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「独立ベンチャーキャピタリストのすすめ~松田修一賞を受賞して」

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<村口 和孝 氏 プロフィール>
1958年徳島県生まれ。徳島県立富岡西高校出身。1984年慶応義塾大学経済学部卒業後、日本合同ファイナンス(現・ジャフコ)入社。1998年日本テクノロジーベンチャーパートナーズ設立。1999年社会貢献で起業体験プログラムを開発、慶応大、品川女子学院、JPX等で採用される。2019年日本ベンチャー学会第5回「松田修一賞」受賞。

<講演レポート>

村口 和孝 氏(日本テクノロジーベンチャーパートナーズ 代表)


■松田修一賞を受賞して

 「You are not Venture Capitalist」、私がシリコンバレーでそう言われたのは、34歳の時でした。1984年にベンチャー投資の世界へ足を踏み入れ、以来10年にわたって数多くの企業を上場に導いてきた実績があるにも拘わらずです。理由は「個人で契約していないから」。自らの資金を自らで運用し、キャピタルゲインからキャリードインタレスト(成功分配)を受け取る。それこそが真のベンチャーキャピタリストだと、彼は言うのです。
 組織ではなく個人の創造性こそが不可知な未来を実現するエンジンになるのではないか。そう考えていた私は、組織を離れて個人になることを決め、1998年日本で初めての独立個人型ベンチャーキャピタルを創設しました。以来、DeNA社はじめ大きな投資成功例に恵まれ、キャリードインタレストを個人で受け取り確定申告する初めての事例もつくりました。独立個人型ベンチャーキャピタルの職業を制度的に確立し、若手キャピタリストを産み育てたことが、日本ベンチャー学会の「松田修一賞」受賞につながったのだと考えています。

■「未法」領域にチャレンジするのがベンチャー投資の醍醐味

 上場企業というのは当然ですが社内に法務部がありますよね。彼らは投資を行う場合にはリーガルチェックをクリアしているかを内部統制の一環として重要視しています。それに対して、ベンチャーの場合はリーガルチェックを主軸に置くような経営はやってはいけないと私は考えています。もちろん、日本は法治国家なので、既にある法律を守るのは当然のことだと思っていますが、法律の無い新しい領域にチャレンジしていくのがベンチャーなのです。その新しい領域に対してどのような法律が追いかけてできていくのかを考えながら投資していくというのが、ベンチャーに投資する際のポイントです。この考え方を、既に法律がある既法に対して、私は「未法」分野への投資と呼んでいます。

■独立個人型ベンチャーキャピタリストとして

 私は35年間ベンチャーキャピタリストとしてやってきましたが、最も重要なのは、未来を予感することだと考えています。例えば、コロナウイルスはどうなるか?ITや、宇宙ビジネス、ライフサイエンスはどこまで発展するのか?そもそも、地球環境はどうなるのか?などなど、エビデンスがなく分からないことをマネジメントしていく必要があります。わからないなりにも、例えば歩いていて偶然富士山にたどり着く事は無いので、あっちの方かな?というイメージを持つことが重要です。このイメージが「予感」です。事業は世の中の動き、偶然をきっかけに大きく発展しますが、そうした曖昧なものを曖昧なまま捉えるには予感を鍛えるしかありません。そして予感の海を漂いながら、その中に科学性や合理性を見つけだし、どこに投資すれば良いかを意思決定するのです。
 私は「個人の創造性こそが不可知な未来を実現するエンジンになる」という確信の下、これからも自らリスクを取って勝負する独立個人型ベンチャーキャピタリストとして未来を創って行きます。

※「THE INDEPENDENTS」2020年3月号 - P18より
※冊子掲載時点での情報です