「ものづくりベンチャーにおけるビジネスモデル特許の重要性と考え方」
公開
<話し手>
COSMIC TRADING(株)
代表取締役 山田 裕嗣氏
生年月日:1967年3月9日 出身高校:愛知県立熱田高等学校
静岡県立大学国際関係学部卒業後、スター精密㈱入社。2013年3月同社コンポーネント事業部のスピンオフとしてBSEJAPAN㈱を設立、代表取締役就任(現任)。2013年10月当社設立、代表取締役就任。
【COSMIC TRADING株式会社】
設 立 :2013年10月11日
所在地 :静岡県静岡市清水区草薙1-13-19
資本金 :18,700千円
事業内容:①集音器・特殊ヘッドフォンの開発・販売 ②電子部品の輸入販売
URL :http://www.cosmic-trd.com/
<聞き手>
弁護士法人内田・鮫島法律事務所
弁護士 鮫島 正洋氏(左)
1963年1月8日生。神奈川県立横浜翠嵐高校卒業。
1985年3月東京工業大学金属工学科卒業。
1985年4月藤倉電線(株)(現・フジクラ)入社〜電線材料の開発等に従事。
1991年11月弁理士試験合格。1992年3月日本アイ・ビー・エム(株)〜知的財産マネジメントに従事。
1996年11月司法試験合格。1999年4月弁護士登録(51期)。
2004年7月内田・鮫島法律事務所開設〜現在に至る。
鮫島正洋の知財インタビュー
ものづくりベンチャーにおけるビジネスモデル特許の重要性と考え方
山田:私どもは「音」をキーワードに、世の中に貢献できる企業を目指して、「集音器事業」と「騒音環境下通話システム事業」に注力しています。
鮫島:「集音器事業」で展開している集音器と補聴器との違いを教えてください。
山田:集音器は、軽度・中等度の難聴の方に向けた製品で、これは補聴器と違い、管理医療機器ではないため家電量販店等で販売できます。それゆえ、補聴器より安価にユーザーに提供することができます。
鮫島:「騒音環境下通話システム事業」は集音器をベースとしたヘッドッセット型機器ですね。
山田:騒音環境下においても支障なく通話できるヘッドセットを開発しました。騒音の大きい消防士や警察官の現場や、また最近話題になったラグビーワールドカップのようなスポーツの現場においても有用です。
鮫島:御社では、現在のビジネスを進めるうえで、ハードウェアやビジネルモデルに関してどのような知財戦略をお考えですか?
山田:特許として取得しやすいのはハードウェアの部分ではと思っています。
鮫島:実は、それは必ずしも正しいとはいえないのです。ハードウェア特許は、さまざまな企業が開発してきた先行技術が多いため、あまり強い特許を取得することはできません。御社のユニークな製品だからこそ実現可能なビジネスモデルについて特許を取得した方が有利になることも考えられます。
山田:他社が参入していない分野でビジネス展開するのであれば、ビジネスモデル特許というものを考える必要があるということですね。
鮫島:ビジネスモデル特許の取得を前提とした場合でも、御社がハードウェアも作っているということは、大きな強みになります。なぜならば、ビジネスモデルにあわせてハードウェアのスペックを変えるといった開発もできるからです。今後、ビジネスモデル特許とハードウェア特許の二方向から知財戦略を考えていければ、他社の参入ハードルはかなり高くなることと思います。
山田:私どもの集音器は、他にはないハードウェア上の特徴があり、これを最大限活かすことができるビジネスモデルの構築をまさに進めているところです。ハードウェア特許だけで参入障壁として機能させることができるかどうか、心許ないと感じていたので参考にしたいと思います。
鮫島:御社の集音器は、従来の補聴器より格段に安価であることも特徴なので、さまざまな職種で利用できると思います。それをビジネスモデル特許につなげるためには、その職種ごとにユーザーがどのような機能を欲しているかといったブレンストーミングが重要です。ここを突き詰めることで、ビジネスモデル特許を取得できるようになります。
山田:従来からある他社の通話システムでは、ボタンを押して通話する機器が多いですが、私どもの製品のように、ボタンを押さずとも通話できるのは使用する職種によっては重要な機能なのかもしれません。今後は、使用するユーザーがどのような機能を望んでいるのかということを、少し掘り下げてみていきたいと思います。
鮫島:特許取得にはそれなりにコストが発生します。それだけのコストを負担して取得した特許でどういうリターンを得るのかといった点も加味して、特許を取得するかどうかを判断する必要があります。
山田:確かにそのとおりですね。せっかく特許を取得するのであれば、プレゼン資料に使用するのはもちろん、それを強みに投資家に訴求する際のアピールポイントとして活用することもできますね。
鮫島:今後、このビジネスが成長するにつれさまざまな企業が参入してきます。日本の製品やビジネスは東南アジアでは非常に関心が高いので、ニッチな市場であっても日本でトップであれば、海外展開も十分可能だと思います。そのとき、ビジネスモデルの特許を最低3件取得していると、他社の参入拡大を阻む大きなアドバンテージになります。
山田:今日お聞きしたことを社内でも共有し、どのような認識でビジネスを展開していくかを改めて考えてみたいと思います。本日は、ありがとうございました。
*対談後のコメント
【山田社長】
鮫島先生との知財戦略に関する対談は、まさに「目から鱗が落ちる」時間でした。これまで投資家向けに行ってきたプレゼンで必ずと言って良いほど指摘されたのが、「それが本当に販売に確実に繋がるのか?」、「有る程度市場の開拓に成功した後に、大手が参入してきた際にどうやってそれを防ぐのか?」の2点です。そしてこれは当社だけでなく、他のベンチャー企業の皆様にも有る程度共通する悩みでは無いかと思っています。今回の対談によりまして、後者に対する対策が見えてきました。具合的な内容はこれからの活動次第ですが、大きな指針を頂きまして、本当に感謝しております。【鮫島先生】
安価でユニークな機能を持つ集音器で、独自のビジネスモデルを構築しようとしている企業である。ビジネスモデル特許のブレストはハードウェア特許に比べて難易度が高いが、これら二種類の特許取得を心がけることによって、他者参入を防ぎ、先行者利益の獲得がより容易になるものと思われる。―「THE INDEPENDENTS」2019年12月号 P12-13より
※冊子掲載時点での情報です