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「一人のベンチャーキャピタリストとして」

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日本ベンチャーキャピタル株式会社
代表取締役社長 奥原 主一さん

92年東京大学工学部産業機械工学科卒。94年東京大学工学系研究科情報機械工学修了。同年アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)入社。大手メーカーにて最先端の技術コンサルティングに関与。98年日本ベンチャーキャピタル入社。08年取締役投資部長就任。09年4月代表取締役就任。

住所:東京都港区赤坂7丁目1番16号 日生赤坂第2ビル7階
TEL:03-5413-2680 設立:1996年2月1日 資本金:2050百万円
http://www.nvcc.co.jp/

各界から錚々たる企業や起業家が集まり、日本初の本格的ベンチャーキャピタルとして1996年に設立。会計士の資格を取得し1998年にVC業界に飛び込んだ奥原氏は手探り状態から独自の投資スタイルを確立。今年4月にNVCC社長就任、現在も自ら最前線で投資を続ける。生粋のキャピタリストにベンチャー投資の成功ポイントを伺いました。

―投資先状況を把握するため取締役就任
奥原:私が入社した当時は、VC業界も未成熟で手本となるキャピタリストはどこにもいない状況でした。初めての投資先に取締役として派遣されたのがソフトブレーン?(東1:4779)です。まだ社員10人程度の会社でした。当社としても取締役派遣は初めてのケースでしたし、業界においてもまだまだ稀有な時代でした。「逃げられなくなる」と大反対されましたが、むしろ相手の懐に入って経営状況をいち早く把握する方が得策と社内を押し切りました。就任そのものが目的ではなく、投資先と信頼関係を築くためにこそ取締役に就任するのです。

―誰もやらないから投資する
奥原:?ファーストエスコ(マザーズ:9514)は当時、あらゆるVCから投資を断られた会社でした。当社でも全員が否定的でした。だからこそ可能性があると感じ、まず12百万円投資、追加投資も含めて計3回実行しました。多額の設備投資を伴う事業計画には反対でしたが、最終ラウンドで大手VCも投資を行い、結果的に大きなリターンを得ることができました。

―IPOを前提に投資はしない
奥原:私自身は11年間で43社投資しましたがIPOは7社だけです。一方、未上場段階での回収が21社あり、未上場の投資先においてもその回収合計額でみると投資元本に近い金額で回収できました。IPOを意識することなく、アーリーステージのリード案件を中心に投資した結果です。

―株価は絶対に妥協しない
奥原:投資判断に情は入りますが、株価に妥協はありません。一番怖い時に投資するわけです。上場企業もM&Aを行う場合、連結調整勘定(株価プレミアム)がネックとなります。純資産価格での投資が私の基本です。

   
―市場ではない、取引が見えているか
奥原:大企業が出られない分野にこそベンチャーの存在意義があります。枯れた技術でもひょっとしたら化けるかもしれない。地道に売上があればチャンスはあります。誰もが良いという場所に私は行きません。ITバブル時代も遊び以外で渋谷と六本木には近寄りませんでした。個人的には成長性も高く途中売却による回収もしやすいハイテク企業が好みです。

―投資進捗を焦らない
奥原:ファンドの満期は10年です。しかもキャピタルコール方式ではないのでじっくりと時間をかけて投資できます。パフォーマンスは1996年設立の第1号ファンドはプラス、ネットバブル時代の2000年モノでもプラスの見込みです。

―初回は少額、追加投資で勝負
奥原:まずは投資簿価を超えることを目指します。ホームランやクリーンヒットがなくてもフォアボールから1点を取る野村ID野球のイメージです。ただ、均等分散投資では管理報酬を賄えません。初回投資の際から追加投資枠を決めていきます。初回の投資金額は少額でも、ここぞという時には大きく張ります。

―真面目な会社は誰かが助けてくれる
奥原:追加で投資する際に重視するのは真面目な会社かどうかです。経営者の保身や公私混同は絶対に許しません。倒産パターンは大体一緒で、強引な経営や遊興費が原因です。大切なのは取引先です。そしてそれを支える従業員です。社内から若手を選抜して経営再建を託すこともします。厳しい状況でのダウンラウンド局面では経営者のオプションは放棄していただく事もあります。同様に自社のシェアや利益ばかりにこだわる投資家にはご退場いただく事になるでしょう。

―最後は常識的な判断
奥原:もちろん失敗は数え切れないほどしました。ベンチャー企業にど真ん中の球はきません。これからも前例のない事案にぶつかり続けると思いますが、最後は常識で判断します。

―成功報酬体系による生き残り
奥原:当社の給与体系は固定給と成功報酬です。キャピタルゲインを得るには長い時間が必要です。それに耐えられなくて辞めた人も数多くいます。専門知識や経験より根性と覚悟が求められます。最近は成果を出してきたキャピタリストも増えてきました。今後は食品であるキャピタリストの育成をいかに組織的に行うかを考えています。

―経営者でありながら担当者として投資を続ける
奥原:社長業4割、担当者6割の時間配分で、これからも一人のキャピタリストとして新規投資を続けていきます。投資委員会では、途轍もなく金額が大きい、あるいはよほど不可解な点がなけえれば、初回投資は全て賛成するようにしています。ただ私自身の投資案件は否決されてしまう事もありますが(笑)・・・

※全文は「THE INDEPENDENTS」2009年7月号 - p8-9にてご覧いただけます