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「新時代をリードする女性起業家とは」

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<特別セッション>

2021年9月6日  インデペンデンツクラブ月例会


<スピーカー>

加藤 珠蘭 氏(創薬ベンチャー:(株)ジェクスヴァル 代表取締役)
下和田 静香 氏(英語保育園等の運営:(株)REBIUS 代表取締役)
尾形 優子 氏(遠隔医療プラットフォーム事業:メロディ・インターナショナル(株) 代表取締役)
手塚 里美 氏(経営コンサルティング/教育事業:BIP(株) 代表取締役社長)
<モデレータ>
小原 靖明 氏(株式会社AGSコンサルティング 顧問/株式会社Kips 取締役)



小原:いまどき「女性で括るのもどうか」という意見もあります。
一方で、女性経営者ならではの視点や強みはあると考えます。今日はみなさんに色々伺っていきます。
まずジェクスヴァルの加藤さんです。アメリカで創薬の研究活動のご経験をお持ちです。アメリカでは、女性起業家や女性社長という括りは、もはや存在しないのでしょうか。


加藤:そうでもない、というのが実感です。2000年頃、私が米国にいた時には、女性の研究者は大勢いましたが、研究室を持てるような研究代表者(PI: Principal Investigator)や教授はけっして多くはなかったです。研究者の場合、夫婦ともに研究者であることも多く、夫婦で雇い入れる制度を設けている大学は限定的で、単身赴任が一般的でない米国では、女性側が、キャリアを譲る、というケースは多くあったようです。国土の広いアメリカならではの事情だと思います。国ごとに事情が異なり、「海外にはジェンダーギャップがない」と、日本人の多くは誤解しているのかもしれません。



小原:私は、上場を達成した5人の女性社長をサポートした経験があります。例えば、テンプスタッフの篠原欣子社長(パーソルホールディングス(株) 名誉会長)、(株)サニーサイドアップの次原悦子社長などがおられます。英語保育園の経営をなさっている下和田さんですが、目標にされている起業家はいらっしゃいますか。


下和田:特定の方はいませんが、子育てを含め家庭と仕事を両立されている起業家を目標にしています。上場まで目指すとなると、一般的に、家庭がおろそかになりがちです。そうならないようにしてらっしゃる方を尊敬しています。

小原:メロディ・インターナショナルは、妊婦と赤ちゃんの健康管理プラットフォーム Melody iを開発、販売されています。かつてデスバレーを経験したと伺いました。資金面のやりくりの手腕もさることながら、御社は経営メンバーが変わっていない点が素晴らしいです。


尾形:経営メンバーだけでなく、おかげさまで社員もやめていません。社員に助けられてここまで到達できました。当社は、得意分野のある人が集まり、働いてくれています。

小原:手塚さんは、創業社長ではないですが、その点について、周囲から何か反応をお感じになっておられますか。


手塚:今回のお話をいただいた時に、社内や社外からどう評価されるか、正直気になりました。ところが、社内、社外ともに、好意的に受け止めていただき、応援してくださる方がとても多かったです。私も現在子育中ですが、経営コンサルタント仲間や周囲の方が協力してくださっており、感謝しています。また、企業勤めでないがゆえにスケジュールの調整が効きやすい面もあります。

小原:経営者は、男性でも女性でも、繊細さと鈍感さの両方を兼ね備えることも大事なポイントです。


尾形:当社は、かつてお給料も払えないくらい資金がなくなりそうだったこともありました。どん底の時こそ、女性は強いと思います。男性は失敗を気にされる方は多いかも、です。めげない女性社長は多いと思います。

小原:視聴者の方の中には、「女性ならではというポイント」を聞きたい方もおられると思います。例えば、マーケティング視点や経営手腕などです。そのあたりお聞かせ願えますか。


加藤:当社は希少疾患(患者数が少ない病気)向けの創薬に取り組んでいます。こうした疾患の医薬品開発はグローバル戦略が重要で、例えば、米国の食品医薬品局(FDA; Food and Drug Administration)は、「企業目線の開発から、患者・ご家族重視の開発」への転換を促しています。そこで当社は、米国で患者・ご家族の意見をヒアリングし、自分達が開発しようとしているものが真のニーズに合っているかを調査しました。その中で、「効果は絶大だが、服用後にいわゆる寝て過ごすような強い薬」よりは「ある程度の日常生活を過ごせる薬が良い」という声を聴きました。薬の効き目、すなわち「切れ味ありき」ではなく「自分だったら、わが子に飲ませたいか」、といったような目線も大切にしながらニーズに合った製品の開発を目指していきたいと思います。

下和田:母親目線と経営者目線で、両方から意見が出せることが己の強みであると考えています。私は幸い、自分の好きな事を仕事にしています。「子供が楽しんで成長していく姿を見ると、私も頑張れる」、「私が輝けば、子供が憧れてくれるかも」という期待を持っています。この期待感があることで、仕事に没頭できる力を得ているように感じています。

小原:今後、REBIUSがFC展開をしていく場合、女性だけが対象ではなく、いかに説得力を持ち、汎用的に事業展開ができるかがポイントです。


下和田:魅力ある教材を、どこでも、誰にでも、質を担保しつつ、早く広く展開を目指します。先生の教育をスピードアップできるよう、早急に動画の準備や、品質の統一化を図っていきます。

小原:女性経営者だから得をした、損をしている、ということはあるでしょうか。


手塚:当社はコンサルティングや教育事業を行っており、経営者と話す機会が多いです。こちらが女性で大丈夫かと心配されるのではないかと、かつては考えていました。ところが、意外と「相手が女性だから話しやすい」と仰っていただけました。女性の持つ共感力の高さも評価いただけているかもしれません。最近、あちこちで女性活躍支援の取り組みが増え、追い風を感じてはいます。一方で、子供が生まれてから己の行動に一定の制約は感じています。夫に協力してもらえてはいるものの、家事育児の負担が母親側に大きくなっています。

小原:みなさん、資金調達はどうされていますか。銀行対応やVC対応で感じている苦労はありますか。他のお悩みはいかがでしょうか。


下和田:おかげさまで銀行から3億円ほど調達ができ、旗艦店を作れるところまできました。教材製作や、先生の教育のためのカリキュラムの動画制作をすすめるにあたり、VCにサポートいただけたら、と考えています。

加藤:ジェクスヴァルの事業はR&D先行型で、懐妊期間が長いのが特徴です。VCから出資を受けているため、VCが成果を期待する期間と価値を生む「インフレクションポイント」のタイミングがズレがちな点に難しさを感じながらも上場ストーリーを描いていかなければなりません。まさに、監査法人や証券会社をまわるタイミングなのですが、まだ証明できていないものをどのように上手に「証明」すればよいか、思い悩んでいます。

下和田:当社の課題は、どこまで独自性を出せるのかが課題です。真似されやすい事業なので、圧倒的なものを作りたい、つくる必要があります。どういう方に監修に入っていただくのが良いのか悩んでいます。

小原:私からのお勧めは、有価証券の目論見書からヒントを得ることです。ベンチャーの目論見書には、ビジネスモデルと経営課題が細かく書いてあります。ベンチャーの目論見書を10社、20社と読んでいくと、自社にあてはまる部分、そうでない部分など、徐々にわかってきます。やがて、自社にあったストーリーがおのずと描けてきます。

ところで、私が上場をお手伝いするときは、3つの視点で見ています。ひとつめは、ビジネスをどう展開させるかの視点。次に、財務戦略で、エクイティにするのか、デットにするのか。最後は組織づくりです。上場前の組織と上場後の組織は性質がまったく違います。これまでの経験で共通して言えることは、上場まで上手く運んだ会社は、組織づくりが上手であったと言えます。

本日は、お忙しい中、お集まりいただきありがとうございました。



※「THE INDEPENDENTS」2021年10月号 P.4- P5より
※冊子掲載時点での情報です

※お知らせ
スピーカーの加藤氏が代表をつとめる(株)ジェクスヴァルは、豪州での臨床試験開始に向けて第三者割当増資を実施されました。

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