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「経営者交代による成長戦略」

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リード・キャピタル・マネージメント(株)
代表取締役マネージングパートナー 谷本 徹さん

日本合同ファイナンス(現ジャフコ)海外投資課長、国内投資ゼネラルマネージャーを経て、2003年より日興アントファクトリー(現・アント・キャピタル・パートナーズ)投資グループ。2006年10月よりリード・キャピタル・マネージメント(株)代表取締役社長を兼務。IT・エレクトロニクス分野を中心とした投資および投資先支援を担当。投資先公開会社に、マネックス証券、バリューコマースなどがある。現在、DMP、ファイベスト、BBMF等の社外取締役に就任している。慶応義塾大学経済学部卒。日本証券アナリスト協会・検定会員。

住所:東京都千代田区丸の内1-2-1 東京海上日動ビルディング新館5F
設立:2006年10月6日 資本金:1,000万円 株主:アント・キャピタル・パートナーズ(株)
http://www.antcapital.jp/about/lcm.html

ディジタルメディアプロフェッショナル(DMP)を、創業時に投資して東証マザーズ上場まで支援してきたリード・キャピタル・マネージメント(LCM)代表取締役マネージングパートナー谷本徹氏に、ベンチャーキャピタル(VC)の支援内容について伺いました。

―DMPへの投資経緯について教えてください。
法政大学教授である池戸恒雄氏が、新構造のグラフィックスプロセッサ(GPU)を産学連携で開発する構想を、当時ジャフコで私のチームにいた本村天氏(現在は産業革新機構)がweb上で知り、池戸教授にアプローチしたのがきっかけです。

―事業構想の段階から投資検討をされたのですね。
事業計画は池戸教授と一緒に作成しました。その結果、チップ開発に最低でも10億円以上の資金が必要である事がわかりました。一方で知的財産の帰属問題や経営体制面の構築など課題も見えてきました。しかしNEC出身の池戸教授が持つ世界的水準のGPU技術の可能性に魅力を感じ、会社設立と同時に出資しました。

―共同創業者として、VCにも相当な覚悟が必要だったと思います。
当時、会社設立間もないスタートアップ段階で数億円の投資を行うケースはありませんでした。経営に深く関与する事を前提に投資リスクを取りました。私はLCMに転職後もVCとして追加投資を行い、同社の経営を支援してきました。

―創業者である池戸教授は、現在はDMP役員を退任し、大学での研究に専念されています。
池戸教授は創業時こそ社長でしたが、当初から、次期社長を招聘した後には、経営から退く事を明言していました。チップの研究開発段階と量産化段階ではマネジメントスキルは違います。会社設立2年後の2004年に、山本達夫氏を外部から社長としてスカウトしました。池戸教授は、現在も当社の大株主ですが、経営には全く関与していません。

―知的財産は新会社へどのように移転されたのですか?
特許権を現物出資によって会社設立時に移転しました。特許評価は難しく、弁護士と相談してスキームを考えました。知的財産移転後には会社価値が上がるので、そこにプレミアムをつけて投資をしました。

―山本社長はどのようにスカウトされたのですか?
ヘッドハンティング会社を通じて、何人もの社長候補面談をしました。その中からシリコンバレーにある日系企業の経営者であった山本氏に決めました。山本氏は、グローバルな視点を持ち、半導体業界に精通しているだけでなく、事業戦略構築での実績も多くありました。USに在住していた山本氏を帰国させるため、何回も電話面談をしながら、インセンティブスキームについても話し合い、最終的にはこの会社へ招聘できました。

―外部から社長を探すのは大変だと思いますが。
社長に成りたいという人は沢山います。募集すれば、多くの候補があがります。土日も使って面接するのは、大変ですが。最近のMBA 取得者には、経営を補佐するだけでなく自ら経営トップになってマネジメントする事に意欲的な人も数多くいます。もちろん、彼らに適正な報酬と合理的インセンティブは必要です。

―経営者交代が成功するポイントは何でしょうか?
まず経営者交代する事で会社の雰囲気は大きく変わります。新しい経営者は過去を否定し、新しい事に積極的に挑戦できます。ただ今までのやり方を変えるには様々な抵抗があります。社員を説得する力、外部関係者と調整する能力が求められます。新規事業に優先順位をつけて実行する決断力も重要です。

―新たに社長として就任する人にはどんなリスクがありますか?
日本では借入に際して金融機関から、社長の個人保証を求められます。持株比率の高い創業者であれば、負債リスクも引き受けられるかもしれません。新たに社長就任する人に付与するストックオプションにもインセンティブとしては限界があります。従って、経営者がスムーズに交代できるようにするためには、ベンチャー企業の財務戦略は、借入ではなくエクイティを中心に行う必要があります。

―大学発ベンチャーとして法政大学からはどのような支援を受けましたか?
法政大学の情報科学部がある小金井キャンパスは、最高の設備と人材が揃う場所だと思います。当社も、共同開発のための研究所を設けたり、卒業生を採用させて頂いたり、大変お世話になりました。実は、創業時のオフィスは、大学内の1室をお借りしていました。

―最近のVCを巡る市場環境に変化はありますか?
アーリーステージでの投資金額が増加し、種類株による投資手法が基本となりました。投資回収ではM&Aも推進していますが、やはりIPO件数の増加が重要です。IPO市場の活性化のためにも、われわれVCは機関投資家からもっと評価される優良企業を育てる必要があります。IPOディスカウント、ロックアップ規制などIPOルールの改善も望まれます。

―「Build the Company」の成功事例は増えますか?
VCが会社設立段階から出資する事例は増えています。しかし企業が成長するためには、ステージ毎に相応しい経営者が必要です。VCはリスクマネーを提供するだけでなく、経営者を探す能力も求められます。ストックオプション付与制度をもっと活用して、経営者へのインセンティブを高めたいと思います。われわれVCは、創業者と経営者の役割は違うと考えています。ベンチャー企業を成功に導くのは、経営力です。

【VC紹介】IPOを前提としない投資スタイル(日本ベンチャーキャピタル 奥原 主一)
【VC紹介】国内だけでなく海外の出資者にも評価される(アント・キャピタル・パートナーズ尾崎 一法)


※全文は「THE INDEPENDENTS」2011年10月号 - p35にてご覧いただけます