「ベンチャーキャピタル等投資動向について」
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<VEC市川隆治氏(右)・略歴>
1978年東京大学法学部卒業後、通商産業省(現:経済産業省)に入省。パリ第2大学に留学した他、JETROストックホルム事務所長、在仏日本国大使館参事官、財団法人交流協会台北事務所副代表といった在外ポストを経験し、国土交通省大臣官房審議官を最後に2007年に退官。全国中小企業団体中央会専務理事を3年間勤めた後、2010年8月に一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンター理事長に就任。
<レポート>
2020年10月5日 インデペンデンツクラブ月例会
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市川 隆治 氏(一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンター 理事長)
<聞き手>秦 信行(特定非営利活動法人インデペンデンツクラブ 代表理事)
秦:一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンター(VEC)は経済産業省の外郭組織として1975年の創設以降、ベンチャー支援を継続して行ってきた組織である。中でも日本のベンチャーキャピタル(VC)等の投資動向に関連する統計データを2000年以前から毎年発表されて来られた。本日はこれらデータを下に、市川理事長から現状や今後の課題についてお伺いしたい。
市川:『ベンチャー白書』は、VCへのアンケート調査を中心に、インタビューも含めて作成している。今年はコロナ禍の影響もあり、発刊はいつもより少し遅れ、電子版は11月下旬、活字版は12月中旬を予定している。
まず2000~2019年度までの日本のVC等による年間投資額の推移について、私には3点ほど思い入れがある。1つは2019年度の年間投資額が国内外で2,891億円となり過去のピークを抜いたことだ。2つ目は私がVEC理事長を拝命した2010年の記者会見で、2009年度のVC投資額1000憶円割れを発表したこと。3つ目は2011年度から国内外を別に調査することにしたこと。それによって国内投資のトレンドがより正確に掴めるようなった。
最近の投資動向について述べると、2019年度(2019年4月~2020年3月)では国内への投資額は27.3%増とかなりの伸びを見せている。ただ、2020年上半期(2020年1月~6月)を2019年下半期(2019年7月~12月)と比較すると、1,147億円から747億円へとかなり減っている。問題はこれからどうなるか。
理事長就任後、一物一価を主張する国税庁に対抗する形で研究会を設けてガイドラインを作成し、優先株式の利用促進を図った。その結果、投資種別ごとの年間投資金額で確認すると、2015年度の406億円から2019年度の1,157億円と優先株式の利用は格段に増加し、全体の投資額に占める比率も52%から71%に上昇している。
INITIAL(株式会社ユーザベースの子会社)の「Japan Startup Finance 2019、2020上半期」を見ると、2020年上半期の事業会社のベンチャー投資額は737億円、単純に2倍すると年間約1,500億円となり前年と比べて減ってはいない。事業法人がベンチャーとの共創によるオープンイノベーション、新規事業開発を意識しているからだと思われる。
投資先業種では、IT関連のウェイトが低下し、バイオ・製薬分野が拡大、ステージではシード段階の比率が低下し、レーターステージが上昇していることが分かる。
投資先地域のデータでは、国内においては相変わらず東京と関東圏の比率が拡大している。やはりベンチャー支援者や人材が首都圏に集まっているからであろう。海外ではアジアの比重が低下し北米の比重が上昇している。
新規ファンド組成本数および総額の推移(四半期・半期動向)を見ると、2020年上半期は1659億円で2019年度下半期とほぼ横ばい、ファンド本数は37本、前年下半期の19本と比べてかなり多くなっている。
秦:VECのVC投資についての統計数値は長らく日本で唯一の数値で、日本のVC投資の流れはVECのデータによって確認できる。そのデータを基にお話し頂いたが、改めてこのコロナの影響についてどうお考えか。
市川:VCへの直接インタビューも含めて言うと、今年前半の投資額は少し減っているようだがコロナをチャンスだと考えているVCが多いように思う。事業法人は投資額自体も減らしていないようで、同じように考えているのではないか。
秦:確かにVCファンドの組成数は増えているし、私が関係している中小企業基盤整備機構のLP出資の状況を見ても金額規模を大型化するファンドが増えているように感じる。
市川:実際の投資額は減っているのにファンドは大きくしているところもあるのを見ると、より大きなリターンを上げられる投資先を選好しているようにも思う。
秦:業種別に見るとバイオ・製薬関連が増えているようだが、そのあたりはどうか。
市川:最近医師が起業される話をよく聞く。コロナの影響もあるだろうし、加えてデジタル化、特にAIの活用による新しい医療ビジネスが出て来ているように思う。それと5Gのインパクトも大きい。遠隔医療の本格化に期待したい。
秦:先程の話で最近レーターステージ投資が増え始めているようだ。短期的に見ると間違うかも知れないが、日本でも追加投資が増え始めているのか。
市川:日本のVCはこれまで確かに資金量が少ないこともあって追加投資が少なかった。しかし近年ファンド規模を拡大し、レーターステージでの追加投資が出来る体制が整いつつあるようにも思う。さらに今後、回収まで時間のかかるディープテック分野への投資が増えるとなると追加投資、レーター投資は拡大することになるのではないか。
秦:過去日本のVCにおいては追加投資が余りなかった。それは投資先ベンチャーの上場を急がせることに繋がり、上場後の成長を制約していたように思う。それが変わってきている。それと優先株式への投資も増えていて、日本のVCの質的変化が見られるように思う。とはいえ、日本のVC投資額はグローバルに見ると余りに少ない。これはどうしてなのか。
市川:原因は2つあると思う。1つは日本の労働市場の在り方、これについては最近経団連が日本型雇用の是正を提言し、また政府も働き方改革を推奨するようになって少し柔軟化が進みつつあるようだ。もう1つが教育の問題。日本の大学では起業家教育が実践され始めているが、高校でスタートアップについての勉強はほとんど行われていない。起業家教育と言うと、高校生に会社を作れというのかと親達の反対があると聞くが、起業家になるための能力を教えることは重要だと思っている。それを教える教育、すなわち起業家教育ではなく起業力教育は必要だと思う。そう考えて文科省にも提言を行っているが、残念ながら反応は鈍い。
秦:最後に日本のVC並びにベンチャーについて、改めて一言お願いしたい。
市川:GEM(Global Entrepreneurship Monitor:起業家精神に関する調査)の起業への関心度を見ると日本はほぼ最下位である。同じような状況にあったフランスでは今大きな変革が起きつつある。例えば、グランゼコールというフランスの最高高等教育機関の卒業生の進路が今までの大企業や政府役人から起業家に代わってきている。また、Station F(スタシオン・エフ)という駅舎だった建物を3,000人の起業家が入るインキュベーション施設に改造し、シリコンバレーのような化学反応をフランスでも起こす実践を始めている。そうした動きを見ると、日本も負けてはいられないのではないかと思う。
※「THE INDEPENDENTS」2020年11月号 - P10-11より
※冊子掲載時点での情報です