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「アスタリスクvsユニクロ訴訟について(2)」

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弁護士法人 内田・鮫島法律事務所
弁護士/弁理士 高橋 正憲 氏

2004年北海道大学大学院工学研究科量子物理工学専攻修了後、(株)日立製作所入社、知的財産権本部配属。2007年弁理士試験合格。2012年北海道大学法科大学院修了。2013年司法試験合格。2015年1月より現職。

【弁護士法人 内田・鮫島法律事務所】
所在地:東京都港区虎ノ門2-10-1 虎ノ門ツインビルディング東館16階
TEL:03-5561-8550(代表)
構成人員:弁護士25名・スタッフ13名
取扱法律分野:知財・技術を中心とする法律事務(契約・訴訟)/破産申立、企業再生などの企業法務/瑕疵担保責任、製造物責任、会社法、労務など、製造業に生起する一般法律業務
http://www.uslf.jp/


特許公報の図3
(赤字、青字、緑字は、筆者による)


知財高裁令和3年5月20日判決


1 はじめに

セルフレジの特許をめぐり、ユニクロ社と、アスタリスク社が紛争となっています。前回のコラムでは、紛争の全体像 を説明しました。今回のコラムでは、問題となっているアスタリスク社の保有する特許 について説明していきます。 アスタリスク社は、どのような特許を取得したのでしょうか?


2 アスタリスク社の特許の概要

アスタリスク社の特許6469758号の請求項1の記載 は以下のとおりです 。

A 物品に付されたRFタグから情報を読み取る据置式の読取装置であって、前記RFタグと交信するための電波を放射するアンテナと、
B 上向きに開口した筺体内に設けられ、前記アンテナを収容し、前記物品を囲み、該物品よりも広い開口が上向きに形成されたシールド部と、を備え、
C 前記筺体および前記シールド部が上向きに開口した状態で、前記RFタグから情報を読み取ることを特徴とする読取装置。

  アスタリスク社の特許によると、無人レジでの会計の仕組みは、以下となります。
会計対象となる「物品」に「RFタグ」が付され、この「RFタグ」が「読取装置」内に入ると、「アンテナ」と「RFタグ」が「交信」し、「RFタグから情報を読み取」り、会計を行うものです。この「読取装置」の構造上の特徴として、「シールド部」が、以下の特徴を有します。
【シールド部の構造の特徴】
・上向きに開口した筺体内に設けられていること
・アンテナを収容し、物品を囲むこと
・物品よりも広い開口が上向きに形成されていること

このような特徴を有することで、アスタリスク社の特許によると、以下の効果があるとされています(特許公報【0013】)

【発明の効果】
・シールド部内にアンテナが収容されるので、アンテナから放出される電波の広がりを抑制し、他の機器に対する電波の影響を低減させることができること

・シールド部が物品よりも広い開口を備えているので、シールド内に物品を配したり、開口上に物品を配するなどしてRFタグの読み取りを行うことができること

・その際、シールド部は開口したままで読み取りを行うので、従来のように開口を閉めるといった煩わしい動作を要しないこと

・読み取り時の利便性を確保しつつ、電波の影響を低減することができること


3 アスタリスク社の特許のポイントに学ぶ企業活動

アスタリスク社の特許は無人レジにかかわる技術分野であり、大手プレーヤーが多く存在し、先行技術文献も存在する分野です。すなわち、このような技術分野では、なかなか特許取得が難しいと考えがちです。

しかし、この特許は、開口が開け閉め不要となるという(「上向きに開口」)ユーザーメリットに着目し、かつ、これを実現する技術手段として、「シールド部」の構造を特定し、特許権を成立させています。

したがって、先行技術が多く存在技術分野であっても、新規なサービスポイントに着目し、ユーザメリットに資する点に開発投資を行い、新規な技術手段を明確化できれば、特許取得の可能性があり、この点は、企業の発明創生活動でも参考になる点です。

次回のコラムでは、アスタリスク社とユニクロ社の紛争の話に戻り、特許庁と知財高裁の判断が食い違ったポイントを解説していきます。


※「THE INDEPENDENTS」2021年8月号 - P18より
※掲載時点での情報です


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