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「地方スタートアップ動向について」

公開

<特別レポート>

2021年5月10日 インデペンデンツクラブ会員総会



谷井 等 氏(株式会社ペイフォワード 代表取締役)
國本 行彦 氏(株式会社Kips 代表取締役)
<聞き手>秦 信行 氏(インデペンデンツクラブ 代表理事)


秦:新たにインデペンデンツクラブ理事に就任された谷井さんより、地方スタートアップの動向について特に関西を中心にお話をお伺いしたい。




谷井:数年前までは首都圏一極集中であったが、ここに来て変わり始めているように思う。例えば、関西からの上場企業数を見ると2016~2019年では10%前後だったものが、
2020年には15%に上昇している。
首都圏のスタートアップは2000年前後からエクイティ資金の調達、先行投資による赤字での上場といったハイグロース・モデルを一般化していた。それに対して関西のスタートアップはなまじ伝統的に商売が上手く早期に黒字に出来るため、ローリスク・ローリターンの企業になることが多かった。1990年代に数多く立ち上がったECスタートアップも関西が先行していたが、大きく市場を勝ち取るに至らなかった。しかし、それがここに来て情報格差の縮小もあって、関西でもデットからエクイティ・モデルに代わりつつあるのではないか。

國本:1995年よりジャフコ関西支社に在籍し、2000年に谷井さんが創業したシナジーマーケティングへ投資させてもらった。しかしその後が続かず、多くの起業家が関西を離れ、起業家のモデルケースが定着しなかった。それが、ここに来て関西でも谷井さんのようなシリアル起業家が現れ、行政も動き出して好循環が生まれつつあるようだ。関西にはITだけでなくバイオや地場産業もある。昨年大きく増えたIPO数は一過性ではないと期待している。

秦:谷井さんは大阪府ベンチャー企業成長プロジェクト「Booming」を監修し、目標とされた3社のIPOを実際に達成された。具体的にどのようなプログラムになっているのか。

谷井:先輩起業家が後輩起業家を支援するプログラムとして2015年にスタートし、今年で7期目になる。ポイントを起業家の人間力向上に置いて、起業家の志、人間性の陶冶を目的に取り組んでいるのが他にない特徴だ。VCや営業先の紹介などは行っていない。
大阪で上場を経験した、49歳以下の起業家10人程度がメンターとなり、選ばれた若手起業家を半年間1on1で面倒をみる。私について言うと、事業成長のためには目標設定とその着実な実行が求められると思っており、毎月1ヶ月の目標を決めてもらい翌月それが実行できたかどうかを聴いている。出来ていない場合はかなり厳しく指導している。加えて、起業家同士で人に言えないことを話し合うクローズドな会を設け、自身の成長を促すことを行っている。

秦:大阪以外では地元に上場経験者が少ないという声を聞くがどうしたらいいか。

谷井:地元にはいなくても、東京には地方出身の起業家が数多くいる。彼らにメンターをやってもらう枠組みを考えたらどうだろうか。
國本:インデペンデンツクラブでは、(株)ショーケース(東証一部)創業者の森雅弘さんはじめ、首都圏にいる石川県出身の起業家と地元スタートアップをつなぐ取組みをサポートしている。みな地元愛が強く惜しみない支援をしてくれるのでワークし始めているように思う。

秦:最後になるが、新任理事として、これからのインデペンデンツクラブへの課題についてアドバイスを頂きたい。

谷井:日本も社会全体がスタートアップのチャレンジに期待するようになり、またスタートアップがこの国の経済を牽引していかなければならない時代になった。その中で、地方には多くのチャンスが眠っているが、大都市圏とのギャップは依然として残っている。その課題にインデペンデンツクラブは貢献して頂きたい。


※「THE INDEPENDENTS」2021年6月号 - P16-17より
※冊子掲載時点での情報です