アイキャッチ

「」

公開
2021年4月5日 インデペンデンツクラブ月例会
【特別セッション】「J-Startup地域版の取り組みと展望」

<聞き手>
認定NPO法人インデペンデンツクラブ
秦 信行 氏(写真左)

<話し手>

南 智彦 氏(北海道経済産業局 地域経済部 産業技術革新課 課長補佐)
石山 浩太郎 氏(東北経済産業局 地域経済部 産業技術革新課 総括一係長)
白川 裕也 氏(仙台市 経済局 産業政策部 産業振興課 創業支援係 主任)
鷲見 敏雄 氏(名古屋市経済局 イノベーション推進部 スタートアップ支援室 室長)
増井 浩行 氏(近畿経済産業局 創業・経営支援課 総括係長兼ベンチャー支援担当官)


<コメンテータ>
松田 修一 氏
(認定NPO法人インデペンデンツクラブ名誉会長

秦:各地域のスタートアップの輩出状況は以前と比べてどうか。


関西(増井):古い情報になりますが、関西の開業率は2012年の約4.5%が2017年には約6.6%に増えたというデータがある。大学発ベンチャーは確実に増えていて、自治体のアクセラレータープログラムなども増えている。起業家の年齢では当局が独自に調査している関西ベンチャー企業の実態調査を見ると40代が約30%、50代が約27%と40~50代が過半を占めている。

中部(鷲見):もともと起業活動は余り活発ではない地域であった。最近では大学を中心に確実に活発化しており、それは資金調達動向を見ると分かる。Initialのデータによると、名大関連の資金調達額が東大や慶応の調達額に近づいている。テック系の有望なスタートアップが出て来ており、アントレ教育の貢献もあって学生起業家なども出て来ており20~30代の起業家が目立つ。

東北(白川):J-Startup TOHOKUに選定された仙台企業の内、3分の1が大学発だ。東北大ではGAPファンドや起業部の創設が効果を生んでいる。仙台市のアクセラレータープログラムは4期目で対象は合計60社になっている。福島ではUIJターン組の起業など、山形では山大工学部(米澤)や慶応先端研関連(鶴岡)など、秋田では「ドチャベン(地域に根ざした土着ベンチャー)」など、岩手では岩銀やFVCによる支援、青森では県と市のそれぞれの支援制度や第二創業的な企業への支援など、各県で新しい動きが始まっている。

北海道(南):かつて札幌は「サッポロバレー」と呼ばれ、スタートアップ育成の土壌はあったが、札幌市が2019年10月に「STARTUP CITY SAPPORO」宣言を行うなど、再活性化している。J-Startupの選定に当たって北海道内を歩きまわったが、支援対象となるスタートアップは、道内全体で見ると100社程度はあるのではないかと想定している起業家の年齢で言うと30~40代が多く、自身の専門分野で起業する人が多いように思う。

秦:各地域でグローバルに展開出来そうなスタートアップはどれ位あるのか。


北海道(南):結論から言うとまだまだ一部だ。ただ、社員の半分以上が外国籍だったり、起業段階からグローバル市場を目指しているような企業も少なくはない。

東北(石山):将来的に海外進出する企業を選んでいる。中でもテック系は最初から海外市場を意識している。販路のパートナーが見つかり既に進出済みのところも出て来ている。
中部(鷲見):グローバル拠点都市として内閣府のアクセラレータープログラムへの参加と併せてスタートアップを選定したこともありグローバル展開を前提に選んでいる。中でも技術力があり圏内グローバル大企業と結びつく事業を行っているスタートアップはグローバル展開が見込めるように思う。

関西(増井):現状海外展開支援のノウハウがなく、その獲得を急いでいるところだ。個人的には海外展開にはプロダクト・マーケット・フィットと地の利が必要で、その意味ではディープテック系は市場ニーズが世界共通であるため展開は比較的容易であるし、地の利という点では社員や投資家に海外の人材がいるスタートアップは有利なのではないかと思う。

秦:支援側として各地域で特に不足しているものがあるとするとそれは何か。


関西(増井):東京と比べてヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源は依然足りないと思う。ただ、その差は小さくなっている。強いて挙げるとすればリードを取れるVCと人材。エンジニアもそうだが、プロ経営者といえる人材は不足していると思う。

中部(鷲見):資金やVCもそうだが、メンタリングをしてくれるような先輩起業家が少ない。グローバル拠点都市になり東京のVCからの引き合いは増えているようだが、名古屋にゆかりのある起業家のネットワークも構築し、名古屋発スタートアップが育つ土壌を整備していく。

東北(白川):現在スタートアップ戦略を作成中だがリードインベスターやシード資金が不足している。経営者人材も同様。東北大では経営者人材を抱え込んでマッチングを行ったり、卒業生=アルムナイを活用したりしている。地場の経営者にアドバイザリー・ボードに入ってもらうことも行っている。

北海道(南):道内にはVCなど資金の出し手が少ない。したがって東京とのパイプを太くする必要がある。それは札幌でも言えることだ。また、北海道の特性を活かした起業家のコミュニティの層を厚くすることで、道外サポーターを呼び込みや、エコシステム構築を進めていく。

秦:地元民のスタートアップへの理解度はどうか、前向きに対応してくれているか。


北海道(南):札幌でもスタートアップという言葉自体何なのかを分かっている人は少ないように思う。ましてやJ-Startupという言葉を理解している人はもっと少ない。中高生の段階からの起業教育や意識付けは重要であるため、市民の理解度を高めて行くことは必要。

東北(白川):2013年に仙台市は「日本一起業しやすい街」を掲げたが、それはスモールビジネスを意識し、多様な働き方の一環という意味合いが強かった。そのため起業やスタートアップが市民権を得たとまでは言えない。市民権を得るためには、それが住民の方々にどのようなメリットをもたらすのかを見せることが重要で、神戸のアーバン・イノベーションの取り組みに倣って地域の方々にリビング・ラボのようにイノベーションの成果に触れてもらい成果を実感してもらう必要があると思う。

中部(鷲見):意識は変わって来ている。小中学生を対象にした起業家育成事業を始めたら定員の4~5倍の申込みがあった。親の理解が変わって来ているのだと思う。中部を代表する大手の自動車系企業を中心に理系教育を行って来た土壌もあり、現状イノベーションやスタートアップの重要性を謳っていることも追い風になっている。

関西(増井):関西では、J-Startup KANSAI企業を支援するサポーターの募集で57社に手を挙げて頂けた。これまではスタートアップを支援したくてもどうすればいいのか分からないといったこともあったと思うが、J-Startup KANSAIが出来たことで民間に意識が広がり、スタートアップを受け入れるコミュニティが拡大したように思う。

松田:地域のスタートアップエコシステムの中核は大学であり、本日の4拠点では優れた大学が活発な活動を行っている。J-Startupを地域のスター企業と捉え直すと、これを支える地域住民との交流は不可欠だ。子どもたちがキラキラした眼差しで興味関心を持ってくれるかどうか、起業家を評価する文化を醸成することが重要である。そのためにも、スタートアップ支援を10年1単位として、継続していかれることを期待したい。



※「THE INDEPENDENTS」2021年5月号 - p16-17より