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「~ベンチャー白書2021より~」

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このコラムは、現在全国で数多く生まれているスタートアップ支援組織や支援団体を対象に、その組織や団体が生まれた背景や経緯、支援内容の特色、組織としての今後の方向性、組織からみた日本のベンチャー・エコシステムの現状、問題点や課題などを、主として組織・団体のトップへのインタビューを通じて紹介するものである。今回は12月6日インデペンデンツクラブ月例会で行った特別セッション「スタートアップファイナンス最新動向~ベンチャー白書2021」のレポートとしてお届けする。

黒田 啓征 氏(一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンター 総務企画局長)

森 敦子 氏(株式会社ユーザベース B2B SaaS Content Division
執行役員 シニアアナリスト)

<聞き手>秦 信行 氏(インデペンデンツクラブ代表理事/
事業創造大学院大学特任教授)


<黒田氏>本日、VECは「ベンチャー白書2021」を発表した。ここではその主だった内容について資料を使いながらお話したい。日本のVC投資額は、2010年度以降多少の上下動はあるが総じて拡大基調が続き2019年度には2891億円とピークをつけた。しかし、コロナ禍の影響で2020年度は2243億円に落ち込んでいる。ただ、四半期ベースでは2020年度の7-9月期が底で増勢に転じており、2021年度の上半期の国内投資だけをみると前年同期比で40%近い伸びになっている。

新規VCファンドの組成状況は、マクロ的な資金余剰もあって2020年度に本数は減少しているものの金額は大幅な増加となった。要は大型ファンドが増えているわけだ。日銀の「資金循環統計」等によって部門別資金余剰・不足状況を見ると、2000年頃から民間非金融法人企業が資金余剰部門に変わっている。ちなみに、財務省の法人企業統計調査によると、2020年度の利益剰余金(所謂内部留保)は484兆円強と日本のGDP金額に迫っている。この資金の数%でもベンチャー投資に振り向けられることを期待したい。

Initialの資料をVECが組替えた資料によって投資家別ベンチャー投資状況を見ると、2021年上期に様々な海外投資家がかなり積極的に日本のベンチャーに投資を始めており、関心が高まっていることが分かる。2020年度は、業種別には「通信・ネットワーク及び関連機器」への投資の拡大が目立った。ステージ別ではシード・アーリーへの投資が伸びている。投資先地域を国内で見ると引き続き東京が圧倒的で、海外ではアジアが過半を占めるといってよい。

次にベンチャー企業へのアンケート調査の結果をお話したい。まず、起業の動機の多くは「社会的課題の解決、社会の役にたちたい」となっており、それ故か、起業への周りの評価は高い。

ベンチャーの経営ニーズを見ると、大企業・中堅企業との協業を望んでいるところが90%近くに達する。資金調達ニーズについては、VCからの調達を望むのは当たり前として、次には民間企業からの調達を望んでいることが分かる。

<森氏>株式会社ユーザベースは2008年に創業し、様々な経済情報の提供など7つの事業を展開している。Initialは2016年にベンチャー情報収集会社であったジャパンベンチャーリサーチ(JVR)を買収、子会社化して事業を引き継ぐと同時に2019年に社名を株式会社Initialに改めた。

ご存知のように日本のスタートアップはVCだけでなく事業会社に支えられている現状に鑑み、Initialは独自のスタートアップの定義をした上で公開情報を広く観測して情報収集を行っている(現状対象スタートアップは2万社弱)。まず日本のスタートアップの資金調達は2012年以降順調に拡大している。2021年9月までで5800億円とピークだった2019年を既に上回っている。ただ、資金調達したスタートアップは減少しており、それは1社当たりの調達額が拡大していることを意味する。

確かに資金調達規模別者数割合を見ると、一社当たりの調達額が100億円以上の企業がスマートニュースやSpiberなど6社となり、明らかに大型化している。その結果、スタートアップの時価総額=企業価値も巨大化しており、現在時価総額1000億円以上の未上場企業、所謂ユニコーンは11社になっている。

調達ラウンドについてもInitial独自の定義で集計している。それによると、2021年上期のシリーズAでのスタートアップの調達額は中央値で1.5億円、Bで2.2億円、Cで5.0億円、D以降で9.6億円、また調達後企業評価額(Post Money Valuation)はシリーズAで11億円、Bで30億円、Cで70億円、D以降で167億円となっており、特にシリーズD以降での調達額、企業評価額は共に前年2020年から見ると大きく拡大している。

投資家別の状況については、VECの黒田さんも指摘されていたように海外投資家、それもVCだけでなく様々な投資家による日本のスタートアップへの投資が増えている。それは2021年上期や第3四半期に大きな資金調達をした幾つかのスタートアップの投資家を見ると明らかである。

<質疑応答>
秦:2020年から21年にかけての特徴的な点は何か

黒田:VCだけでなく様々な海外投資家が日本のベンチャー企業に投資を始めたこと、加えてごく最近では、日本のVCファンドにLP出資も始めたことだ。背景は、世界的なカネ余りのもと、日本のベンチャー企業への海外投資家の投資意欲と日本のベンチャー企業の大口調達ニーズがマッチしたことであろう。同時に日本のベンチャー企業側に彼らに向けて自身の事業内容についてきちんと説明できる人材が出て来たこともプラスに作用している。ただ、この金融緩和・カネ余りは何時まで続くのか、アジア勢などは心配しているが日本への海外投資家の動きが急激に変わることはないと個人的には思っている。

森:同じように感じている。海外投資家の日本のベンチャーへの投資は2019年位から増え始めているが、当時は日本のトップ・オブ・トップのベンチャーへの投資だったが、最近はかなり幅広く投資を始めている。その背景としてカネ余りもあるが、それまで中国への投資を拡大していた海外投資家が中国投資にリスクを感じ始めたこともあるのではないか。

秦:世界的に見て日本のベンチャーへの資金供給は少ない。それをどう見るか。

黒田:確かにその通りだが、日本の民間事業会社は、500兆円近い利益剰余金を保有しているので、遅れているDX化などイノベーションを進展させていくためにベンチャー企業との協業、即ちオープンイノベーションを進めていくしかないと思っている。そのことは前からVECは主張していた。2020年度に経済産業省がオープンイノベーション促進税制を創設し、活用されているが、その延長等も今年決まった。その効果もさらに出てくるのではないか。

秦:森さん、地方へのエコシステムの拡大についてはどうか。

森:確かに現状東京中心だが子細に見ると渋谷などITベンチャーが中心となっている場所で、業種を広げると地方でも有望なスタートアップが出始めているのではないか。典型はスパイバーが生まれた鶴岡のようなケースで、今は成功事例を創り出すフェーズではないかと思っている。それに加えて、新しくベンチャー投資を始めた投資家が事業会社を中心増えていることも地方のエコシステム拡大には追い風になるように思う。


※「THE INDEPENDENTS」2022年1月号 - P20-21より
※冊子掲載時点での情報です