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「日本のスタートアップの海外企業によるM&A」

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インデペンデンツクラブ代表理事
秦 信行 氏

早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)。野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。1994年國學院大学に移り、現在同大学名誉教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。2019年7月よりインデペンデンツクラブ代表理事に就任。



前回このコラムで日本の大企業、資金力のある企業によるスタートアップのM&Aが増えていることを書かせて頂いた。実はM&Aは日本企業によるものだけでなく、海外勢によるものも増加しているようなのだ。

驚かされたのは先頃9月に発表された米国の大手決済サービス会社PayPal(ペイパル)によける日本の新興BNPL(Buy Now Pay Later=後払い決済サービス)会社の株式会社Paidyの3000億円でのM&Aだ(10月に買収手続き完了)。 BNPL=後払い決済サービスとは、これまでのクレジットカードなどによる決済と異なり、与信審査が簡単で数回の分割払いでも手数料(金利)を取られない決済サービスをいう。当然そこにはサービス提供会社独自の与信ノウハウがあり、それによって若い人でも利用可能となっていて利用者は世界的にも拡大している。

買収したPayPalは、1998年シリコンバレーでピーター・ティールとイーロン・マスクによって創業された決済会社で、2002年に同じシリコンバレーのオークションサイト・サービスのebayに買収され子会社になっていたが、2015年になって独立、現在ではそのサービスは200以上の国と地域で利用され、世界で4億以上のユーザーと加盟店が利用しているといわれている。

M&Aの対象となった日本のPaidyは2008年にエクスチェンジコーポレーションとして創業され、ソーシャルレンディング事業を行っていたが、2014年にBNPLサービス「ペイディ」の提供を開始し社名も変更された。その後、「ペイディ」は急速に拡大、同時に主要なグローバルECブランドやECモールとの戦略的パートナーシップも構築し、現在のアカウント数は600万を超えている。

今回のPayPalのPaidy買収の目的は、PayPalが今後戦略的に重要な市場となると考えている日本で、Paidyの後払い決済サービスの機能と、自らが培ってきたオンライン決済市場での専門知識やリソースなどを組み合わせることで、日本でのビジネス展開をさらに加速し強固な基盤を構築することにあると考えられる。

一方、ネットの情報によると、M&Aを受け入れたPaidy創業者で代表取締役会長のラッセル・カマー氏は、PayPalをオンラインショッピングの世界で障壁を取り除いてきた先駆者だと評価した上で、最適なパートナーとして考えておられるようで、そのカマー氏からバトンタッチされて2017年に代表取締役社長兼CEOになられた杉江陸氏もPayPalのM&Aを歓迎され、買収後もこの2人でPaidyの経営を率いていかれるという。

実は3000億円という買収金額に驚いてPaidyのPayPalによるM&Aを紹介したが、M&A助言会社レコフのデータによると、2021年に入っての日本のスタートアップのM&Aの買い手は、金額ベースで海外勢が日本勢を上回っているという(9月まで)。件数ベースでは流石に日本勢より少ないが急増していることは確かで、うかうかしていると日本のスタートアップが海外勢に取り込まれてしまう事態も考えられないではない。日本勢の奮起を期待したい。

※「THE INDEPENDENTS」2021年12月号 掲載
※冊子掲載時点での情報です