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「多孔質ガラスで強力脱臭 SaaS型モデルで周辺環境を快適化」

公開

<話し手>
株式会社ミライエ
代表取締役 島田 義久氏
松江南高卒業。1988年広島大学経済学部入学。メーカー勤務後、2000年(株)第一コンサルタント(現 ミライエ)入社。2006年から代表取締役就任。

【株式会社ミライエ概要】
設 立 :1972年1月20日
所在地 :島根県松江市矢田町250-167
資本金 :71,000千円
事業内容:多孔質ガラス脱臭システムの開発製造販売


<聞き手>
弁護士法人内田・鮫島法律事務所
弁護士 鮫島 正洋氏(右)
1963年1月8日生。神奈川県立横浜翠嵐高校卒業。
1985年3月東京工業大学金属工学科卒業。
1985年4月藤倉電線(株)(現・フジクラ)入社〜電線材料の開発等に従事。
1991年11月弁理士試験合格。1992年3月日本アイ・ビー・エム(株)〜知的財産マネジメントに従事。
1996年11月司法試験合格。1999年4月弁護士登録(51期)。
2004年7月内田・鮫島法律事務所開設〜現在に至る。

鮫島正洋の知財インタビュー

多孔質ガラスで強力脱臭 SaaS型モデルで周辺環境を快適化


鮫島:ミライエが販売する多孔質ガラス脱臭システムとはどういった特徴がありますか。


島田:生物脱臭法の一種で、悪臭を分解する微生物を担持した多孔質ガラスを用いて脱臭します。多孔質ガラス発泡剤を敷設した層に悪臭ガスを通過させることで、一般的な生物脱臭より7倍の除去効率。装置で使われる多孔質ガラスは10年程度利用可能なうえ、微生物も一度定着したら追加しないため消耗品ゼロ で運用でき大幅なコスト削減が見込めます。2016年から販売を始め、4年で50基を設置しました。

鮫島:ミライエの創業経緯を聞かせください。脱臭に特化しようとしたきっかけはあるのですか。


島田:私の父が1972年から土木設計会社として、測量や下水道管の設計をしていたのが始まりです。高度成長期にのる形で事業は伸びていたのですが、関連分野で収益源を作ろうと2000年に堆肥化装置の研究に着手しました。下水道設計技術の実用化の際は下水設計などのノウハウがずいぶん役立ちました。その後公共事業削減のあおりを受けて土木設計の仕事が激減し、環境分野に特化することにしました。

鮫島:貴社の脱臭システムの強みは、どういった場所で発揮されますか。


島田:養豚場、養牛場(肉牛・乳牛)、採卵養鶏場、汚泥、生ごみ、食品残渣などを扱う産業廃棄物処理施設や、パルプを扱う製紙会社の工場、食品加工場、肥料会社などです。有機系(動植物)脱臭で、100ppm~3000ppmなど強い臭気を発生させる事業場です。国内にはおよそ7万もの畜産農場があり、その他施設合わせると10万以上の事業所を導入ターゲットと想定しています。

鮫島:ミライエが使っている多孔質ガラスは特殊なものですか。安定供給はされていますか。


島田:ガラス瓶のリサイクルが主です。2センチ程度の多孔質ガラスは、面で広げるとテニスコートくらいあります。また、大量廃棄が予想される太陽光パネルで使われているガラス材は、その廃棄方法が決まっていません。当社の脱臭用多孔質ガラス用途では、重金属が含まれていてもそのまま使えるので、脱臭用多孔質ガラスとして再利用されていくことが考えられます。

鮫島:今後は装置販売からSaaS型モデルへの転換も考えておられます。


島田:近隣住民からの苦情に対して、迅速に、また、感覚でなくデータを用いて効率的に対処することが求められています。事業所から風にのって臭気が流れていく先々に臭気測定モニター機を設置し、悪臭が発生しそうなデータ傾向が見られる際には、アラートが発信されます。これを受信した事業者と当社とでクイックに対策を講じることで、周辺住民からの苦情を未然に防ぎます。

鮫島:今後、世界の人口が増え、食料増産ニーズや食品加工工場の増加が予想され、海外も含め貴社のビジネスチャンスは大きいと思います。進出を検討している国はありますか。


島田:中国、東南アジア、欧米には可能性を感じ始めています。例えば養豚は中国が世界シェアの半分を占めており、それが大気汚染(PM2.5)の原因となっています。いくつか賞を受賞したことで注目いただき、商社から引き合いも増え、本格的な検討を始めています。

鮫島:欧米や中国については特許出願がマストですが、東南アジアは注意が必要でしょう。1つは国数が多いので網羅するには多額の費用がかかってしまうこと。投資対効果を吟味しなければなりません。また、特許制度や裁判制度が未熟なため、権利行使が難しい事例が散見されています。高い脱臭効率という技術的な信用や廃棄ガラスの利活用という環境性、また日本でトップ企業であるといったブランドによって選んでもらう戦略が有効です。


島田:大手資本なら販路を押さえてしまうことで参入障壁を築くことができますが、我々のようなベンチャー企業はそうもいきません。特許についてもハードウェアに関するものでは、少し構造を変えるだけでコピー品を実現されるリスクもあるので、当社の脱臭設備をシステムとして捉え直すことが重要なのではと考えています。

鮫島:IoTを用いたSaaS事業として、ビジネスモデル特許を有効に取得していくことをおすすめします。従来型の装置販売とは異なる事業モデルへの転換によって特許戦略も拓けてくる可能性があり、海外展開も大いに期待できます。SDGsの文脈にも合致しており、ぜひ飛躍してもらいたいと思います。本日はありがとうございました。


*対談後のコメント

鮫島:環境問題に対して世の中が鋭敏になっていく中で、「脱臭」には大きな市場がある。消耗品が不要ゆえにランニングコストが極めて低い当社のシステムは、脱臭をサービス化して継続的収益を得ていくという方向に舵を取りやすい素地がある。ビジネスモデル特許を中核とした特許ポートフォリオの構築が望まれる。


島田:今日伺ったポイントをひとつひとつ着実にこなしていきながら、事業所の近隣住民の方々や関係者の方々を笑顔に変えていきたいと思います。ありがとうございました。

―「THE INDEPENDENTS」2021年6月号 P14-15より
※冊子掲載時点での情報です