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「知的財産権侵害の場合の損害賠償請求は高額になる?」

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弁護士法人 内田・鮫島法律事務所
弁護士/弁理士 高橋 正憲 氏

2004年北海道大学大学院工学研究科量子物理工学専攻修了後、(株)日立製作所入社、知的財産権本部配属。2007年弁理士試験合格。2012年北海道大学法科大学院修了。2013年司法試験合格。2015年1月より現職。

【弁護士法人 内田・鮫島法律事務所】
所在地:東京都港区虎ノ門2-10-1 虎ノ門ツインビルディング東館16階
TEL:03-5561-8550(代表)
構成人員:弁護士25名・スタッフ13名
取扱法律分野:知財・技術を中心とする法律事務(契約・訴訟)/破産申立、企業再生などの企業法務/瑕疵担保責任、製造物責任、会社法、労務など、製造業に生起する一般法律業務
http://www.uslf.jp/


1 はじめに

 特許権等の知的財産権侵害の損害賠償請求では、時に数十億円という高額な損害賠償額が認容されることがしばしばあります。今回のコラムでは、その構造について、概観してみようと思います。

2 知的財産権侵害の特別なルール

  損害賠償の基本法則は、民法に規定があります。民法709条によれば、原告が、違法行為と損害額との因果関係を立証しなければなりません。この民法709条の原則の下で、特許権侵害を考えてみると、特許権者が侵害行為と損害額の因果関係を立証しなければなりません。 しかし、現実の世界では、侵害行為に起因していくらの損害が出たのか?侵害行為に起因していくらの売上が減少したのか?ということは、立証することは困難です。 そこで、特許法(*1) では、以下の3つ額を損害額と推定する特別なルールを定めています 。(*2)

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【ルール1:特許法102条1項】
特許権者の物の単位数量当たりの利益の額×侵害者の譲渡数量

【ルール2:特許法102条2項】
侵害者の物の単位数量当たりの利益の額×侵害者の譲渡数量

【ルール3:特許法102条3項】
実施料相当額

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ルール1では、特許権者が自身の利益と、侵害者の譲渡数量(*2)を立証すれば、損害賠償額が計算できるルールとなっています。

ルール2では、特許権者が、侵害者から売上データ等の資料の提出を受け、侵害者の利益と、譲渡数量を立証すれば、損害賠償額が計算できるルールとなっています。

ルール3では、実施料相当額が損害賠償額とできるルールです。近時の二酸化炭素含有粘性組成物事件(知財高判決令和1年6月7日)では、ルール3にて裁判上での解決を図る場合、実施料相当額は「特許権侵害をした者に対して事後的に定めるべき」ものであるから、諸般の事情を考慮し、通常の実施料契約をして解決する場合に比べて、高額の賠償額となることが示されています 。

3 知財侵害の特別なルールから学ぶこと

 以上、見てきたように、知財侵害の損害賠償では、権利者の立証困難を救済する制度が定められており、売上規模が大きい等の事情があれば、損賠賠償額が高額化しやすい傾向にあります。企業活動に際しては、損害賠償額が高額化しうるとの視点からしても、他社の知財を尊重することが大切であることがわかります。

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*1 特許法以外の知財法も同様の規定を定めています。
*2 実際の条文では、さらに詳細な取扱いも定めていますが、知財侵害の基本枠組みを説明する趣旨で、本稿では詳細は割愛します。
*3 特許権侵害訴訟では、侵害者の譲渡数量の立証は、侵害者が売り上げデータ等を任意に提出する運用で立証が行われることが多いです。侵害者が任意の提出に応じない場合、文書提出命令の制度により、立証されることもあります。


※「THE INDEPENDENTS」2021年4月号 - P18より
※掲載時点での情報です