アイキャッチ

「日本ベンチャーキャピタル協会の活動及びVC投資の現状と課題」

公開

<レポート>

2020年12月7日 インデペンデンツクラブ月例会



仮屋薗 聡一 氏(一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会 名誉会長)

井出 啓介 氏(株式会社東京大学エッジキャピタルパートナーズ パートナー)

<モデレータ>秦 信行(特定非営利活動法人インデペンデンツクラブ 代表理事)


秦:まず、仮屋園さんから日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)の活動についてお話しいただきたい。


仮屋薗:JVCAは2002年に設立され、2019年度末の会員数は、VC会員が102社(現在110社)、CVC(Corporate Venture Capital)会員が70社(現在76社)、賛助会員が68社(現在69社)の合計240社となっており、ここ10年で急拡大している。
 質的変化もあり、金融系VCが中心の協会だったところから、オープンイノベーションのコミュニティに変わってきた。2010年以降、独立系VCの加入を促進し、加えて大学VCやグローバルIT企業の参加も増えた。更にここ数年は色々な業界の大企業やCVCの加入も増えている。
 スタートアップの資金調達額を見ると、直近のボトムであった2012年から2019年までの7年間で約7倍、4500億円近くになっている。コロナ禍の2020年の上半期においても2000億円弱とのレポートもあり、調達の勢いは衰えていない印象だ。
同時に、日本でも一社当たり調達額の大型化が目立っている。昨年の調達額トップのスマートニュースは100億円の調達、調達額の上位15社についてみても最低でも30億円以上の調達を行っており、以前では考えられなかったレベルの金額になっている。
ただ、日米のVC投資額の差は大きく、2019年の米国の投資額は14兆円に達していて日本の40倍近くになる。ネットバブル崩壊後の2000年代から見ると格差は拡大している。
こうした投資額格差の背景の1つがVCファンドへの出資者の違いだと思われる。米国では、年金基金など機関投資家出資が60%近くあり、加えて海外投資家からの出資も35%を占めている。対して日本の場合の出資比率はそれぞれ1%にも満たない。機関投資家や海外投資家からのファンド出資の拡大は課題の一つと言えるだろう。
さて、JVCAの活動については、そのミッションを「ベンチャーエコシステムの発展拡大による新産業創造を通じて、日本発世界経済の発展に寄与する」とした上で、組織としてはベンチャーエコシステム委員会、ファンドエコシステム委員会、オープンイノベーション委員会という3つの委員会を置いた上で、その中に8つの部会を設けてキャピタリスト研修やベンチマーク調査、地域VCのトップとの懇談会の開催などの活動を行っている。
今年のJVCAの活動方針としては、機関投資家からの資金流入の拡大、CVC支援やM&A促進支援、次世代メガベンチャー創出に向けた政策提言の3点を挙げている。

秦:井出さんにテック系ベンチャーへの最近のVC投資の動向について伺いたい。

井出:テック系ベンチャーを技術が競争力の源泉であるベンチャーであると定義すると、ITを活用するベンチャーは増えており、加えて素材から部品などまで含めると幅広い。最近は研究開発リスクを取りに行くVC投資も拡大している。私ども東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)は設立来アカデミア発ベンチャーへの投資を積極的に行ってきたが、この領域での競争も激しくなっている。

秦:今までアカデミア発ベンチャーの場合、研究者が社長になるケースが多く、経営経験のなさが課題として指摘されてきたが最近はどうか。

井出:東京大学の事例を挙げるとアントレ道場といった起業家教育を受けられる機会も増えてきている。更にはサイエンティストだけで起業するのではなく、色々な経験やスキルをもった人達がチームでベンチャーを立ち上げるケースが増えており、ガバナンス体制は強化されているように思う。

秦:話は変わるが、地方のベンチャー活性化についてお考えはあるか。

仮屋薗:地方でも起業やExit経験を持った方々がアクティブに次世代の起業家を育てていこうという動きが始まっており、起業家育成のサイクルが回り始めているのではと思う。また、世界的なスタートアップ支援組織のエンデバーによれば、500人のメンターが存在するとベンチャーエコシステムが活発に回り始めるという研究がある。つまり、メンター500人が起業家輩出のクリティカルマスというわけだ。東京は既にそうなっている。他の地域でもそうしたことを考えてみるのも参考になるのではないか。

秦:JVCAでは今年機関投資家から1000億円の資金流入を目標にされているようだが、そのためのアクションプランは。

仮屋薗: LPリレーション部会を中心に、昨年日本のVC投資のベンチマークを作成した。以前からGPIFに日本のVCファンドはパフォーマンスのベンチマークがないので機関投資家のアセットクラスに入ってない、だからファンド出資が出来ない、早く整備すべきだと指摘されていた。それがようやく整備された。その効果に期待したいし、既に日本の5~10ファンドくらいには機関投資家資金が入り始めている。海外資金についても同様の効果を期待する。

秦:最近米国有力VCであるセコイアが日本ベンチャーへの投資で話題になっている。

仮屋薗:セコイアもそうだが、日本はデジタル化が遅れている分、DXテーマの投資ポテンシャルは大きいといえる。最近はPEファームや機関投資家がレイター・プレIPOへの投資を拡大し始めている。グロース投資を専門にするVCについても同様だと思う。
井出:シード・アーリー投資については、日本の技術への海外勢の注目は昔から余り変わってないように思う。例えばExit済のEV関連のベンチャーは複数の海外ファンドから投資を受けていた。付け加えたいのは投資Exitとして技術系ベンチャーにおいては海外企業によるM&Aが増えて来ていることだ。UTECでは過去数年で投資した技術系ベンチャーのうち、1社はグーグルに買収され、もう1社は香港市場に上場する企業にM&Aされた。

秦:日本のVC業界もグローバル展開が1つのキー・イシューになる時代が来つつあるということなのだろう。話は変わるがキャピタリストの質の変化についてはどうか。

仮屋薗;JVCAが主催するベンチャーキャピタリスト研修への参加者が昨年で160人、応募者が多くてお断りせざるを得ない状況で、数が増えている。同時に様々な業界から移る方も増えており、また研究職などの専門家もかなりいる。経営支援や人材採用など専門チームを組成するVCも出てきており、如何に投資先のバリューアップに貢献できるかを競う時代になったと考えている。
井出:UTECでもインターンを受け入れているが、最近来てくれる方々のレベルは非常に高く、専門分野を持った方も多い。

秦:最後に、VC業界全体の大きな課題についてお聞きしたい。

仮屋薗:日本のベンチャーコミュニティは残念ながら長年ガラパゴス化していたと思う。それを大きく変える必要がある。VCに関して言えば、投資契約や投資条件、ガバナンスの在り方やIRなどグローバル・スタンダードにすべきで、海外との他流試合をもっと増やしてオープンなコミュニティに進化させることが求められる。ファンド数ももっと増やし、応じてキャピタリストも業界全体で育成していく必要があるのではないか。 井出:VCおよびベンチャーコミュニティの課題としては、人材の流動性の問題を挙げたい。起業家は特殊な人材なのでそう多くないかも知れないが、経営に関与できる人材は日本の大企業の中には沢山いる。そうした人達がスタートアップの経営、ないしはVC側の人材として携わってくれるようになればコミュニティのアクテビティは格段に上がるように思う。

※「THE INDEPENDENTS」2021年1月号 - P8-9より
※冊子掲載時点での情報です