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「インプラント手術の準備から術後までをトータルナビゲーション」

公開

<話し手>
Safe Approach Medical株式会社
代表取締役 曺 柄炫 氏
1981年10月3日生。2010年韓国国立慶北大学電子電気コンピュータ学部修士課程修了。2014年九州大学大学院医学系医学府博士課程修了。2014年Koh Young Technology Inc. 医療機器開発部 課長就任。2015年日本学術振興会外国人特別研究員就任。2019年九州大学先端医療イノベーションセンター特任助教就任

【Safe Approach Medical株式会社 概要】
設 立 :2017年3月22日
所在地 :福岡県福岡市早良区百道浜3-8-33
資本金 :33,100千円
事業内容:歯科インプラント手術ナビゲーションシステムの開発


<聞き手>
弁護士法人内田・鮫島法律事務所
弁護士 鮫島 正洋氏(右)
1963年1月8日生。神奈川県立横浜翠嵐高校卒業。
1985年3月東京工業大学金属工学科卒業。
1985年4月藤倉電線(株)(現・フジクラ)入社〜電線材料の開発等に従事。
1991年11月弁理士試験合格。1992年3月日本アイ・ビー・エム(株)〜知的財産マネジメントに従事。
1996年11月司法試験合格。1999年4月弁護士登録(51期)。
2004年7月内田・鮫島法律事務所開設〜現在に至る。

鮫島正洋の知財インタビュー

インプラント手術の準備から術後までをトータルナビゲーション


鮫島:歯科業界は、歯科医院や医師数の増加があり、高齢化が進んでいるため口腔関連市場の拡大や高度歯科治療のニーズは高いですね。コストや医師の扱う先進医療技術も気になります。


曺:医療機器まわりのソリューションに強みを持つ当社は、インプラント手術に対するマーケットのニーズに着目しました。そこで、まず総合病院をターゲットにしました。総合病院の手術では、執刀医以外に、手術の準備にかかわる医師やスタッフが大勢います。
ところが手術の手前まで、いわゆる準備段階でかかるコストは全体管理費でカウントされおり、コストとして顕在化されていないことがわかりました。売り込む先としては弱いと感じました。そこで我々は開業医に注目しました。個人クリニックで行われているインプラント手術の多くは医師が一人で対応しており、コストが高くなりがちです。開業医の意見を入れながら、ソリューション検討と開発、ビジネスモデルを構築しました。

鮫島:貴社のナビゲーションシステムと組み合わせている医療機器は、脳外科手術や耳鼻科の手術で用いられている機器だと伺いました。


曺:当社の歯科インプラントナビゲーションシステムの核は、赤外線センサーを用いて対象物の3次元位置を計測し、ドリル先端と患者口腔内の位置関係を計算、直感的にわかるよう3D表示する技術です。インプラント手術現場の大半は、熟練歯科医師の経験に頼って行われています。当社のナビゲーションシステムを経験の浅い方でも使っていただくことで、3D画像によるアシストを受けながら誤差1mm以内かつ低侵襲でのインプラント手術が可能になります。

鮫島:インプラント手術にあわせてプロセスをどのように整理したのでしょうか。貴社ならでは、といった特徴はありますか。


曺:インプラントナビゲーション手術のプロセスは石膏モデル製作やマーカープレート装置の準備、CT撮影、Segmentation 3Dモデル製作、登録、設計、手術実行となっています。当社のシステムをお使いいただくと、手術の前工程を歯科ラボサポ(技工所)が一括支援、一括管理することで、現場の医師の負担を軽減します。歯科医院とサポートステーション間をクラウド基盤ソリューションでつなぎ、手術の準備、そして手術自体を円滑に行うしくみを作りました。このモデルで現在特許申請準備をしています。

鮫島:貴社のシステムは、手術そのものだけでなく、歯科医の先生が行う全プロセスをサポートするのになっている。だから使い勝手が良いということですね。


曺:歯科医院側で、3Dモデルを作成するための画像や関連データをアップロードします。歯科ラボサポートが、クラウドを通じてデータを取り込み、手術に向けた準備をすすめていきます。手術以外の部分は歯科医師でない人が請け負えるしくみです。今は基本機能ですが、追加機能も実装していきます。

鮫島:貴社の知財の状況と他社製品の国内の販売動向を教えてください。


曺:私自身が九州大学大学院で、10年ほどかけて研究開発したもので、九州大学から特許出願をしました。そして自社設立時に、今後のビジネスの展開を考え、九州大学から本製品にかかわるすべての特許を買い取りました。国内の他社動向ですが、3社が先行して製品を販売しています。まずイスラエル製のものが日本に入り、カナダ製、そしてアメリカ製で大手企業のものがあります。

鮫島:医療機器は特許が切れた後でもなかなか真似出来ないといわれています。薬は一度成分や混ぜ方を決めてしまえば、後発企業は、成分が同じかほぼ似ているジェネリック薬を製造するといった、シンプルなビジネスモデルがとれます。医療機器の多くは、特許で守られている十数年間に現場のノウハウなどを得て、当初の技術が改良され、実装されています。このあたりが、市場に参入していなかった他社ではなかなか真似出来ないノウハウの結集となっているのです。ですから、特許切れをしたとしても、先行する医療機器と同様のものが作れるわけではないのです。


曺:それゆえ、当社は医療機器そのものの開発には入らず、むしろソリューションを重要視し、モデルを考え出しました。既存の手術フェーズやドリルシステムをこれまでどおりお客様自身に使っていただきながら、インプラント手術の全プロセスをオンラインでサポートするところにモデルを作りました。

鮫島:インプラント手術の多くは、今は自由診療ですが、今後の展開についてどうお考えですか。


曺:ナビゲーションシステムを使いながら行われている脳外科手術などには、既に保険適用がされています。点数は2000点です。我々はそこにも商機を感じています。大手が既に参入しているため、互いに切磋し、このナビゲーションシステムの良さが世間に認知され、やがて保険適用手術になること、そこで一機にスケールすることを期待しています。

鮫島:大手企業とベンチャーとでは、とれる特許戦略は異なります。大手企業が、ハードウェアで基本特許を取る場合、潤沢な資金力を活かして、周辺特許をいくつも申請することで、基本特許を守りに入ります。一方、資金調達とビジネスモデルの進化や技術開発を同時に行わなければならないベンチャーは、今回のケースのように、まずは運用モデルで基本特許を取得する。次に、現場の声をききながら追加実装した部分について追加特許を取りにいく。こういう流れが自然であると思います。引き続き、追加特許の検討面含め弊所からも知財戦略をお手伝いいたします。


*対談後のコメント

鮫島:インプラントのナビゲーションは、国内で4社が参入している寡占市場となっており、新規参入する場合には、既存のプレイヤにない特徴が求められる。当社は、現場の歯科医師とともに使いやすいナビゲーションシステムの開発や改良に取り組んでおり、現場ニーズを反映していける開発体制に強みがある。後発企業や大手の巻き返しにあわないよう、その中で生まれる知財を確保・維持することが重要であるように思われる。


曺:患者や医師両方から、サービスに対する厳しいチェックの目がある日本市場で販売実績を積み、国内で資金を蓄え、それからアジア市場、米国、欧州市場へとビジネスを広げていくことを目標にしたいと思います。本日はありがとうございました。

―「THE INDEPENDENTS」2021年5月号 P14-15より
※冊子掲載時点での情報です