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「東北のスタートアップ・エコシステム 推進拠点都市仙台の取り組み」

公開

<レポート>

2020年9月10日 東北インデペンデンツクラブ



白川 裕也 氏(仙台市経済局産業政策部産業支援課 主任)

竹井 智宏 氏(株式会社MAKOTO 代表取締役)

柏原 滋 氏 (国立大学法人東北大学 事業イノベーションセンター 企画推進部長)

片桐 大輔 氏(東北大学ベンチャーパートナーズ株式会社 投資部 部長補佐)

<モデレータ>秦 信行(特定非営利活動法人インデペンデンツクラブ 代表理事)


秦:内閣府が中心となって掲げた「世界に伍するスタートアップ・エコシステム拠点形成戦略」において、仙台スタートアップ・エコシステム推進協議会(仙台市等)が「推進拠点都市」に選定されました。まずは過去・現在における仙台市のスタートアップ支援についてお聞かせください。


白川:大きな転機になったのは2011年の東日本大震災でした。「誰かのために」「地域のために」と利他的マインドによる起業の動きが活発化し始めたのです。その中でもまず女性起業家の支援からスタートし、次に顕在化してきた社会課題解決に挑戦するソーシャルアントレプレナーへの支援プログラムを開始しました。いわゆる「スタートアップ支援」を本格的に始めたのは2017年。社会課題に対するチャレンジに大学等の研究シーズなど最先端のテクノロジーを掛け合わせることで、より大きな事業創出ができるのではないかと考え、「TOHOKU GROWTH Accelerator」を開始しました。

秦:「TOHOKU GROWTH Accelerator」について具体的に教えていただけますか。


白川:東北6県から起業家やビジネスプランを公募し、次のステージに向け資金調達を目指すスタートアップ向けの「TGA Growth コース」を5社程度、事業開始を目指す若手起業家や家業を持つイントレプレナー向けの「TGA Studio コース」を10社程度採択します。前者に採択されたスタートアップには、半年間かけて先輩経営者や投資家・専門家からのメンタリング、事業成長に必要な経営上の留意点等についてのレクチャーを実施し、例年2月に行われ約1,000名が参加する「SENDAI for Startups!」でビジネスプランを発表いただきます。

竹井:MAKOTOでも構想段階から携わり企画運営に協力してきました。東北地方では創業者は増えているもののスタートアップの”いろは”がインプットされていないことが課題です。これをアップデートすべく、我々が首都圏のスタートアップ・エコシステムとの橋渡しになり、プロダクト開発や資本政策に関する最新の方法論を体得できるプログラムに設計しています。開始して4年経ちますが、目立つスタートアップも着実に生まれてきています。

秦:地方のスタートアップ・エコシステムの核として大学に対する期待は大きいと思いますが、東北大学の取組みをお聞かせください。


柏原:まず、2019年度の経済産業省の大学発ベンチャー等調査によれば、東北大学発ベンチャー企業は121社であり、大学別の企業数では4番目に位置しています。伸び率に着目すると2016年度から約60%伸びており全大学で1位です。これを支えているのが、本学独自で取り組んでいるビジネスインキュベーションプログラム(通称:BIP)になります。研究成果の事業性検証のため最大500万円を助成するいわゆるギャップファンドで、2013年より開始しました。最近では学内でも本プログラムの認知が広まって応募する研究者が増えてきており、昨年は13~14件、今年度はそれを上回る見通しです。BIPに採択されたプロジェクトから半数程度が実際に起業をしています。

秦:東北大学ベンチャーパートナーズ(THVP)では大学とどのように連携されていますか。


片桐:BIPではその検証において学内外の専門家でチーム編成がなされますが、東北テクノアーチ(広域TLO)や東北大学のURAほか、我々THVPのスタッフもアサインされ助言や進捗管理で伴走しながら支援しています。BIPを経て起業された東北大学発ベンチャーの約5割に対して出資実績があり、直近では今年8月にBlue-Practice(株)へ投資実行しています。同社は東北大学流体科学研究所太田教授のPVAハイドロゲル材料を使った血管モデル、同大学大学院医工学研究科芳賀教授のセンサー技術の研究成果をもとに、革新的なカテーテル治療トレーニングシステムの開発を行う企業で、手術レベルに耐えうるプロダクトとして事業化できるかどうか、BIPを通じて検証し育ててもらいました。

秦:東北大学は文科省の次世代アントレプレナー育成事業(EDGE-NEXT)の主幹機関でもありますが、起業家教育についてはどのような取組みをされていますか。


柏原:実学精神をベースに実践的教育プログラムを通じたアントレプレナー育成を各種行っていますが、その一環でMAKOTO竹井さんにも学生に対する起業家教育の講義をしていただいています。最近では立ち見がでるほど賑わっていますね。

竹井:財務や会計など小難しい話はせずマインド醸成に重きを置いています。講義が全30コマある内、前期15コマは全て起業に対する向き合い方に関する内容です。東北大学は良くも悪くも真面目すぎる学生が多いので、メンタルバリアを解いてあげるのが狙いです。君たちでも出来るんだよ、失敗しても大丈夫なんだよと繰り返し伝えることが大事だと思っています。その上で、例えばメルカリを使って実際にものを売ってみたり、講義中に市内企業へテレアポしてみたりするなど、事業体験も織り交ぜています。教え子の中から4名が起業しており、その背中を見て自分達でもできるかなという空気感も生まれつつあるように感じます。

秦:最後に、これから東北地方をより活性化させるために必要なことについて、各立場からコメントをいただけますか。


柏原:大学発ベンチャーがより飛躍するためには経営人材が欠かせません。BIPの過程でも経営者のリクルーティングなどチームアップ支援を行っています。長期的にはアントレプレナー教育を続けることが学内やその周辺に経営センスがある人や経験を積んだ人を集めることにつながると考えており、継続する仕組みを構築していきます。

片桐:私自身も大学発ベンチャーの起業経験がありますが、それは「起業家という選択肢が身近にあった」からです。東北大学も各パネリストの取組みによってスタートアップ気運が高まってきており、就職か研究か、だけでなく起業も並列に捉えてもらえるようになってきていると感じます。THVPではこれまで約50億円の投資実行をしてきましたが、これから長く続く成功までの道程はこの地域の多くの人にとって未経験です。一丸となって成功事例を出してそれを共有する、これに尽きると思います。

白川:東北ではここ数年大きくなった企業が生まれておらずIPOもありません。そのため、若者が地元に定着しないことが大きな課題になっています。行政の使命としては彼ら彼女らが活躍できる仕事を創ることであり、起業やスタートアップという選択肢が東北地方でもメジャーになるよう取り組んでいきます。

竹井:最近の東北スタートアップは社会解決型がスケールモデル志向へ進化したと言えます。社会性と事業性を両立させる、これが東北スタートアップの特色であり共感によって仲間集めがしやすいなど強みもあります。実は国内ユニコーン企業7社の内、3社は東北にゆかりがあるスタートアップで、ポテンシャルは高い地方です。MAKOTOとしてはアクセラレータープログラムだけでなくリスクマネーの供給も行いながら、東北を代表するスタートアップを1社でも多く育てていきたいと思います。

秦:東北地方はベンチャー不毛の地と呼ばれて久しいですが、皆様の取組みを聞きその印象が180度変わりました。ぜひ継続して強いスタートアップ・エコシステムを創り上げてください。本日はありがとうございました。


※「THE INDEPENDENTS」2020年11月号 - P8-9より
※冊子掲載時点での情報です