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「食品業界の統合戦略」

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株式会社ヨシムラ・フード・ホールディングス
代表取締役社長 吉村 元久さん

1964年 北海道函館市 出身。1983年 北海道札幌南高校 卒業。1988年 一橋大学商学部(金融論専攻)卒業。1988年 大和証券株式会社 入社。1994年 ペンシルバニア大学ウォートン校(MBA)卒業。1997年 モルガン・スタンレー証券株式会社 入社。2006年 当社設立、代表取締役就任。2008年 白石興産株式会社 取締役就任(現任)、株式会社とかち麺工房 監査役就任(現任)、株式会社ミズホ 取締役就任(現任)、株式会社楽陽食品 取締役就任(現任)。

住所:東京都千代田区内幸町2-2-2 富国生命ビル18階
TEL:03-6206-1271  設立:2008年3月 資本金:286,250,000円
http://y-food-h.com/

―この環境が良くない時期に、あえて株式上場を目指すのはなぜでしょうか?
オーナー経営に比べて、自由な意思決定に制約が多くなりスピードが遅くなります。


吉村:自分は起業家というより事業プロデューサーです。我々の事業目的は中小企業の支援、活性化です。創業当初はコンサル業務でしたが、昨年8月に持株会社に移行してからは食品業界に事業特化、グループ各社で製造から開発、営業まで行っています。中小の食品会社は良い商品を持っていても一社単独では営業マンも雇えず大手業者に卸すだけです。我々は、中小食品企業に資本を注入し、工場を再稼動させ、事業所を統廃合し、全国津々浦々まで営業し商品を販売します。私自身は金融業界出身であり、その役割は食品業界のプロであるグループ各社が働きやすい環境を作る事です。株式上場は、グループ全員が同じ目標に向かい、お互いにハッピーになるために必要な事だから目指すのです。

―世界中から金融エリートが集まるペンシルバニア大学ウォートン校を卒業されています。
海外留学して、金融業界を見る眼が変わりましたか?

吉村:同級生は帰国後すぐに、外資系証券会社やマッキンゼーなどの第一線でバリバリ働いていました。日本はまだ年功序列の時代でしたが、1997年に山一證券が倒産して金融業界は人材流動化が始まりました。私は大和証券で債権流動化スキームなどを開発していましたが、もっと自分の知識を活かしたいと思いモルガン・スタンレーに転職しました。そこは商品開発と顧客開拓が自分の責任でできる世界でした。当時はABS(資産担保証券)やREIT(不動産証券化)、投資法人(SPC)上場などの商品企画開発で金融業界は急速に成長しました。ただ自分は利益追求だけの世界には満足できなくなりました。

―その後、投資会社から派遣される社長としてマネジメントに関わるようになりました。外資系証券会社を見切り、いきなり中小企業の現場に入られ戸惑った点が多かったと思いますが。

吉村:とにかく中小企業の経営はとても難しいという事を身に沁みて学びました。競争相手はオーナー系中小企業でしたが、その圧倒的な踏ん張り力には驚かされました。商売を取りに行く時の根性は、私など雇われ社長とは半端なく違います。(人材面でも)社員とのコミュニケーションを取るのに苦労しました。外から来た社長に対して、古株から若手まで敵対的で雰囲気は最悪でした。もちろん苦労は覚悟していたのですが、正直、夜中に目覚めることがしょっちゅうありました(笑)。当時、その会社はIPOを目指していましたが、私から見ると前任の社長は「お金で人は動く」というやり方でした。会社は簡単に変わりません。上場して儲けたいだけの株主のために社員は頑張りませんでした。

―その経験を踏まえ、当社を設立されました。事業スタイルやコンセプトを教えてください。

吉村:我々は中小企業と一緒に同じ船に乗り、途中で逃げないと関係者にコミットします。株式売却益が目的ではないので、社員も安心して一緒に船を漕いでくれます。株主が腰を据えて経営に取り組む姿勢を見せないと会社全体は変わりませんし売上も増えません。再生の受け皿であるファンド会社や、経営サポートに徹するベンチャーキャピタルとは役割分担は違いますが、金融的発想だけで中小企業支援はうまくいきません。
 何十年も事業を行ってきた中小企業には実にいろいろな強みがあります。例えば食品メーカーは一般的に製造は強いのですが、営業、ファイナンス、管理面、企画面にはまだまだ改善の余地があります。そこでお互いが良い点を補完し合って大きくなるために統合していくのです。中小の食品会社が統合すれば、単独では難しい海外進出もできるようになると思います。

―グループ売上91億円ですが事業の中核は何ですか?

吉村:販売会社であるミズホは給食業者や弁当工場へのディストリビューション機能を持っています。製造会社である楽陽食品、白石興産、サッポロ巻本舗、サンキフーズはシューマイなどチルド食品、乾麺、おにぎり・惣菜、冷凍やレトルト食品も製造し販売しています。今後は国内販売部門の強化が大事ですが、良い商品を作れる力が一番重要です。ブランドを持っていれば規模は小さくとも海外で売れます。

―民事再生会社である白石興産をグループ子会社にしました。スポンサーとなってからも経営者を交代させず継続しています。
経営者を評価する時のポイントはどこですか?

吉村:白石興産の社長は創業家3代目の方です。大変誠実で信頼のできる方です。何十年もそこで働いている人が会社の事を誰よりも一番分かっています。社員をきちんと把握していて求心力があるかどうかも経営者のポイントです。白石興産は過大投資が原因で赤字でしたが、営業キャッシュフローは黒字ですし、製麺業界は各地域の老舗により棲み分けされ事業は安定しています。会社の数字は実態と違うし変化もします。中小企業の社長は如何に大変であるかを知り、社長が信頼できる人かどうかがすべてだと思います。グループとなったミズホも楽陽食品もプロパーの社長が続投して経営をしています。これからもそういう会社があれば是非一緒に事業をしたいと思います。

―グループ売上91億円の大半は卸売りですが、事業の中核は何ですか?

吉村:ミズホは給食業者や弁当工場へのディストリビューション機能を持っています。シューマイなどチルド食品、おにぎり・惣菜、冷凍やレトルトも製造します。今後は国内販売部門の強化が大事ですが、良い商品を作れる力が一番重要です。ブランドを持っていれば規模は小さくとも海外で売れます。

―今後の成長戦略はアジア展開を主に考えているそうですが。
吉村:もちろんです。日本の食文化は中国やアジアで大きな需要があります。牛乳、ヨーグルトなど乳製品、スイーツ、パン、日本酒、焼酎など、色々な分野の日本の食品会社と提携したいというオファーが台湾や香港からからたくさんあります。食品自体が難しければ製造技術を輸出する、という戦略もあります。良いパートナーに出逢えたら国内より海外でIPOする方が良いと思っています。

―ベンチャーキャピタルからも事業性を高く評価されています。
吉村:世の中の流れに合った事業を実際に出来る人が少ないと判断されたのだと思います。人口が50年で3割減少する中、食品関連の中小企業は厳しい時代を迎えます。同業会社も工場は余っているし資金余裕もありません。ファンドもエグジット(売却先)がありません。我々のような事業インフラを持つ企業にはかなりのアドバンテージがあります。

―北海道函館出身で札幌南高校、一橋大学、大和証券、外資系証券会社、ファンド投資先での社長経験後、起業。反骨心の塊のようですが、学生時代はどのような生活でしたか?

吉村:遊んでばかりでしたよ(笑)。ただ卒業論文を電通総研が50万円で買ってくれました。「期待と投機の経済分析」というバブルが始まる前の研究です。証券会社への就職も周囲に反対されながらも将来性を感じたからです。僭越ながら目の付け所だけはいいと思っています。人と同じ事をするのが嫌な性格ですから、香港上場も真面目に考えています。

―本日はありがとうございました。最後に好きな本を教えてください。

吉村:高校時代は司馬遼太郎をよく読みましたが、小学生の時から太閤記が大好きでした。歴史上最も出世した人、豊臣秀吉にとても憧れていました。

Interviewed by The Independents 2010.4.28

※全文は「THE INDEPENDENTS」2010年6月号 - p12-14にてご覧いただけます