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「ネットビジネスにおける広告表示の違法性について(1)」

公開


弁護士法人 内田・鮫島法律事務所
弁護士/弁理士 高橋 正憲 氏

2004年北海道大学大学院工学研究科量子物理工学専攻修了後、(株)日立製作所入社、知的財産権本部配属。2007年弁理士試験合格。2012年北海道大学法科大学院修了。2013年司法試験合格。2015年1月より現職。

【弁護士法人 内田・鮫島法律事務所】
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東京地裁令和3年2月9日判決

平成30年(ワ)第3789号(オリゴ糖事件)


1 はじめに

現在、ネットビジネスでは多様な広告が散見されます。今回のコラムでは、ネットビジネスを営む企業の広告表示が違法か否かが争われた事例を紹介します。

2 事案の概要

本件の原告「株式会社北の達人コーポレーション」、及び被告「株式会社はぐくみプラス」は、共に、インターネット等を通じてオリゴ糖関連商品を販売する者です。

本件は、原告が、被告に対し、被告が被告商品「はぐくみオリゴ」について、「オリゴ糖100%」等の広告表示をして販売していたところ、同行為が、①品質誤認表示(不正競争防止法2条1項20号)または、信用毀損行為(同法2条1項15号)に該当するとして、表示の差止、損害賠償等の請求を求める事案です。

3 東京地裁の判断

東京地裁は、以下のように判示しました。

「被告商品は、オリゴ糖を含むことをうたう商品である(前記1⑵ア)。そして、オリゴ糖類食品は、オリゴ糖が健康に有用な効果作用を発揮するとされていることから健康食品市場において需要を獲得しているものであり(同⑴イ)、被告商品も、被告商品に含まれるというオリゴ糖について、その種類ごとの効能等を述べた上で、オリゴ糖を摂取することによる効能を述べるなどして販売されていた(同⑵ア)。

これらからすると、需要者は、被告商品においてはオリゴ糖が商品の効能等を決するものであると理解し、被告商品におけるオリゴ糖の純度、割合が示された場合には、被告商品に含まれる上記の効能等を有するオリゴ糖の成分の割合が示されて、被告商品の効能に関係する表示がされていると理解するといえる。

これらによれば、被告商品に含まれているオリゴ糖の割合についての表示は、被告商品の品質についての表示といえる。前記1⑵イによれば、被告商品に含まれるオリゴ糖の成分は、商品のうち53.29%であると認められ、また、被告商品の具体的な原材料は不明といえる。本件表示のうち、「純粋100%オリゴ糖」、「純度100%」、「100%高純度のオリゴ糖」、「100%高純度」の表示は、需要者に対し、被告商品に含まれるオリゴ糖の成分の割合が、100%であるか、少なくともそれに近いものであるとの印象を与えるものであって、被告商品の品質について誤認させるような表示であると認められる。

また、上記のようなオリゴ糖の健康食品市場における位置付けや被告商品の説明に照らしても、本件表示のうち「オリゴ糖100%」、「100%オリゴ糖」、「オリゴ糖100パーセント」、「天然由来100%オリゴ糖」という表示も、これと同時に用いられているなどする上記の「純度」に係る表示と併せて読まれるなどして、需要者に対し、被告商品の100%又はそれに近い部分が上記の効能を有する成分であるオリゴ糖で構成されているとの印象を与えるものであって、被告商品の品質について誤認させるような表示であるというべきである。」「以上から、被告は、平成26年7月から平成30年11月まで、故意により、被告商品の品質について誤認させるような本件品質誤認表示をして、被告商品を販売していたと認められる。」と判示して、被告の広告表示が、品質誤認表示に該当するとして、請求額の一部である約1835万円の損害賠償請求を認容しました。表示の差止請求については、既に表示変更をしていたことにより、棄却の判断となりました。

4 本判決から学ぶこと

広告表示について、問題がある場合、解決策としては、①景品表示法の優良誤認表示や有利誤認表示であるとして、法的救済を求める手段と、②不正競争防止法における品質誤認表示や信用毀損行為として、法的救済を求める手段、がありえます。

前者の場合、消費者庁に対し、情報提供を行うことで、調査がされ、場合によっては、措置命令、ないし課徴金納付命令の対象とされます。この手段は、当事者は情報提供を行うだけでよいので簡易な手続きで足りるメリットがありますが、行政が動いてくれるか不明であるというデメリットがあります。

後者の場合、本件のように、当事者間の民事訴訟として、裁判所において、差止・損害賠償の審理が行われます。この手段は、当事者間での紛争解決には役立ちますが、裁判に費用と時間を要します。

両社の手段は、特徴の異なる制度ですので、両制度を使い分けることが企業活動としては肝要です。本件のように、競合企業同士の表示の紛争であれば、裁判所に判断を求める手段が有効でしょう。

以上


※「THE INDEPENDENTS」2021年10月号 - P18より
※掲載時点での情報です


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