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「創薬支援事業から新薬開発事業への転換」

公開

<話し手>
株式会社エヌビィー健康研究所
代表取締役 高山 喜好 氏(左)
生年月日:1967年3月12日 出身高校:札幌南高校
1994年3月東京大学薬学部・同大学院博士課程修了。大正製薬(株)医薬研究所主任研究員、ハーバード医学部BHW病院フェロー(2000年~2002年)を経て、2006年7月当社設立、代表取締役就任。

【株式会社エヌビィー健康研究所 概要】
設 立 :2006年7月7日
所在地 :北海道札幌市北区北21条西12丁目2-301号
資本金 :108,600千円
事業内容:新規バイオ医薬品探索開発

<聞き手>
弁護士法人内田・鮫島法律事務所
弁護士 鮫島 正洋氏(右)
1963年1月8日生。神奈川県立横浜翠嵐高校卒業。
1985年3月東京工業大学金属工学科卒業。
1985年4月藤倉電線(株)(現・フジクラ)入社〜電線材料の開発等に従事。
1991年11月弁理士試験合格。1992年3月日本アイ・ビー・エム(株)〜知的財産マネジメントに従事。
1996年11月司法試験合格。1999年4月弁護士登録(51期)。
2004年7月内田・鮫島法律事務所開設〜現在に至る。

鮫島正洋の知財インタビュー

創薬支援事業から新薬開発事業への転換


鮫島:製薬業界において最も重要で魅力的なターゲットの一つとされるGPCR(Gタンパク質共役受容体)に対する創薬の技術革新を目指して2006年に創業されました。


高山:抗体によるGPCR創薬(GPCR抗体創薬)は低分子医薬品に代わる新しいアプローチとして、標的に対する特異性の高さ、全身暴露を抑えることができるなど優れた点が期待されています。しかし、GPCRを標的とした場合には抗体作製が難しい点がネックとなり可能性を引き出せずにいました。当社では、予てからGPCRを標的にした機能性モノクローナル抗体に着目し、その中で抗体取得技術プラットフォームの開発を進めてきました。2016年に本格的に新薬開発に応用できる段階に到達し、これをMoGRAAディスカバリーエンジンと名付け、GPCR創薬の新たな分野を開拓しています。

鮫島:創業時はシーズ探索に特化したバイオテック企業として創薬支援事業を展開していましたが、自社での新薬開発に重点を置いた事業に大きく転換されました。

高山:現在は革新的医薬品の発見~開発~臨床開発が出来るバイオ創薬企業を目指して、主に慢性炎症、線維症、そしてCOVID-19をはじめとする重症ウイルス感染症治療薬を戦略領域としています。この事業転換により、それまでは開発シーズ探索の時点で特許出願を行っていましたが、より製品に近い、具体的には前臨床に入る前のヒト化最適化終了後の段階で特許出願する方針に変更しています。これによって、上市後の知財有効期限を従前より長く確保することができ、その価値を高めることができると考えています。

鮫島:特許残存期間はライセンスインする製薬企業にとって収益に直結するので、非常に重要な視点です。また、前臨床まで開発を進めることで確実性を証明するデータも増えるので、ライセンス交渉にも優位に働くでしょう。

高山:創業当時の2000年代は製薬企業も如何に早い段階でリーズナブルに創薬シーズを青田買いできるかが至上命題でしたが、今は有効性や安全性をきちんと見極める傾向にあります。当社でも今後は後期臨床試験を含めたフルスケールの開発機能を持つグローバル創薬企業として、メガファーマと対等に渡り合える体制を構築していきます。

鮫島:これまでの収益が絶たれる分、この事業展開は大きな決断だったかと思いますが、改めてその背景をお聞かせください。

高山:創薬パイプラインが拡充されてきた面もありますが、未上場でも大きな資金調達をできるようになったのが大きいですね。特に海外のベンチャーキャピタルからはじっくり臨床試験段階まで開発を進めてより高い時価総額でのExitを目指しなさいと提案されます。現在シリーズCの資金調達ラウンドにおいて、中国のベンチャーキャピタルと2桁億円規模の出資に向けて最終調整中ですが、欧米の二番煎じではない全く新たな医薬品開発を是が非でも中国は実現したい思惑もあるようです。患者が多く臨床試験は早く安価に進められるし製薬工場等のインフラも整備されている。しかし、新規医薬品候補がない。そこで当社に関心を持っていただいた訳ですが、提案いただいた内容を見てもダイナミズムのある国だなと感じました。

鮫島:私ども内田・鮫島法律事務所で事業転換以前の基本特許のリニューアル含め支援させていただいておりますが、今後の知財戦略はどのようにお考えですか。

高山:ライセンス対象となる知財は開発抗体の物質特許で取得し、これに合わせて用途特許や製剤特許で市場を築いていこうというのが今後の戦略です。2024年2月に計画しているIPOでの調達含め300億円の資金があれば上市医薬品と後期臨床開発品が2027年までに複数開発完了できる見通しです。まだまだ気が抜けない状況に変わりはありませんが、ロードマップは明確であり、あとは信じてくれる投資家を集めるのみです。

鮫島:今日に至るまでに相当の苦労があったことが垣間見えます。ペプチドリームに代表されるように国内では創薬プラットフォーム企業に投資が集まりがちですが、貴社の成功によって自社でパイプラインを持ちグローバルで勝負できる日本発のバイオ創薬企業への投資が加速することを期待します。本日はありがとうございました。


*対談後のコメント

高山:当社では、創業以来のビジネスモデルをここ数年、大きく転換しています。これまで作り上げた知的資産を現在進行中のビジネスモデルにおいても無駄にせず、どうマネタイズするかは大きな課題です。今回の鮫島先生との座談会を通じて、知財を今の当社のビジネスモデルに合わせていかにリニューアルするか、また今後はどういうタイミングで特許出願すると当社ビジネスモデルにおいて最適かのヒントを得ました。

鮫島:創薬ベンチャーに対する厳しい日本の投資環境の中、いくつかのピボットを経て、エグジットへ向かっている特筆すべきベンチャー企業である。知財戦略に対する考え方、その投資規模にも十分な合理性が担保されており、それらを含めて今後のバリュエーションにつながっていくように思われる。今後の成功を期待したい。


―「THE INDEPENDENTS」2021年2月号 P8-9より
※冊子掲載時点での情報です