アイキャッチ

「「多様化するベンチャーファイナンス」」

公開

<レポート>

2019年10月25日 四国インデペンデンツクラブ@徳島



橋爪 太 氏(一般社団法人大学支援機構 理事長補佐)

安田 次郎 氏(株式会社ユニコーン 代表取締役)

宮川 博之 氏(オプティマ・ベンチャーズ株式会社 代表取締役)

<モデレータ>國本 行彦(株式会社Kips 代表取締役)


■大学クラウドファンディングの取り組み

橋爪:大学支援機構という組織は、徳島大学の学長をはじめとする理事が中心となり、「ICTシステムを使って全国の大学の経営合理化や資金調達、社会貢献を支援することを目的に2016年10月に設立されました。現在、国立大学法人の運営費交付金が毎年1%ずつ削減されるという現状にあります。これにより、大学の経費がどんどん節約というかたちで削られており、最終的には研究費を削っていくしかないという状況に追い詰められています。このような状況を打破するためには、何かしらの外部資金を獲得するための方法を新たに考えなければいけません。そこで、私どもではクラウドファンディングという手法を使って外部資金を集める取り組みを、徳島大学をはじめとしてスタートさせました。
大学に資金が入る仕組みの1つは、「寄附」です。寄付を集めるためには、大学に在籍している研究者がどのような研究をしているのかということを、広く多くの方に発信する必要があります。それによって、恒常的に寄付金や共同研究の申し出を獲得できる仕組みをクラウドファンディングで構築しました。
現在、創設から3年経ったところで、徳島大学への寄付金として約3,600万円の寄付をいただいており、サイト全体では、約7,000万円を一般の方からの支援というかたちで集めることに成功しております。

國本:大学がクラウドファンディングをする取り組みはとてもユニークだと思うのですが、クラウドファンディングとは別に、ベンチャーキャピタルといったことは今後の視野にあるのですか?

橋爪:現在、徳島大学をはじめとする四国近隣の大学発ベンチャーを支援し、そのベンチャーのキャピタルゲインを大学や研究費に還元するという必要性を感じており、まさに議論を進めているところです。

■スタートアップ企業を支援する株式投資型クラウドファンディング

安田:当社は、金融庁「第一種少額電子募集取扱業者」の登録を受け株式投資型クラウドファンディングのプラットフォームを運営しています。
 ここ30年ほどで日本の企業は、だいぶ地盤沈下が進んでいるという状況です。そのため、日本の起業家を育てるという使命感のもとに、志の高い起業家とそれに共感していただける投資家をつなぐ起業家支援型のプラットフォームというものを構築しています。
 私どもの強みは、経験に裏打ちされた豊富な知識を有するチーム体制です。現在、マネジメント6名のうち3名が証券会社の出身で、引受業務や資金調達、IPO、資本政策等に長く携わってきた人間が揃っています。そのため、経験に裏打ちされたさまざまなアドバイスができるということを自負しています。
私どものミッションとして、株式投資型クラウドファンディングを通じて、個人投資家の力を借りて成長資金を得る機会を提供するだけでなく、資金調達後、さらにビジネスを成長させるために、企業に必要なリソースを「丸ごとサポート」していきます。企業にさまざまな環境を提供して、日本に「世界をリードする起業文化」を創り出す。それが私どものミッションです。

國本:株式投資型クラウドファンディングの場合、事業の見通しが立っている段階で行うのでしょうか。

安田:当社としては、原則として事業を開始してから12ヵ月が経過しているという企業様を審査の対象としています。不特定多数の個人の投資家の方からお金を集めているという性格上、われわれには審査の厳正化が求められているからです。しかし、例外もあります。たとえば、当社が認めているビジネスコンテストなどでファイナリストに残っているとか、地方公共団体等から支援企業として認定を受けているといった場合は、12ヵ月経っていなくても審査の対象としております。

■四国を中心にベンチャー企業を支援

宮川:私は大学卒業後、フューチャーベンチャーキャピタル(株)に入社し、3年ほど関西エリアでベンチャーキャピタリストとして活動していました。
 そんな中、2004年に愛媛銀行さんとご縁ができ、5億円のファンドを作ろうという動きがでてきました。地方の地域にファンドを作り投資活動を行う際には、必ずそこに事務所を置き誰かが常駐するというスタンスで行っていたため、私が愛媛に赴任することになりました。その後、愛媛銀行と「投資事業有限責任組合えひめベンチャーファンド2004」を設立し、10年間運用しました。同ファンドでは11社に支援し、6社が上場するというパフォーマンスを上げることができ、後継ファンド(2号)の運用も進んでいます。
 現在は、2016年6月にオプティマ・ベンチャーズ株式会社を設立し、愛媛を拠点に、四国を中心としたベンチャー企業に対して、投資および支援を行っています。

國本:昨今、ベンチャーキャピタルの平均的な投資金額が1億円近くに増えてきています。特に東京などはその動きが顕著なのですが、四国の場合はどうでしょうか?

宮川:感覚的には年に1社くらいといったところですが、四国においても、ベンチャーキャピタルから1億円を超える金額を調達している企業が出てきています。ただ、その地域に根差したベンチャーキャピタルが1億円を超える投資をするのはなかなか難しい。ですので、地域のファンドがまず出資し、ある程度その会社が成長し次のステージになった際に、その地域のベンチャーキャピタルと東京首都圏のベンチャーキャピタルもしくは事業会社と共同で、数億円の出資をしてもらうというパターンが多いです。私もこれが良いかたちなのではないかと思います。
 また、大学支援機構さんやユニコーンさんのようなクラウドファンディングはじめ、ベンチャー企業の資金調達手法は年々多様化が進んでいます。ベンチャーキャピタルも独立系や金融系、事業会社系とバックボーンも異なれば得意とする業種・ステージも様々です。銀行借入も然り。これらを網羅的かつ正確に把握できている人はおそらくいないでしょう。自社にとって最適な手法はなにか、経営者自ら学習することはもちろん、支援者含めたネットワークで経験や知識を共有することが大切です。そして何より、資金調達は手段でしかなく、事業成長が第一であって、多様な成長シナリオに合わせてファイナンスも多様化してきたに過ぎないと考えるのがベターだと私は思っています。


※「THE INDEPENDENTS」2019年12月号 - P16-17より
※冊子掲載時点での情報です