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「「長岡でのベンチャー起業・成長をどう進めるか」」

公開

<レポート>

2019年10月30日 長岡インデペンデンツクラブ



秦 信行 氏(國學院大學 名誉教授/インデペンデンツクラブ代表理事)

鮫島 正洋 氏(弁護士法人内田・鮫島法律事務所 弁護士)

山口 隆司 氏(長岡科学技術大学 教授)

長谷川 亨 氏(長岡市 商工部長)

<コーディネーター>小松 俊樹 氏(長岡大学 教授)


■ 本格的ベンチャーの時代へ-地方の活性化へ-

秦:アメリカでは、1970年代にボストンのルート128沿線地域にベンチャーがまさに多数創業=簇業(そうぎょう)して、注目をあつめました。日本からも視察に行き、そうした背景のなかで、1971年に「ベンチャー・ビジネス」(清成忠男、中村秀一郎、平尾光司著)という本が出版され、ベンチャー・ビジネスが幕を開けました。 第1次ベンチャーブームに合わせて、日本でも最初のVCとして京都エンタープライズセンター(KED)が設立されました。しかし、1973年の第1次石油ショックを契機にブームも終焉し、KEDも解散しました。彼らの支援ベンチャーで生き残ったのは日本電産でしたが、現在では押しも押されぬ大企業に成長しました。その後、1980年代後半に第2次、1990年代後半に第3次ブームが続きます。2008年のリーマンショック後、第4次ブームともいわれますが、2015年以降は、若い起業家が続々と輩出し、もはやブームではなく、ベンチャー輩出の時代に本格的に入っていると言ってよいのではないでしょうか。東大の卒業生でトップレベルの学生は、かつては大蔵省等国家公務員を目指しましたが、今は、自ら起業、次いで外資系企業、そして3番目に国家公務員という順番に変化した、と言われるほどです。東大の本郷エリアには、コワーキング・スペースもできています。 ベンチャーは首都圏に集まっています。地方ではまだこれからです。福岡市のようなベンチャー特区でがんばっている都市も出てきましたが。地方で、なんとしても、ベンチャーが輩出するエコシステムを創る必要があります。

技術ベンチャーの収益化が重要!

鮫島:いわゆる技術ベンチャーが収益を上げるためには、マーケティング、製品開発、量産体制の整備、販路開拓の4つが不可欠です。多くの事例を見てきましたが、この4つの要素のうちどれかが欠けていては、ベンチャーは成果を上げられないのです。ベンチャーは、大企業と共同研究を行うなどをして、この4つのうち自社に欠けている要素を補完することを考える必要があります。この4つに加え、製品上市後に後発参入を抑制するための知財戦略は重要です。最近は、オープンイノベーションが活発で、大企業から投資のオファーを受けるベンチャーも増えていますが、知財を取得している事実が大きな交渉力になり得ます。どのような契約を締結するかは、知財ありきなので、順番を間違えてはいけません。ただ、知財取得には費用がかかりますので、エンジェル投資等も考えなくてはなりません。 知財をビジネス的に扱える専門家が地方には欠けています。この辺をどう解消するかが、地方でベンチャー起業を盛んにする上で、大きな課題だと思います。

長岡発の技術ベンチャー育成へ!

山口:長岡技術科学大学発ベンチャーは、ここ20年間で20社にのぼります。第1号が「砥石」のナノテム(代表取締役・高田篤)ですが、現在、CVDシステムズ、FUCO、ロレムイプサム、長岡パワーエレクトロニクス、オフダイアゴナル、長岡モーターデベロップメントなどが長岡で事業展開を行っています。技術ベンチャー育成をめざして、ベンチャーサロン(起業・事業化アドバイスの場、年4回開催)、ベンチャーセミナー(起業家、VCなどの講演会、年2回開催)、招待性公開講座(大学院科目「ベンチャー起業実習」の最終回公開授業、ピッチと講評)を行っています。技術ベンチャー輩出もめざした5年一貫博士課程の卓越大学院制度も進めています。2019年には、<ジャパン・ビジネスモデル・コンペティション(JBMC)2019>に本学学生チームの提案「観賞用水槽や飼育水槽に適した技術を工夫したシステムのビジネス」が優秀賞を受賞し、日本代表として、アメリカで開催された<インターナショナル・ビジネスモデル・コンペティション(IBMC)2019>に出場しました。 また、私自身は、NaDeC構想推進コンソーシアムの起業支援事業のワーキンググループの責任者も務めております。この支援事業は長岡に立地する3大学1高専(2019年度から4大学)の起業家教育を推進する事業です。本学は先に述べた通りです。長岡造形大学(社会起業、起業演習、地域特別プロジェクト演習Ⅰ)、長岡大学(起業家塾)、長岡工業高等専門学校(課題解決型プログラム、アントレプレナー同好会、高専発ベンチャー)が特徴ある起業家教育を展開しています。本日後ほど、事業計画を発表する高専発ベンチャーの拾壱・ビッグストーンは、昨年(2018年)10月に起業した最も若いベンチャーです。

進みだした長岡での創業・起業への展開

長谷川:長岡市は、2014年に、商工会議所や金融機関などと連携して「ながおか創業支援ネットワーク」を立上げ、国の認可(産業競争力強化法に基づく創業支援事業計画策定)を受け、ベンチャー支援を進めております。
2014年7月には、このネットワークの核となる「起業支援センターながおか」を設立し、創業・起業の活性化を進めてきました。今年8月時点のここ5年間の実績は次の通りです。着実に成果があがってきております。

・相談件数:1473件(年間約300件、女性相談者34%、20歳代若者相談者16%)、起業件数:150件(年間約30件)、雇用創出数(従業者数):113人
・相談者業種割合:生活関連サービス25.5%、専門・技術サービス16.6%、宿泊・飲食15.2%、卸・小売13.1%、製造9.0%、その他サービス20.7%
・起業支援イベント:ながおか起業家交流会(2019年3月、100名超参加)、女性・若者起業塾(3日間)、若者チャレンジショップ出店講座(セミナー・イベント出店各2回)

また、若者起業家、とくに学生起業家の育成については、今年度、リーン・ローンチパッド・プログラム(3か月間、6回講義でビジネスプラン作成、最終回プレゼン)を開催し、7チーム計25名学生(長岡技術科学大学、長岡造形大学、長岡工業高等専門学校)が参加し、2チームが実際の起業を展望しております。起業に向けた相談等支援も行っています。 こうした学生の起業については、助成制度(起業補助50万円)を創設し、長岡高専発学生ベンチャーの拾壱・ビッグストーンに助成しました。さらに、ながおか新産業創造センターNBIC(インキュベータ)を軸に、長岡における技術ベンチャーの成長支援を先輩起業家との交流・相談支援機能の充実等で、強化したいと考えております。

東京とのネットワークづくりを!

秦:起業家を支援するインフラが整いつつあります。VCも増えていますが、地方ではまだ少ないですね。ですから、東京と地方のネットワークをうまく創る必要があります。成長するシリコンバレーと停滞気味のボストン128地域を比べて、アナリー・サクセニアン(UCバークレー教授)は、ネットワークの違いが両エリアの成長性の違いを生み出していると分析しました(『現代の二都物語』)。いいネットワークができれば情報が流れます。こういう情報が流れるネットワークをぜひ、地方は創るべきだと思います。これが地方の大きな課題だと思います。

長岡ベンチャー・エコシステム形成へ!

山口:この間の本学の経験や市の起業支援事業を踏まえれば、やはり、長岡のベンチャー・エコシステムが必要であると感じております。その方向で、進む必要があります。
長谷川:長岡市もこの間の事業の経験を踏まえれば、長岡にふさわしいベンチャー・エコシステムづくりが重要だと考えております。この間の事業の継承発展と新たな方向性を加えて、エコシステムづくりに進みたいと考えております。
秦:米国では「Y Combinator」が2005年よりアクセラレータープログラムを開始し、Dropboxなど著名なユニコーン企業を輩出しています。3か月の実践訓練でビジネスプランの作成、プレゼン、VCからの資金調達(投資)という流れを一気に進めるものです。日本でも、神戸市が500 Startupsと組んでスタートしましたが、各行政で起業支援やエコシステム形成に関する取組みが活性化し始めています。ここ長岡でも、長岡らしいエコシステムの形成が今後なされることを期待しています。

※「THE INDEPENDENTS」2019年12月号 - P18-19より
※冊子掲載時点での情報です