトアップ拠点施設「スタ―ションAi」の建設をソフトバンクが中心になって進めている。取引所である名証としては、側面支援をすることを考えている。

酒井:九州IPO挑戦隊は今後3~5年の間に上場を目指す会社を対象に10数年前に作られた組織で、参加企業には上場会社としての経営力や組織力を学ぶためのプログラムを年9回程度受けてもらっている。参加企業は福岡が中心だが、九州に拠点のある東京や京都の会社も含まれている。この事業を福証のIPO支援の中核的な事業と位置付けている。福証に加えて福岡県ベンチャービジネス支援協議会、九州ニュービジネス協議会、中小企業基盤整備機構九州本部の4者による共同の取組みで、正に九州、福岡のスタートアップ・エコシステムを象徴している。福岡市に関しては市内の廃校になった小学校を使ってスタートアップ・カフェを作り、福証もこうした九州、福岡のエコシステム形成に協力している。

秦:最後に皆様から上場を検討している起業家に向けて市場選択をどのように考えればいいのかについてご助言を頂きたい。

鳥居:上場を検討されている起業家の皆さんの最終ゴールは東証のプライム市場だと思うが、上場は一度だけではないので、地方市場をステップアップ市場と位置付けてまずそこに出て、力をつけて中央へという考え方もある。札証に上場した企業にそのまま札証に留まってくれと言ったりはしない。札証から東証プライムに進むに際してはお手伝いをさせてもらう。

鈴木:企業の皆さんの最大の目的は、IPOではなく企業の成長並びに発展であるはずで、そのための自らの成長戦略、それに沿った市場を選択するのが重要だと思っている。絶対にIPOできる市場はないが、IPOの確率を上げるため、IPOの実現性の高い市場をまず選ぶべきだと思う。

酒井:最近良く使っているフレーズに「福証から始めてみませんか」とか「福証から夢を形に」とかいったものがある。成長軌道にある企業がマザーズ上場を目指したが高い成長可能性というハードルをクリアできず機を逸してしまったといった話を聴くことがある。地方市場ないしはTPMからのステップアップを考えてみることも意味があると思う。

永田:皆さんの考え方に大筋異論はない。東証としては今回の市場区分見直しについても上場会社の企業価値を高める仕組みを機能させるために行ったものであり、市場選択においても市場を活用して企業価値を高めることを念頭に置いて考えて頂ければといいのではと思っている。

※「THE INDEPENDENTS」2022年4月号 P.16- P17より
※冊子掲載時点での情報です