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「材料ベンチャーの次世代型ビジネスモデルと知財戦略」

公開

<話し手>
SyncMOF株式会社
代表取締役 畠岡 潤一 氏(左)
早稲田大学卒業後、(独)科学技術推進機構にて日系測定メーカーに出向し、MOFに関わる装置の開発、評価基準策定に従事後、外資系コンサルにて医薬、GMS、小売など多岐に渡り、業務改善や課題解決など経験。2019年6月当社設立、代表取締役就任。

【SyncMOF株式会社 概要】
設 立 :2019年6月20日
所在地 :愛知県名古屋市千種区千種2-22-8 名古屋医工連携インキュベータ403号
資本金 :7,000千円(資本準備金含む)
事業内容:新規多孔性材料の合成及び製造/性能評価/性能評価装置の開発及び新規デバイス開発/販売

<聞き手>
弁護士法人内田・鮫島法律事務所
弁護士 鮫島 正洋氏(右)
1963年1月8日生。神奈川県立横浜翠嵐高校卒業。
1985年3月東京工業大学金属工学科卒業。
1985年4月藤倉電線(株)(現・フジクラ)入社〜電線材料の開発等に従事。
1991年11月弁理士試験合格。1992年3月日本アイ・ビー・エム(株)〜知的財産マネジメントに従事。
1996年11月司法試験合格。1999年4月弁護士登録(51期)。
2004年7月内田・鮫島法律事務所開設〜現在に至る。

鮫島正洋の知財インタビュー

材料ベンチャーの次世代型ビジネスモデルと知財戦略


鮫島:社名に掲げる通り、MOFを扱う名古屋大学発ベンチャーとして2019年に創業されました。


畠岡:私が科学技術振興機構でMOFの研究に従事していた頃、同じグループに当時理化学研究所に在籍していた取締役副社長の堀彰宏(その後、名古屋大学大学院工学研究科応用物質化学専攻助教に就任)と出会い、MOFの将来性に対して意気投合したのがきっかけです。 そもそもMOF (Metal Organic Framework)とは、金属と有機配位子を組み合わせることで、ジャングルジムのような骨格を形成する多孔性材料のことです。その組み合わせを変えることで、特定のガスのみを選択的に吸着・分離する等さまざまな機能をデザインすることができます。歴史は20年と浅いものの、世界中で開発が進んで約10万種類のMOFが報告され、エネルギー・医療・宇宙などあらゆる分野での活用が期待されています。

鮫島:創業2期目ながら、既に60社を超える一部上場企業と取引実績があり、数億円の売上を見込んでいます。その背景として、昨今の石油からガスへの産業エネルギー構造の転換が追い風になっているのでしょうか。


畠岡:おっしゃる通りで、エネルギー資源は固体(19世紀・石炭)→液体(20世紀・石油)→気体(21世紀・ガス)と変遷しています。しかしながら、固体や液体と比べて、気体はその制御が極めて難しく確立された手法が未だありません。また、いずれもエネルギー資源の周辺ビジネスを押さえたプレイヤーが時代の勝者になっており、今後いかにガスを効率的に低コストで分離・貯蔵・運搬する技術や材料を開発できるかが鍵を握ります。当社では、MOFによるガス制御のノウハウを総動員して確固たる地位を築いていこうと考えています。

鮫島:当分野では特定用途のMOFを一プロダクトとして販売するベンチャーが国内外で増えてきています。貴社はどのようなビジネスモデルで事業展開を考えているのでしょうか。


畠岡:まず単にMOFを合成し供給するだけの事業はやりません。それは、温度や圧力など環境条件によって同じ物性のMOFでもパフォーマンスが全く異なるから。お客様から求められているのは課題解決であってMOFはあくまで手段です。当社はいわばMOFを軸としたガスの総合コンサルティング・エンジニアリング会社であり、提案のみに留まらず、合成や物性評価、実装デバイスの開発、装置をより使いやすくするためのAIやRPAの導入まで、お客様のビジネスの成功に深くコミットするスタイルを採っています。これを実現可能にしているのが、化学だけでなく物理・工学・情報分野など様々な研究分野から集まったプロ集団であり、当社の大きな強みです。

鮫島:ガス産業界のかかりつけ医として、企業が抱える悩み、時には無理難題が集まってくる訳ですね。特許化できるネタがいくつもありそうですが、貴社の知財戦略に関する取組みは如何でしょうか。


畠岡:当社はMOFを組み込んだデバイスまで作り込むので、それを社会実装する企業と共同でビジネスモデル特許や用途特許など様々な形態を検討しています。とはいえ、従来の材料系ベンチャーと大きく異なり、物質特許を重要視していません。一部の置換基を変えるだけで同程度の性能を持つMOFを再現され特許を回避されてしまうからです。

鮫島:これまでの知財インタビューでも取り上げてきましたが、汎用技術を扱うベンチャーは如何に出願する特許を絞りROIを最大化できるかがポイントになります。これに対し、貴社のような特許化せずとも模倣困難性を担保できるケースは他に見たことがありません。良い意味で知財戦略の常識を逸しています。


畠岡:当社独自でMOFの測定評価装置も開発していますが、販売はせず利用してもらうのみです。材料も装置も目に見えないことを大切にしているとも言えます。また、材料系ベンチャーの多くが安価にその材料を生産するために自社工場を作りがちですが、大手企業レベルの製造スケールに対してはコスト競争力で全く歯が立ちません。知財戦略含め新たなビジネスモデルを模索しなければならない局面にきており、我々も大手企業幹部とディスカッションしながらそこにチャレンジしています。

鮫島:ベンチャーが新たなビジネスモデルを構築し、大手企業の製造設備などアセットを活用する時代が到来しつつあります。貴社は卓越した技術もモノも有していますが、コンサルティングを中核に据えたナレッジビジネスを展開しているのだとお見受けしました。これからの材料系ベンチャーのモデルケースになれる可能性を秘めており、契約面含め弊所からも全力で知財戦略をお手伝いいたします。本日はありがとうございました。


*対談後のコメント

鮫島:何百種類もあるMOFについて構造の特許を取得することは、ベンチャー企業の費用面、労力面から無理がある。そこで、MOFを用いたビジネスモデルや、そのビジネスモデルを遂行する際に必要とされるハードウエアなどについて特許化をするという知財戦略は、解析困難性を付与するという独特の技術によって担保されており、極めて斬新かつ有効な考え方のように思われる。


畠岡:来たるガス時代を見据えて世界中で様々なソリューションが提供されているが、弊社が世界の舞台で戦っていく中で、特許戦略は重要な位置づけになっている。国内は勿論、海外の国々でガスに対する規制や習慣が異なる為、そこを理解しながら事業戦略にまで落とし込んでいく必要がある。あらゆる領域のエキスパートとコラボレーションしながら日本発のビジネスモデルを世界に広げていくことを目標にしている。

―「THE INDEPENDENTS」2021年4月号 P16-17より
※冊子掲載時点での情報です