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「「フードバレーとかち」が考える農業の成長戦略」

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帯広市
市長 米沢 則寿さん

1956年北海道帯広市生まれ。78年北海道大学法学部 卒業後、石川島播磨重工業(現IHI)入社。85年日本合同ファイナンス(現ジャフコ)入社、同社ロンドン駐在員、北海道ジャフコ取締役社長、ジャフココンサルティング取締役社長、ジャフコ経営理事を歴任。2010年4月帯広市長当選、就任。



人口:約17万人(十勝地域全体で約35万人)
面積:東京23区と同等(十勝地域全体では岐阜県と同等)

http://www.city.obihiro.hokkaido.jp/

―とかちが考える農業の成長戦略とは?
これからの農業にとって大切なことは、生産性の向上だけではなく、消費者志向です。日本の食に対する安全・安心という価値が見直されています。少し高くても外食産業では国産食材が優先的に使用されます。全国トップクラスの農畜産物の供給拠点であるとかち地域は、「食の安全」を更に追求して、全国の消費者、そしてグローバルな地域へと展開していきます。

―「とかちのかち(価値)」とは何ですか?
過去八回、清流日本一にもなった札内川の清らかで豊富な水資源、そこから堆積される良質な土、豊かな太陽の光。それが食の安全と美味しさを追求する「とかちのかち」のベースです。最先端技術による工場で農作物が大量生産される時代です。しかし大地と太陽の下で作られた農産物の美味しさには敵いません。

―農業におけるイノベーションをどのように捉えていますか?
農業の成長産業化に最も大切な事は流通改革です。二次産業の加工工場や三次産業の宅配会社が、一次産業である農業と統合されて、産地直送するシステムが完成する。消費者の方を向いて、消費者が欲しがるものを提供し、消費者をしっかり掴んでいくのが、農業におけるイノベーションだと考えます。

―「フードバレーとかち」推進の具体的ツールとなる取り組みについて教えて下さい。
帯広市を含むとかち19市町村は、札幌市などとの広域連携によってアジアの食と農業の集積拠点となる事を目指しています。こうした動きは国からも評価され、食産業の研究開発と輸出拠点の形成を目指す「国際戦略総合特区(北海道フード特区)」の指定を受け、規制緩和などのメリットを活かして取り組んでいます。

―農業における技術革新について教えて下さい。
とかちは帯広畜産大学を中核に、食と農に関する試験研究機関が集積した中で知見が蓄積されており、これらを活かした機能性食品の開発や、農産物の品種改良などが行われているほか、先進的な企業が人工衛星による土壌肥沃度や作物の生育状況の解析に取り組んでいるなど、ICTの活用による生産技術向上にも意欲的です。

―環境・バイオマスの取組みも進めていますね。
地域全体の電力供給量の80%をバイオマス、太陽光、水力など自然エネルギー由来にしていきたいと考えています。農産物も大量に生産でき、水もきれい、さらにエネルギーも地域循環型で調達可能となれば、とかちはこれからの時代に必要なものを志向している地域であると、価値を見出してもらえると考えています。先日、国からバイオマス産業都市に選定され、今後さらにその取組みを加速していきます。

―六次産業化ファンドが注目されています。
いろいろな事業体を吸収して成長する六次産業の持株会社化ができたらよいと考えています。事業に賛同する人が資本や知恵を出し合い、商品やサービスが市場で切磋琢磨されて社会に新たな価値を提供する。株式会社という仕組みを農業イノベーションに活用して、とかちをその本社所在地としてIPOする企業を育ててはと思っています。

―観光事業もとかち地域の成長産業です。
六次産業化には観光事業も不可欠です。スイーツめぐり券を発行して複数店舗のスイーツを食べ歩きしてもらう仕組みが観光客から支持を得ています。さらに、国内外の観光客にとかち農業を身近に感じてもらう新しい視点の仕掛けも生まれてきています。

―米沢市長が考えるとかち地域の将来ビジョンを教えてください。
シリコンバレーは世界から優秀な人が集まる地域として成長しています。食に関わる種々雑多な人が集まって「面白い事」が始まるイノベーション創造地域としての「フードバレーとかち」の実現。それが私の夢です。

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※全文は「THE INDEPENDENTS」2013年7月号 - p8にてご覧いただけます