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「「京都発ベンチャーの活性化に向けて」」

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PwC京都監査法人 監査部 パートナー 江口 亮 氏

株式会社京都銀行 公務・地域連携部 創業成長支援室 参事役 堀 貴男 氏

株式会社東京証券取引所 上場推進部 調査役 寺中 久登 氏

<モデレータ>國學院大學 名誉教授 秦 信行 氏


秦:京都は戦後、堀場製作所、オムロン、京セラ、村田製作所、任天堂など、ものづくりにおいて世界的な革新的企業を輩出しています。古都でありながら、何故このような企業を次々と輩出できたのでしょうか。

堀:長い歴史の中で培ってきた技術力のある企業や職人、京都大学をはじめとする高度教育機関などが山を囲んで密集しており、かつその市場を大阪や東京に求めずに早くから海外志向でありグローバル展開した後も京都の地で事業活動を続け、それらが融合した文化に依るものと思います。また、過去に京都証券取引所が存在し、直接金融に対するリテラシーがあったことも要因ではないでしょうか。
三浦:京都銀行も、丹和銀行より商号変更後、京都市内へ業容を拡大してきたベンチャーであり、現在の京都を代表するものづくり企業とは取引が深く、一緒に成長してきた歴史があります。京都府内の上場企業の内、37社の株主上位10名に同行がランクインしています。この有価証券の含み益の一部を、次代を担うベンチャー企業の支援に活用するとして、今後10年間で総額50億円程度を投資する方針を立てています。その専門チームとして、京銀リース・キャピタルに投資部を設立し、今年4月より稼働しています。

秦:日本最初のVCは、京都経済同友会が中心となって1972年に設立された京都エンタープライズディベロップメントでした。設立8年で解散してしまいますが、日本電産はここから輩出されています。世界的企業を次々と育ててきた土壌は今も引き継がれているのでしょうか。最近の状況を聞かせてください。

江口:京都に本店を構える上場企業は70社ありますが、その数は全国8位、関西3位という位置付けです。直近3年間では、ジェイ・エス・ビー(2017年7月・東証ニ部*現在東証一部)、エスユーエス(2017年9月・マザーズ)、SGホールディングス(2017年12月・東証一部)の3社しかなく、潜在能力に対して意外に少ないと感じられるかもしれません。
堀:最近の傾向として、上場しやすい業種とそうではない業種が明確になってきました。証券会社や監査法人では業種や企業の選択が始まっています。京都の強みであるものづくり企業はなかなか株式市場で評価されづらく、また長く研究開発を要するものはVC投資の時間軸とも合いません。一方で、京都本社のVC8社がこれに危機感を感じ、ものづくり企業への投資育成について勉強会を始めるなど連携する動きを見せています。さらに大手企業とのビジネスマッチングやオープンイノベーションの取組みも今後重要になると思います。
寺中:上場機運が高まっている地域には、ロールモデルの存在があります。身近な起業家が上場することで、空気が変わり、他の起業家の視座も高くなります。任天堂などが相次いで上場していた時期、京都府内の起業家同士で切磋琢磨があったのだと思います。

秦:東京大学では起業熱が非常に高まっており、以前なら官僚になっていた最優秀層がベンチャーを始めるといいます。京都大学はじめ、京都ではどういった所に起業の種が集まっているのでしょうか。

堀:京都大学ではGTEPとよばれる京都大学起業家育成プログラムが成果を出し始めています。また、ハイテクメーカー出身者の独立創業、歴史ある企業のベンチャー型事業承継なども京都では可能性があります。一方で、事業アイデアや技術をどうマーケットに落とし込んでいくか、組織をどうマネジメントするかなど経営人材は課題であり、パートナーシップで克服していくことが重要です。
三浦:京都市ベンチャー目利き委員会では、次代の京都経済をリードする技術の発掘・評価・育成を行っています。審査委員長を堀場製作所の堀場雅夫氏や日本電産の永守重信氏が歴任し、Aランク認定後の支援も充実しているので、良い研究者や企業が毎年集まっています。

秦:やはり経営人材の不足は地方ベンチャー全般に言えることであり、特にものづくり企業が多い京都でも大きなトピックスであろうと思います。これを克服するような施策などは京都にあるのでしょうか。

三浦:京都大学イノベーションキャピタルでは、ECC(Entrepreneur Candidate Club)という京都大学技術と起業家候補をマッチングするイベントを定期開催しています。実際にここから1件事業化され、同キャピタルより出資を受けたケースもあるそうです。
寺中:東証は京都銀行と地域経済発展のための基本協定を締結しており、昨年10月にビジネスマッチングイベントをけいはんな地区で共催しました。東証上場企業と京都ものづくり企業やベンチャー、スタートアップをつなぐ試みでしたが、想定以上に反響があり、京都企業の高い技術力や魅力を再確認しました。直接的な人材支援はできませんが、こういったマッチングイベントを通じた後方支援は継続していきたいと考えています。
江口:大手企業とのマッチングは、中長期の研究開発資金を確保するという側面からも、京都のものづくり企業にとって効果があります。IPO準備もさることながら、資本提携等をまとめる経理財務人材も京都では不足しています。専門家も密に連携し、起業家を支える仕組みを構築するべきだと思います。

秦:欧米のキャッチアップをすれば良かった戦後から高度経済成長期とは違い、サラリーマン人材ではなく経営人材をどう育成するかが今後の日本を左右するものになるでしょう。その中で、自主独立の精神が脈々と受け継がれている京都から、次世代の日本を担うベンチャーが生まれ育ってくれることを期待しています。本日はありがとうございました。



※「THE INDEPENDENTS」2019年6月号 - P12-13より
※冊子掲載時点での情報です