アイキャッチ

「日本で成功する投資モデル」

公開


アント・キャピタル・パートナーズ株式会社
代表取締役会長兼社長 尾崎 一法さん

石川島播磨重工業を経て、1984年日本合同ファイナンス(現ジャフコ)へ入社。取締役国際営業部長、取締役事業投資部長を歴任する。1998年から日本国内で本格的なマネージメントバイアウト投資を行う。総投資実績は約110億円。1999年、上級副社長としてGEキャピタルへ参画。GEの日本における本格的なプライベートエクイティ投資事業の立ち上げを行う。総額200億円のプライベートエクイティ・ファンド設立。2001年4月、当社代表取締役就任。現在、代表取締役会長兼社長。2004年より日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)理事、2005年より日本プライベート・エクイティ協会理事。上智大学経済学部卒。

住所:東京都千代田区丸の内1-2-1 東京海上日動ビルディング新館5F
TEL:03-3284-1711 設立:2000年10月23日 資本金:3,086,945,965円

http://www.antcapital.jp/

―ファンドの役割
尾崎:企業の成長のために、どのような株主が投資先の成長発展に最適かを考える必要がある。アントの投資先であるトライウォールを昨年CITICキャピタル(中国の半官半民投資会社)に譲渡した。特殊重量ダンボールを中国からアジア圏全域で展開を図っている同社の更なる成長のためだ。将来はCITICキャピタルの支援の下、香港上場も視野に入れる。高い技術力やサービスを持つ日本の中堅企業の再成長シナリオを描いていくのが我々投資会社の役目だ。

―ファンド同士の世界的ネットワーク
尾崎:世界中のVCやPEとアントは常に情報交換を行っている。ファンドには個別企業ではカバーできない豊富なネットワークがある。GP(ファンド運営者)は、LP(出資者)と協力しながら、どのように投資先を支援するかを考えている。ファンドが介在することで、日本企業のアジア進出、もしくは中国企業の日本企業との提携・協働のお手伝いができる。

―日本の位置づけ
尾崎:アメリカの研究開発資金は莫大だ。多くの大富豪の寄付が民間レベルでのR&D資金を支えている。日本は量産化のモデルを作るのが得意だった。工作機械を作るための工作機械(マザーマシーン)が製造できるのはドイツと日本だけとも言われる。日本の職人技は世界一。近年は中国が量産体制を築くことが多くなったが、中国人にはまだ職人技は真似できない。本間ゴルフは中国資本が株主となったが、ゴルフクラブは日本の職人の技で製造することに価値がありブランドとなっている。

―変化する金融市場
尾崎:1971年のニクソンショックで360円から308円となり、さらに今日の80円台までに上昇するのに40年間かかった。中国はその1/3の期間で元高となりうる。10年以内に1ドル=50円、1ドル=1元の時代が来るかもしれない。わが国の国際分散投資は加速し、海外資産からの配当収入が確実に増える。斜陽化していくかもしれないが日本には富の蓄積がある。1970年代から80年代のイギリスでバイアウト投資が盛んになった状況に似ている。日本の金融市場も変化が必要。証券市場が統合されたり、改革案が出されただけでは投資家のマインドは変わらないだろう。TOKYO AIM市場という選択肢が増えるのは良いこと。イギリスでは何度もジュニアマーケットが試行錯誤を経てAIM市場ができた。日本の金融市場が閉鎖的でこのまま変わらなければ、投資資金は国内からも海外からも集まらなくなる。

―日本で成功する投資モデル
尾崎:シリコンバレー型のVC投資モデルはもう日本では成功しない。フェイスブックのように世界的インフラとなる会社は英語をベースとする米国からしか出てこない。インキュベーション(創業支援)で10百万円の投資が10倍になる。1億円のベンチャー投資が10億円になる。さらにその中からDeNA、楽天のような成功企業はこれからも出てくるだろう。しかし3年以内に時価総額が1兆円になる可能性を秘めた投資は日本のVC投資にはない。イギリスは1980年代後半、米国型VC投資を諦め、グロース投資、ディベロップメント投資(バイアウト投資)にシフトした。日本では1970年代から1990年代の高度成長期とその余波にVC業界は乗ったが、ITバブル崩壊と同時に潮目が変わった。今、VC業界は陽が翳ってきた夕暮れ時だとしたら、これからは陽の当たるところに範囲を拡げて投資をしたいと思う。

―VCは金融ではない
尾崎:VC投資の収益源泉は投資先企業の事業成長にある。VC投資・支援には事業経営者的感覚が必要だ。VC投資も従来どおりのやり方では成功しなくなってきた。何度も円高危機やオイルクライシスを乗り切ってきた日本の製造業のように、我々投資会社も時代と市場に合わせ自らが変化しなくては生き残れない。GDP世界2位になったところで日本はピークをつけ、バブルの崩壊へと向かった。2000年に入り明らかに日本の成長を前提とした時代は終わり、世の中の流れが変わった。バブル崩壊後の空白の10年を過ごしながら、これからはバイアウト(事業投資)の時代だと思った。アントのメンバーにもMBAを持ち、かつ事業経験もある若くて優秀な人が増えてきた。これからはベンチャー投資といえどもバイアウト投資的手法を取り入れていく時代だ。

―グローバル目線の投資活動
尾崎:日本国内では恐らく年間、1兆円から1兆5千億円がPE分野の投資資金規模だろう。今後は徐々にではあるが年金を通じて間接的に個人金融資産もPE・VCへ流れていくだろう。ただし日本ではVCの投資成績がこれまで振るわず、金融機関投資家を安定的資金供給源とするに至っていない。アントではグローバルプレイヤーの一員として投資することを企図し海外の投資家からの資金導入を図っている。彼らをグローバル・スタンダードに照らし満足させるようなトラックレコードや案件組成能力があればいつでも資金は集まると確信している。案件が出てくるのを待つスタンスではだめだ。M&Aと同じように新たな事業機会の創造を提案し、実行できる能力次第だ。日本の優れた技術や肌理の細かい優れたサービスをブランド化しアジアの成長に結び付けられるかが問われている。アントは日本を基盤としながらも投資目線はアジア・グローバルにおいて投資をしていきたい。

【特別インタビュー】「フードバレーとかち」が考える農業の成長戦略(米沢則寿)
【特別インタビュー】経営者交代による成長戦略(リード・キャピタル・マネージメント 谷本徹)
【VC紹介】国内だけでなく海外の出資者にも評価される(アント・キャピタル・パートナーズ)

※全文は「THE INDEPENDENTS」2011年4月号 - p33にてご覧いただけます