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「特許権の共有は要注意(特許権の消尽)」

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弁護士法人 内田・鮫島法律事務所
弁護士/弁理士 高橋 正憲 氏

2004年北海道大学大学院工学研究科量子物理工学専攻修了後、(株)日立製作所入社、知的財産権本部配属。2007年弁理士試験合格。2012年北海道大学法科大学院修了。2013年司法試験合格。2015年1月より現職。

【弁護士法人 内田・鮫島法律事務所】
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TEL:03-5561-8550(代表)
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取扱法律分野:知財・技術を中心とする法律事務(契約・訴訟)/破産申立、企業再生などの企業法務/瑕疵担保責任、製造物責任、会社法、労務など、製造業に生起する一般法律業務
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令和元年9月19日判決(平成30年(ワ)第5189号[養殖魚介類への栄養補給体事件])


 今回は、共有特許権者の一人が流通させた製品に対し、他の共有特許権者が権利行使することが許されるかが争われた事例を紹介します。

1 事案

 本件は、発明の名称を「養殖魚介類への栄養補給体及びその製造方法」とする特許権(以下「共有特許権」という。)を原告P1と被告P2とが共有していたところ、原告P1は、被告会社が「ケアシェル」という商品名の粒状物(養殖魚介類への栄養補給体)(以下、「被告製品」)を製造販売する行為が共有特許権の侵害であるとして、被告製品の製造販売等の差止、損害賠償等を求めた事案です(*)。
 本件では被告会社が販売していた被告製品は、P2が製造し、被告会社に納品していた製品と、原告P1及び被告P2から実施許諾を受けた解散会社が製造し被告会社に納品していた製品があった点に特徴を有していました。
(*)この事案では、他の事項も争点となりましたが、消尽の点に絞って説明します

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2 大阪地裁の判断

 大阪地裁は、「共有特許権の共有者である被告P2…は,原告の同意を得ることなく,共有特許発明を実施することができるから,被告P2が,仮に共有特許発明の実施品として被告製品を製造し,これを被告会社に販売した場合には,共有特許権はその目的を達成したものとして消尽し,共有特許権の共有者である原告は,被告会社が被告製品を譲渡等することに対し,特許権を行使することはできないものと解される。なお,被告会社は解散会社から購入した被告製品を第三者に販売したこともあったが,これは共有特許権の特許権者である原告及び被告P2から実施の許諾を受けて製造され,被告会社に販売されたものであるから,同じくその被告製品についても共有特許権は消尽したと解される。したがって,被告製品が共有特許発明の構成と均等なものとして,その技術的範囲に属するか否かを論ずるまでもなく,被告製品の製造販売による共有特許権の侵害を理由とする原告の請求には理由がないこととなる。」として、特許権の消尽により、特許権侵害は成立しないと判断しました。

3 本裁判例から学ぶこと

 特許権の消尽とは、特許権者またライセンシーにより適法に市場に流通した製品に対しては、特許権の効力が及ばないとする法理です。特許権者が市場に適法に展開した商品に以後の権利行使を認めると、安全な取引が害されることになるので認められている法理です。
 この法理を、共有特許権について適用すると、本件でも裁判所が判断しているとおり、「共有特許権者」は、他の共有者「の同意を得ることなく,共有特許発明を実施することができる」ので、共有特許権者が製品を製造し、以後転々流通した製品に対しては、他の共有特許権者は、当該流通した製品に対しては、消尽により権利行使ができなくなるのです。
 オープンイノベーションにより、他社と共同開発・共同研究を行い、共有特許を取得する事例が多くなっていますが、本件のように、共有特許権に関する収益化の場面では、他の共有特許権者のビジネス(製造・販売)をコントロールすることが難しい場面があることには留意する必要があります。
 他社と連携する際には、共有特許権として進めることが良いのか十分に検討し、仮に共有特許権として進めるにしても、収益化場合のビジネスの役割分担を見据えて連携を進めることが大切になります。

※「THE INDEPENDENTS」2020年3月号 - P20より
※2020年3月号掲載時点での情報です