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「リスクを冒さないリスク」

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インデペンデンツクラブ代表理事
秦 信行 氏

早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)。野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。1994年國學院大学に移り、現在同大学名誉教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。2019年7月よりインデペンデンツクラブ代表理事に就任。



先日、9月9日の日経新聞朝刊の「大機小機」に気になるコラムが掲載されていた。タイトルは「日本企業よ、ダイナミックであれ」。

内容を簡単に紹介すると、現状日本の株価にしろ、為替レートにしろ諸外国と比較すると依然冴えない。何が問題なのか、コラムの書き手は大きく三つの要因を指摘している。一つ目は日本企業の行動に大胆さがなくなり、新しいことへの挑戦が出来ていないこと。二つ目は過去へのこだわりが強すぎること、三つ目は国内事業のウェイトが依然高く、リスクの高い海外展開が総じて出来ていないこと。

要は上記三つの要因は同根であり、最近の大きな社会変動や技術進歩に伴うビジネスチャンスを逃しているのではないか、そして今、日本企業に強く求められているのは、ダイナミズムを取り戻すことだと結ばれている。

当然、このコラムの指摘、主張には反論の向きもあると思われるが、筆者には妥当な指摘であり主張だと思える。コラムにもあるように、当たり前のことだが事業活動はリスクであり、リスクを覚悟して事業を行うからこそリターンが生まれるのだ。

勿論、リスクを考えることは重要で、リスクを十分考えない行動は大きな失敗に繋がる。とはいえ、リスクは新規事業開発だけに留まらず様々な意思決定においても、挙げ出せば切りがない。事案を潰したいと思うのなら様々な観点からリスクを言い募ることは出来なくはない。問題はリスクとリターンのバランスにあるわけで、そのバランスをどのように取るか、大変難しい問題で筆者に特別な妙案があるわけではない。

ただ、この問題については考えておくべき点が3点あるように思う。

まず第1は失敗した場合の責任の所在の問題である。よく言われるように日本の組織は往々にして責任の所在が明確でないことが多い。それはリスク評価にどのような影響を与えるのか。責任の所在がはっきりしないが故に、意思決定者間でお互いに牽制し合って果敢にリスクに挑戦することをやめてしまうのではなかろうか。

第2は意思決定責任者の覚悟の問題である。意思決定の責任者は最後に強い覚悟を持って決断を下す必要がある。その覚悟があって初めて組織は前向きに動きだす。しかし責任者不在の組織においては、当然ながら責任者の覚悟など求めることは出来ない。

第3は意思決定がどのような状況の中で行われているのか、状況判断の問題である。高度経済成長期ですべてが上手く行っている時期ならいざ知らず、現状のように世界的にも大きな技術革新や社会変動の最中にあって、日本が置いてけぼりを食らいつつある状況下では、リスクとリターンのバランスにおいて、リスクを少し小さく、リターンを少し大きく評価して果敢にリスクに挑戦することが必要なのではないか。

最近女優の満島ひかりがやっているUQモバイルのCMをご存知だろうか。そこでは女王役の彼女がスマホの料金値下げをすると言い出し、リスクが大きすぎると侍従が反対するのに対して次のように言い放つ、「リスクを冒さない事こそ、最大のリスクだ」と。

※「THE INDEPENDENTS」2021年10月号 掲載
※冊子掲載時点での情報です