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「アイキューブドシステムズの上場戦略~九州地区のIPO動向」

公開

【有森正和氏・略歴】岡山県出身。1979年日興証券(株)(現・SMBC日興証券(株))入社。1980年日本合同ファイナンス(株)(現・ジャフコグループ(株))入社。2002年ゼロ(株) (現・スカイマーク(株))取締役(財務担当)就任。執行役員経理本部本部長、取締役、常務取締役を経て、2015年代表取締役就任。2015年エアアジア・ジャパン(株)副社長執行役員兼CFO就任。2018年当社取締役CFO就任(現任)。

【山形修功氏・略歴】北海道出身。1992年日本合同ファイナンス(株)(現・ジャフコ グループ(株))入社。大阪支店、国際営業部、マニラ駐在、シンガポール駐在、第2投資グループ、審査部を経て、2007年九州支社長就任(現任)。

<レポート>

2020年12月11日 九州インデペンデンツクラブ



有森 正和 氏(株式会社アイキューブドシステムズ 取締役)

山形 修功 氏(ジャフコ グループ株式会社 九州支社長)

<聞き手>國本 行彦(株式会社Kips 代表取締役)


國本:有森さんは1980年より日本合同ファイナンス(現・ジャフコ-グループ)で多大な実績を残された後、スカイマークに移られてからは2015年に代表取締役社長も務められました。2018年4月アイキューブドシステムズ取締役に就任し、最高財務責任者として今年4月東証マザーズへの上場を支えました。まずは同社とのご縁についてお話いただけますか。


有森:スカイマーク時代に共に仕事をし、信頼を置いていた当社監査役である大野尚氏からお誘いを受けたことがきっかけです。佐々木社長にお会いし、10分程度ビジネスモデルを聞いて入社を決断しました。決算書は見ませんでしたね。経営陣と波長が合うと直感したこと、成長の絵がありありとイメージできたことが決め手だったと振り返って思います。私なりの管理手法や資本市場の経験でお役に立てるとも考えました。

國本:アイキューブドシステムズを担当され、Forbes JAPANの「日本で最も影響力のあるベンチャー投資家ランキング2021」1位に輝いた山形さんより、投資経緯について伺いたいと思います。


山形:2007年に九州支社へ赴任した頃から部下が接触し社名は聞いておりましたが、佐々木社長とは2009年頃に初めてお会いしました。ちょうど受託開発から自社プロダクトへ戦略転換しようとしていた時期だったと記憶しています。当時の開発製品は現在の主力サービスであるMDM(Mobile Device Management:携帯端末管理)ではなかったのですが、今後SaaSが普及しスマートデバイスとの連携が不可欠になるという考えをお持ちで、その先見性に共鳴しました。2010年に最初の投資機会がありましたが社内を説得できず、2014年3月にようやく投資実行に至りました。その後、試行錯誤がありながらも携帯端末の法人利用拡大という大きな波をしっかりと捉え、ジャフコも2018年に追加投資を行い、2020年7月に東証マザーズに晴れて上場を果たされました。

國本:公開価格3,120円に対し初値9,430円(時価総額:48,672百万円)と、株式市場から非常に高い評価を受けました。地方から上場を目指す起業家やそれを支援される方々にとって大きな励みになるIPOでした。


山形:ジャフコ九州支社には37年の歴史がありますが、30年以上破られていないトラックレコードがあります。とある食品メーカーなのですが、アイキューブドシステムズのIPOで恐らく更新されるでしょうし、SaaS企業という時代に即した業態でそれを達成できたのは感慨深いです。同じく今年7月IPOした宮崎本社の日本情報クリエイト(マザーズ:4054)は現在時価総額400億円以上、2016年のIPO組でも、コロナ禍で家具EC事業が急伸しているベガコーポレーション(マザーズ:3542)や、ホープ(マザーズ:6195)が現在高い時価総額を維持しています。ここ数年で、九州地区から時価総額数百億円台の上場企業が複数社生まれたのは非常に誇らしく、後に続いてほしいとも思います。

有森:山形さんの3代前の九州支社長を任されていましたが、当時から九州地区は食品や流通など素晴らしい企業が数多く存在していました。しかし、株式市場からの評価という尺度では当社のような事例は初めてなのかもしれません。IPOについて一つ反省点としては、地元の方にしっかり株を保有いただく工夫が必要であったこと。福岡証券取引所の活用をもっと検討すべきでした。

國本:一方で、東京と比較して九州含む地方はまだまだ格差があるように思います。


山形:起業家やIPOの数では確かに敵わないのかもしれません。ただ、先日トーマツが公表したテクノロジー企業成長率ランキングにおいて名古屋に本社を構えるスタメンが1位になるなど、地方が全て劣っているとは言えません。ここ福岡でも新たなファンドが増えており、ネット社会において情報格差はないに等しい。強いて申し上げるなら、九州地区は人材が課題です。起業家は増えつつありますが、上場会社でマネジメント経験のある方が九州のベンチャーに来てくれると大きく変わるのではと期待しています。有森さんのように終の棲家を福岡に見つけてもらう事例も今後増やしたいですし、欲を言えばもっと若い経営人材にきてほしいですね(笑)。

有森:同年代の多くは最前線から離れていますが、未だ現役でいきいきと働ける場を作ってくれた事に感謝しています。福岡は地の利もあり大好きな街で、水が綺麗で海も山もあって必然的に発想が豊かになります。今はワークライフバランスの時代。子育てを楽しみたい人もいる。当社も98%はリモートワークですが、「Android Enterprise Recommended」というGoogleの厳格な要件を満たしたパートナー企業としてグローバル10社のうち1社に選ばれる程、先進的な開発体制を維持しています。働く人の意識も変化する中、九州地区はそういった時代背景においても最適な場所だと改めて感じています。

國本:今後、九州地区でベンチャーコミュニティやIPOがより活性化するために必要なことについて、最後にご意見お聞かせください。


山形:アイキューブドシステムズのIPOは個人的にも九州地区としてもエポックメイキングな出来事でした。九州は、従来より行政機関を中心にベンチャー支援が活発な地域ですが、成功事例はまだまだ少なく、地域としての経験値が乏しいのが現実です。今回のIPO事例も一つの契機として次のステージへ進んでいって欲しいと思います。さらなる活性化を図るには、未上場時のより大型な資金調達や上場後のファイナンスについて知見や経験のある方が九州地区にいないのが今後の課題です。また、アイキューブドシステムズは上場まで約20年かかっていますが、東京では2010年代後半に創業した企業がIPOする事例も少なくありません。必ずしも東京と同じスタイルを志向する必要はありませんが、九州地区のベンチャーが飛躍するために必要な環境整備には惜しみない支援を続けていくことを約束します。

有森:東京は時価総額にやや重点を起きがちな印象を持っていますが、九州地区では株価に対する過度な煽りもなく、自分たちのポジションをきちんと見つめながら経営ができる事が大きな利点です。スピリットがあれば東京でも九州でも関係なく成長はできますし、必ず手を差し伸べてくれる人が出てきます。当社もこの地にしっかりと根を張って、九州を代表する企業になりたいと思います。その背中をお見せすることが、ひいては九州地区のIPO活性化につながるのではないでしょうか。

※「THE INDEPENDENTS」2021年1月号 - P10-11より
※冊子掲載時点での情報です