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「東北大学発・医療機関向けSaaSベンチャーの経営戦略」

公開

<聞き手>
株式会社AGSコンサルティング
専務取締役 小原 靖明 氏
1985年明治大学大学院法学研究科修了。1989年当社入社。2000年IPO支援会社ベックワンソリューション設立、代表取締役就任。2007年合併に伴い、当社取締役就任。2012年3月常務取締役。2014年3月専務取締役(現任)

<話し手>
株式会社エピグノ
代表取締役 乾 文良 氏
生年月日:1986年11月3日 出身高校:大手前高松高等学校 慶應義塾大学大学院経営管理研究科(Mannheim Business Schoolに交換留学)卒。富士通にてセールス/マーケティング業務に従事。退職後の慶應ビジネススクールを経て、ファミリー企業の商社において経営メンバーとして経営企画、M&A業務などに従事。2018年3月当社代表取締役就任。

【株式会社エピグノ】
設 立 :2016年9月2日
所在地 :東京都港区六本木6-8-10 STEP六本木ビル WEST1階
資本金 :118,200千円(資本準備金含む)
事業内容:医療・介護機関向けマネジメントシステムの開発販売

<特別対談>これからのIPOスタイル

東北大学発・医療機関向けSaaSベンチャーの経営戦略


小原:AGSでも医療法人向けのコンサルや事業再生を手がけていますが、手術室の効率化に着目し、ナースのタレントマネジメントを行う貴社事業は画期的だと感銘を受けました。


乾:手術室は病院経営の中枢である一方でITシステム化が遅々として進まず、収益部門でありながら非効率で高コスト体質から脱却できずにいました。ナースにおいても一人ひとりの適正に応じた看護配置の調整等に課題が多く、また定着率も低い水準で推移されたままになっています。これら病院のペインに対し、共同創業者であり東北大学病院の現役医師である志賀(取締役最高医療責任者)の知見を活かしたマネジメントシステムを展開し、病院経営の健全化に取り組んでいます。

小原:経営人材不足はどの大学発ベンチャーにとっても大きな課題ですが、エピグノ社では専門性の高い経営メンバーが揃っており成長への期待感が持てます。CEOとしてご自身の役割をどう捉えていますか。


乾:意思決定こそ経営者の仕事であると考えています。ヒト・モノ・カネ・情報を如何にして調達し、どのように配分するかを決めることです。また、ミッション・ビジョン・バリューを定めることも同等に重要です。会社組織はこれらを最上位とし、全社戦略・事業戦略・戦術・オペレーションの順でマネジメントされますが、ボトムアップで作れるのは事業戦略までで、全社戦略以上の策定は経営者の仕事と考えています。
 私と志賀は慶應ビジネススクールの同期ですが、株主である東北大学ベンチャーパートナーズから経営者の紹介相談もいただきます。統計上、成功する大学発ベンチャーは外部から経営者を招聘しています。日本にも経営者はひとつの職業であるという意識が浸透し、スタートアップにプロ経営者がジョインするようになると景色が変わるのではと思います。

小原:貴社の核はナースなど医療従事者のデータベースです。今後の事業展開において、マネジメント支援以外への活用が拓ければ、一段高い企業価値で評価してもらえます。


乾:電子カルテはじめ患者のデータを集約する企業はありますが、医療従事者のデータベースは他にありません。医療業界は極めて労働集約的であるにも関わらず、です。今後ナース以外にも、介護士やセラピスト、薬剤師や医師にも広げていきたいと考えています。これによって、患者に対するケアの品質を向上させることはもちろん、周辺領域に対するデータビジネスへの展開も視野に入ってきます。

小原:自社で全て完結せずアライアンスを活用することもポイントです。提携可能性があるのはどういった業種になりますか。


乾:ナースの人材紹介・派遣でトップクラスの実績を持つレバレジーズメディカルケア社とは今年8月に業務提携を結びました。医療機器メーカーに対しても、例えばスキルデータに応じた手術チーム編成の自動化など、人と医療機器・システムを連携することで当社の価値を出せると思います。また、製薬メーカーともシナジーのある事業が考えられます。ビジネスモデルは異なりますが、製薬メーカーの課題を解決したエムスリー社は尊敬しています。当社でもどの領域への展開予定があるので、粛々と進めていきます。

小原:IPOまでの青写真は明確で実行していくのみですね。資本政策についてはどのようにお考えですか。


乾:2020年度内にシリーズAのラウンドを計画していますが、事業成長を共にしてくれる事業会社を中心とするファイナンスにしたいと考えています。一度導入されれば長く使ってもらえると自負していますが、やはり医療業界向けのセールスはリードタイムが長く、先行投資が必要なSaaSモデルの中でも特に資金調達力の要る分野です。可能なら大きく調達し向こう2年は走れる体制にできるよう準備しています。

小原:貴社事業によって病院経営がこんなに良くなった、ナースがこんなに助けられている、ということを提示することができれば、仲間になってくれる事業会社はたくさんいると思います。今後の展開にも期待しています。本日はありがとうございました。


■対談を終えて


小原:これまでのコンサルティング経験の中では「医療現場」は「経営の効率化」が最も遅れている領域であると認識しています。そこに貴社が開発を進めているマネジメントシステムが導入されることで大きく改善が図られるでしょう。また、大学発ベンチャーの最も大きな課題である「経営者不在」の問題を解消して事業展開を進めている貴社に期待が膨らみます。資金調達と経営管理についてスピード感を持って行い、その期待に応えて欲しいと思います。


乾:日本の未来において、医療・介護従事者の働き方を変革し、やり甲斐と誇りを持って長く働き続けてもらうことが重要だということは誰もが理解しています。しかし、医療・介護機関経営の苦しみや難しさを理解されている方は非常に少数です。AGS様はそういった領域への専門性や経験が大変豊富であり、当社ビジネスの価値に共感頂き、大変嬉しく感じました。当社はこれからも社会的意義の高いビジネスを行い続けて参ります。

■株式会社AGSコンサルティング 会社概要

代表者  :代表取締役会長 虷澤 力/代表取締役社長 廣渡 嘉秀
スタッフ :400名(公認会計士61名・税理士76名)2019年10月現在
東京本社 :東京都千代田区大手町1-9-5 大手町フィナンシャルシティノースタワー24F
      TEL 03-6803-6710 FAX 03-3510-2800
大阪支社 :大阪府大阪市中央区今橋3-3-13 ニッセイ淀屋橋イースト 5F
      TEL 06-6232-0600 FAX 06-6232-0616
名古屋支社:愛知県名古屋市中村区名駅 4-2-28 名古屋第二埼玉ビル 9F
      TEL 052-533-6695 FAX:052-533-6698
福岡支社 :福岡県福岡市中央区天神1-9-17 福岡天神フコク生命ビル 14F
      TEL 092-737-8211 FAX 092-724-0320
海外拠点 :シンガポール、香港、マレーシア
事業内容 :マネジメントサービス、事業承継支援、企業再生支援
      IPO支援、M&A支援、国際業務支援
URL  :http://www.agsc.co.jp/

※「THE INDEPENDENTS」2020年11月号 - p12-13より
※掲載時点での情報です