「「産学連携を通じた東北発ベンチャーの活性化」」
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株式会社東京証券取引所 上場推進部 課長 宇壽山 図南 氏
東北大学産学連携機構事業イノベーションセンター 副センター長 荒井 秀和 氏
正林国際特許商標事務所 副所長 齋藤 拓也 氏
<モデレータ>國學院大學 名誉教授 秦 信行 氏
秦:令和という新しい時代における革新に向けて、東北地区でも新しい動きが生じています。今日は現状の課題を明らかにするとともに、必要となる施策について考えたいと思います。
宇壽山:IPOという観点から東北地区に注目すると、東北6県の上場企業数は53社です。一見すると北海道や広島と同程度ですが、地域金融機関が十数社あるため事業会社の上場数は40社程度になります。2014年の(株)ホットマンの上場を最後に、5年間1社も上場企業がない地域は東北地区だけです。私ども東証は2017年11月に七十七銀行および東北大学と基本協定を締結し、地域経済発展のために産学官金で一体となって取組みを進めています。ポテンシャルはある地域だと思うので、今後のこの地域の企業成長の加速に期待しています。荒井:私は前職では仙台のソフトウェア会社の代表を務め、IPOを目指すも実現に至らなかった経験があります。IPOを応援し地域の活性化に貢献したいという想いで、2019年2月に東北大学に転職しました。東北大学では、学生や社会人に対して起業教育プログラムを推進するアントレプレナーコンソーシアム「EARTH on EDGE」を展開しています。さらに、大学のシーズや研究成果の事業化を支援するBIP(Business Incubation Program)では、年間12社の支援を行っており、これまでに11社が起業し、うち5社に対しては東北大学ベンチャーパートナーズ(THVP)が投資を実行しています。「東北大学ビジョン2030」と題して、2030年までにベンチャー創出を支えるエコシステムを構築し、100社の東北大学発ベンチャーを創出することを目指しています。基礎研究に近く事業化までに時間のかかるシーズが多いですが、今後はできるだけ早く上場できるようなシーズの育成にも力を入れていきます。
秦:大学発ベンチャーは技術ドリブンで起業するケースも多くありますが、その場合重要になるのが知財戦略です。
齋藤:当所では大学発ベンチャーを含めた中小・ベンチャー企業70社のコンサルティングを行っています。特に大学発ベンチャーでは、技術力で先行している間に自社事業を明確に定義し、ライバル企業が参入しづらくなるような特許を予め取得することが重要です。当所とのブレインストーミングによって仮想事業を構築し、知財を充実させることで、企業価値を高めることにも繋がります。秦:首都圏では近年若手の間でIT関係を中心に起業ブームが起きていますが、東北地区ではどんな傾向があるのでしょうか。まずは東北大のベンチャー輩出について教えてください。
荒井: THVPのファンドから出資した会社はこれまでに19社になりますが、大学の先生には、自身に経営のノウハウがないために経営者の採用が課題になっている方が多いです。その一方で、若手の先生の中には自ら経営に挑戦してみたいという先生もいます。例えば数年間大学を休職して経営に集中できる仕組みがあれば、今よりもスピード感のある成長ができるのではないかと考えています。秦:確かにテックベンチャーでは、優れた技術を持っていてもなかなか事業化に結び付かないケースがしばしばみられます。事業化に対する知見をもった人材の育成も重要になって来そうですね。
斎藤:育成が追い付いていない現状に対して、当所ではスタートアップを対象に「知財・法務部シェアリングサービス」を提供しています。大企業で経験を積んだ人材を月に一度派遣し、発明の製品化や企業との交渉における実践的なアドバイスを行う仕組みです。宇壽山:事業化に成功している企業には経営トップの強い意志と経営チームのコンビネーションという2つの条件が整うこと必要だと思います。どんなにすばらしい技術があっても経営トップがそれを引き上げてくれる強い意志がなければそこで終わってしまいますし、経営トップが牽引したくとも経営チームのメンバーが揃わなければうまくいきません。米国のVCでは適材適所な人材を常にリザーブしており、必要に応じて投資先に人材を供給できる仕組みが整っていると聞きます。
秦:残念ながら日本ではまだその仕組みが整っていない印象です。シリコンバレーは人材の流動性が高く、人のレファレンスが情報として得やすいですが、日本では未だ流動性が高くありません。
荒井:東北大学の場合は、東京在住のOBが多く強力なコミュニティが形成されていないために、情報が乏しく、人材マッチングの機会を失っていると思います。大学関係者のネットワークの強化も大きな課題です。宇壽山:成功している企業のもう一つの傾向として、経営トップやVCなどのサポーターが必要な人材を1年2年かけて説得し、雇用している企業が多いです。大学の先生方ではなく、VCなどの周囲の支援者がターゲットとなる人材を絞って適切だと思う人材を連れてくることが重要なのではないでしょうか。まずは1社でよいので、東北地区でこのような成功企業を生みだし、その企業がIPOを果たせば、その波に乗って続々と東北地区のIPOが増えてくると思います。
秦:最近では従業員の知っている人材を採用するリファラル採用など新しい形の採用も増えてきています。高度経済成長期に確立した終身雇用や新卒一括採用は、これからの新しい時代を切り開くにあたって相応しいとは言えなくなってきているのではないでしょうか。労働市場の流動化については意識して工夫していく必要がありそうですね。
※「THE INDEPENDENTS」2019年6月号 - P10-11より
※冊子掲載時点での情報です