「口臭測定スマート歯ブラシ「SMASH」とオンライン診療で歯を守る」
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<話し手>
株式会社NOVENINE
代表取締役 竹山 旭氏
生年月日:1984年12月9日
出身高校:帝塚山学院泉ヶ丘高校
大阪歯科大学大学院歯学研究科 修了。京都大学iPS細胞研究所、コロンビア大での研究活動を経て、2018年当社設立、代表取締役就任。大阪歯科大学口腔外科学第1講座 非常勤講師。
【株式会社NOVENINE概要】
設立:2018年1月18日
資本金:73,000千円
売上高:9,661千円(2021年7月期 予測)
従業員数:17名(業務委託メンバー11名)
所在地:大阪市中央区南船場2-2-21 ライフ&デザインビル 302
事業内容:オーラルヘルスケア推進事業
<聞き手>
弁護士法人内田・鮫島法律事務所
弁護士 鮫島 正洋氏(右)
1963年1月8日生。神奈川県立横浜翠嵐高校卒業。
1985年3月東京工業大学金属工学科卒業。
1985年4月藤倉電線(株)(現・フジクラ)入社〜電線材料の開発等に従事。
1991年11月弁理士試験合格。1992年3月日本アイ・ビー・エム(株)〜知的財産マネジメントに従事。
1996年11月司法試験合格。1999年4月弁護士登録(51期)。
2004年7月内田・鮫島法律事務所開設〜現在に至る。
鮫島正洋の知財インタビュー
口臭測定スマート歯ブラシ「SMASH」とオンライン診療で歯を守る
鮫島:御社は、口臭ガス測定と電動歯ブラシとしての機能を併せ持つ、世界で初めてのソリューション「NOVENINE SMASH」を発売されました。私も先日購入しました。非常にコンパクトで使いやすい印象を持ちました。アプリも登録済みです。
竹山:ありがとうございます。この7月に、NHK全国放送「おはよう日本 おはBizコーナー」で紹介いただきました。「NOVENINE SMASH」をお使いいただくことで歯周病・虫歯予防につながることや、第一生命保険株式会社との口腔ケア領域に関する取り組みなどが紹介されました。ニュースを見られたお客様が、店頭に足を運び、製品名をおっしゃっていただいたようで、複数社から商談をいただきました。反響を大変ありがたく思っています。鮫島:御社の機器の特徴はどういったところにありますか。
竹山:歯磨きをする前後に、スマート歯ブラシに内蔵された測定センサーに息を吹きかけるだけで臭気を測定し、4段階で口腔内の状態を「緑、黄色、赤、紫(悪化)」と表示します。朝の忙しい時間に使いやすく、シンプルなUIにこだわりました。SMASH搭載のセンサーは既製品ですが、普通は使わない、かなり精度の高い、揮発性化合物を測定するものを採用しています。鮫島:口臭と歯の病気の早期発見の関係性を証明するものはありますか。
竹山:既知の論文がいくつかあります。ある観察研究では、簡易な口臭測定器を使って、被験者に毎日口臭を測定することだけを指示したものがあります。測定器を使って毎日口臭を測定させた群と、何らコントロールしていない群とを比較すると、ほぼモレなく、測定した群では、口腔内の清掃状況が良くなり、口臭が改善される行動変容が起こっています。口臭の度合いが高いと、やはり歯周病のリスクは高くなっていますから、SMASHをお使いいただくことで、口腔内を清潔に保つ習慣が自然に身に付きます。鮫島:御社はオーラルスコアレポートとオンライン相談でフォローするサービスを行っておられます。マネタイズはどうされていますか。
竹山:「SMASH」と、スマホアプリ「NOVENINEアプリ」のサービスを通じて、初回計測から7日目に、無料の「オーラルスコアレポート」が、直近一週間のデータ(口臭ガス、口腔内画像、歯みがき習慣、生活習慣アンケート)を元に、歯科衛生士から利用者にアドバイスとともに届きます(2回目からは有料サービス)。有料オプション契約(858円~)に入っていただいた場合は、3ヶ月ごとに2本の替えブラシが届き、正しい歯磨きの習慣化を図っていただきます。本体価格1台29,800円(税込)です。鮫島:高性能なセンサーを使われているのであれば、他の揮発性化合物も測定できるのではないのですか。
竹山:発売にあたっては、あえて測定しないように設計しました。その理由は電池のもちです。一般の測定器では、ヒーターを温め、フィルター清掃、測定完了まで5分はかかり充電消費は早くなります。SMASHは暖気運転方式(常に微量の電流を流している状態)を採用し、朝の忙しい時間に対応できる最適な充電時間、立ち上がり、測定スピードにこだわりました。口臭測定・歯の健康維持に特化し、発売しました。鮫島:御社の特許申請はどのような状況でしょうか。
竹山:「口腔状態判定システム、口腔ケア具および口腔状態判定用コンピュータプログラム」「口腔内画像撮像装置および歯科診断支援システム」など、センサー、測定結果、プログラム、口腔内状況の診断関連で、特許を出願中です。鮫島:ビジネスモデル特許は、「ハードウェアに頼らずに、特許が取れるということ」です。わかりやすい例は、amazonのワンクリックの特許。この特許が存在したから、競合他社は自社のオンラインプラットフォームに、ワンクリック決済のしくみを入れたくても入れられなかった。どういうデバイスを使おうが、どういうアルゴリズムを採用しようが、特許の権利範囲に入ってしまうからなのです。投資家も知財に高い関心を示し始めた昨今、自社の斬新なビジネスモデルやそれにまつわるサイトの機能についてビジネスモデル特許を申請することは、ビジネスの競争力を確保する上でますます大事になってきています。
竹山:ハードでなく「サービス」や「ビジネスモデル」を抑えることが重要なのですね。大変勉強になりました。鮫島:今後のビジネス戦略はどのように考えておられますか。
竹山:今回の反響を分析すると、当社が初期に想定したペルソナと、反響をいただいた層が重なっていることがわかり、少し安心しました。ターゲット層の30代後半から50代の女性が、コンスタントにSMASHを目にする機会を作るなど、マーケティングを強化していきます。また、替え歯ブラシをご購入いただくタッチポイントでデータをとるなど、データを蓄積し、積極活用していきます。例えば保険会社に対して、健康維持や管理面で寄与できるビジネスチャンスもきっとあると考えています。長期的には、オンライン診療と保険との融合など、何かポイントがあるのではないかと考えています。鮫島:良いビジネスアイデアを考え出した時には、早く、対外に発表したいものですが、新しいアイデアを考えた時こそ、知財戦略的には一呼吸置くタイミングです。テストマーケティングを行い、ユーザーのフィードバックが返ってきた時が特許申請時です。「改善しました」といち早くユーザーに返したいものですが、一度冷静になって特許に取り組むことが知財戦略の要諦です。
*対談後のコメント
鮫島:ビジネスモデルは、ユーザやそのデータを集めるために存在する。そのような観点から見ると、歯ブラシの宅配により継続的に収入を得つつ、ユーザの口腔内データを集積する、という同社のビジネスモデルはまことに巧妙な造りとなっている。今後はハードウエアのみならず、ビジネスモデル特許を積極的に進めることによって、プロテクトを図っていきたい。
竹山:「特許関連はスタートアップにとって重要なMoat(競合優位性や企業の強み)である一方で、どのような戦略を持って取得するかといった戦略を立てるのは容易ではありません。特許取得に関して誰に相談して良いかも分からない中、鮫島先生のように知財のスペシャリストが戦略パートナーになっていただけることはとても心強いことです。今回のインタビューからも多くの気づきがありました。
(2021.8.6 文責:大東理香)
―「THE INDEPENDENTS」2021年9月号 P18-19より
※冊子掲載時点での情報です