アイキャッチ

「人工衛星と地上をつなぐクラウド地上局プラットフォーム「Skygate」」

公開

<話し手>
<代表取締役 粟津 昂規 氏 略歴>
生年月日:1987年1月7日
出身高校:岩手県立黒沢尻北高校
慶應義塾大学理工学部在学中に趣味の無線技術研究から映像伝送会社を起業。その後、防衛省・自衛隊(陸自)にて地上通信/衛星/サイバーセキュリティを担当。会計ソフトのフリー(株)を経て、2020年にスカイゲートテクノロジズ(株)を創業し代表取締役に就任。第一級陸上特殊無線技士。


【スカイゲートテクノロジズ株式会社】
設立:2020年2月
資本金:N.A
所在地:東京都渋谷区代々木1丁目30番14号
事業内容:クラウド地上局プラットフォーム及び地上局関連支援
売上:N.A
従業員数:4名

<聞き手>
弁護士法人内田・鮫島法律事務所
弁護士 鮫島 正洋氏(右)
1963年1月8日生。神奈川県立横浜翠嵐高校卒業。
1985年3月東京工業大学金属工学科卒業。
1985年4月藤倉電線(株)(現・フジクラ)入社〜電線材料の開発等に従事。
1991年11月弁理士試験合格。1992年3月日本アイ・ビー・エム(株)〜知的財産マネジメントに従事。
1996年11月司法試験合格。1999年4月弁護士登録(51期)。
2004年7月内田・鮫島法律事務所開設〜現在に至る。

鮫島正洋の知財インタビュー

人工衛星と地上をつなぐクラウド地上局プラットフォーム
「Skygate」


鮫島:貴社は、低軌道人工衛星と地上間の通信・サービスを展開されています。

粟津:クラウド地上局プラットフォーム「Skygate(スカイゲート)」を開発し、主に小型衛星事業者向けにサービス提供をしています。近年、商業目的で地球観測データを入手し、サービスに活用する企業は増えています。これまでは数億円かけて自前の通信設備を持たざるを得なかった状況から、我々のサービスをご利用いただくことで、地上局調達コストや運用コスト、煩雑で難易度の高い各省庁などとの調整業務が不要になり、システム構築や実運用までにかかるリードタイムも大幅に短縮できるようになります。お客様にとってはコストが従来の1/10以下で収まるイメージです。



鮫島:代表の粟津さんは異色のご経歴です。起業された経緯についてお聞かせください。

粟津:大学時代は自らソースコードを書き、趣味の無線技術研究から起業も経験しました。東日本大震災で防衛省・自衛隊の活動に触れたことがきっかけとなり、大学卒業後に(陸自)入隊し、地上通信、衛星、サイバーセキュリティに7年ほど携わりました。その後、事業サイドの経験を求めて会計ソフトのスタートアップ企業に入りました。働く場所は変わりましたが、「技術を世の中のため、お客様のために使いたい」という私の思いはずっと変わっていません。無線や衛星に対する熱意も冷めず、2020年に当社を起業しました。

鮫島:貴社のサービスの特徴は、多種多様な通信規格をまとめてサポートできている点にあります。アンテナも従来と比べてかなり小型です。

粟津:通常人工衛星は、設計段階で各会社が自社の利用用途やハードに最適な通信方式を選択することから、通信方式が各社各様になっています。通信方式の統一に向けた検討も行われ始めていますが、前述の通信方式決定に係る事情に加え人工衛星の寿命が5年から10年程度ありますから、業界として通信方式が統一されたとしても切り替わるにはまだまだ時間がかかると考えています。当社はお客様の使い勝手を考え、無線システムをソフトウェア化することで、大型無線機を使うことなく普通のコンピューターで、世界中どこにいても実務に使えるようにしています。宇宙との通信に最適な場所を日本国内で探し、この夏頃には自前で地上局を設置すべく準備を進めており、将来的には地上局あたり最大50機の人工衛星とのデータ送受信を行うサービスを提供予定です。

鮫島:貴社は宇宙と地上との通信やソフトウェア開発についてノウハウを持っています。特許戦略はどのようにお考えですか。

粟津:これまで事業の立ち上げを優先し、明確な特許戦略までは描けていませんでした。知財の重要性は認識しているものの、社内にある技術を、どの範囲まで特許で守るべきなのか、どの部分が特許になるのかまで絞り切れていません。特許を取った方が良い場合、そうでもない場合もあると考えますが、ここはどう考えるべきでしょうか。

鮫島:業界特性にもよります。バイオや創薬の場合は、パイプラインごとに特許をとることが定石です。競合者の属性も重要な要素となります。競合が特許戦略に強い大手企業である場合と、中小企業やベンチャーなどで特許に力を入れていない場合とでは、対応も変わります。投資家目線も必要です。「人口衛星向けの通信ソフトウェアは当社だけ」と対外的にPRをするのであれば、適切な特許取得や申請がなされていることで、その技術の独自性や将来性について投資家から高い評価を得られる可能性が高いです。つまり、資本政策の観点からも特許戦略は有用であると言えると思います。

粟津:投資家とのコミュニケーションにも特許戦略が影響するのですね。

鮫島:投資の成果を保全するのも特許の役割です。「いただいた投資によって開発された成果技術は当社のCTOや技術者の頭の中に入っている」という説明は、投資家からすると、「CTOや技術者がヘッドハンティングされたら投資の成果はなくなります」という説明にしか聞こえないでしょう。特許を出願することにより、投資の成果を投資対象である会社に帰属させることが「投資効率のいい会社」という評価になるのです。


粟津:確かによくある話です。ここから、いくつか質問をさせてください。特許を考えていくコツのようなものはありますか。

鮫島:目に見える部分を特許化する、ということです。サーバ内で実施されるアルゴリズムのような発明は目に見えないので、誰かが特許を侵害しても追及できません。これでは費用を掛けて特許を出す意味もないし、そもそもノウハウ流出損になってしまいます。ユーザインターフェース的な部分は目に見えるので、特許出願に適しています。


粟津:納得度が高まりました。ところで特許で儲かったような事例はないのでしょうか。

鮫島: Amazonのワンクリック決済特許が有名です。この特許があったおかげで競合の楽天は2017年まではワンクリック決済を自社サービスのインターフェイスに搭載できませんでした。結果として当時Amazonのシェアが7割を超えました。


粟津:今後当社のビジネスは、国境を越えたサービス展開になっていきます。万一特許を争うこととなった場合、係争場所はどのように考えておくべきでしょうか。

鮫島:原則的にはそのサービスが展開されている国ですが、有識者の中には、特許の具体的なステップが実施されているサーバの設置国と考えている人もいます。本来条約等で整理する必要性がある話ですが、まだ未整理の部分が多い論点です。


粟津:本日は様々な気付きをいただきました。ありがとうございました。

鮫島:スタートアップの場合、技術やビジネスモデルを侵害されないためだけでなく、資本政策の観点から投資家目線を意識した特許申請も有効です。自社の事業計画を検証し、適切なタイミングで対応していくことが重要です。


対談後のコメント

鮫島:小型衛星の市場は急速に拡大しているが、そのインフラ整備が追いついていない。同社はこれに着目した通信サービスインフラにかかる業態である点が注目される。市場が拡大するにつれて大資本の参入も考えられるとしたら、パイオニアであるうちに特許ポートフォリオを充実させるという考え方にも合理性はあると思われる。


粟津:増加する人工衛星とのあらゆる通信ニーズにソフトウェアの力で答えることが私たちのミッションだと考えています。特許戦略を知的財産の保護という観点だけでなく、「投資家とのコミュニケーション」と位置づけ、新しい宇宙ビジネスのスケールに貢献して参ります。

(文責 大東理香)
―「THE INDEPENDENTS」2022年4月号 P18-19より

※冊子掲載時点での情報です