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「「京都発J-Startupで世界へ」」

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株式会社FLOSFIA
代表取締役社長 人羅 俊実 氏

1975年兵庫県西宮市生まれ。洛南高校出身。1998年京都大学工学部卒業、2000年奈良先端バイオサイエンス修士。2005年ALGAN(株)代表取締役就任、GaN半導体センサ事業に関わる。2011年3月当社設立、創業者の一人として参画。2012年6月代表取締役就任。

<会社概要>
設 立 :2011年3月31日
資本金 :2,258,569千円
所在地 :京都府京都市
事業内容:ミストCVDを用いた半導体材料・素子等の開発・製造・販売

レキオ・パワー・テクノロジー株式会社
代表取締役 河村 哲 氏

1972年生まれ。桐蔭学園高校出身。京都大学大学院工学研究科修了後、住友ベークライト(株)入社。エンジニアとして電気電子部品向け高機能樹脂の開発や、絶縁材料の開発リーダーを担当。2005年(株)ドリームインキュベータ入社、大企業の技術系事業戦略・新規事業立ち上げ戦略策定、技術系ベンチャー企業の事業運営支援・投資・上場支援・民事再生等に従事。2011年当社設立、代表取締役就任。

<会社概要>
設 立 :2011年11月24日
資本金 :77,195千円
所在地 :沖縄県那覇市
事業内容:超音波画像診断装置の開発・設計・販売

経済産業省経済産業政策局
新規事業創造推進室 室長補佐 原 大樹 氏

1987年生まれ。京都大学大学院理学研究科修了後、経済産業省特許庁入庁。審査第三部生命工学にて化学・バイオ・食品分野の特許審査を担当した後、企画調査課において知的財産制度の企画・調査等に従事。現在は、経済産業省新規事業創造推進室において、J-Startupを含む、スタートアップ支援政策を担当。


「J-Startup」は、2018年6月にスタートした、日本からユニコーン企業を創出することを目指して官民が一体となって有望ベンチャーへの集中支援を行うプログラムです。今回は92社の選定企業から京都にゆかりのある(株)FLOSFIA、レキオ・パワー・テクノロジー(株)の2社と、プログラムを主導する経済産業省の双方の視点からディスカッションが行われました。


國本:初めに原さんからJ-Startupについてご説明いただけますか。

原:J-Startupは「日本のスタートアップに次の成長を、世界に次の革新を」をビジョンに2018年6月に始動したプログラムです。現在は日本にあるといわれる約1万社のスタートアップから、推薦委員の推薦によって選定された92社に対する集中支援を行っています。京都から5社が選定されています。選定企業にロールモデルになってもらい、J-Startupを核として日本全体のスタートアップを盛り上げていきたいと考えています。

國本:人羅社長の経営する(株)FLOSFIAは京都大学発ベンチャーとしてJ-Startup選定企業に選出されました。

人羅:当社は新材料「コランダム構造酸化ガリウム(GaO)」を用いたパワーデバイスの製品化とその製造法であるミストドライ法の研究開発を行っています。J-Startup選出企業のうち半導体に関する企業は3社ありますが、新材料の製品化を一から進めるマテリアル系の企業は当社だけです。当社が扱うGaOは京都大学藤田研究室で発見され、シリコンやシリコンカーバイドよりも圧倒的に優れた半導体の材料物性を持ちます。電気自動車や太陽電池に使われるモジュールに当社の半導体を導入することで、小型化や省エネ化に貢献することができます。これまでに300件以上の特許出願を行っており、特許庁からも評価いただいています。主に民生領域での製品化に向けたアプローチからスタートし、将来的には付加価値の高い産業機械や電気自動車をターゲットにあらゆる領域で当社の半導体が使われることを目指しています。

國本:2014年にインデペンデンツクラブで事業計画発表を行った際の資本金は約1億円、従業員数も10名程度でしたが、今や資本金は22憶円を超え、従業員数は40名に上ります。まさに急速に成長を遂げている最中ですね。


國本:河村社長は、京都大学・大学院を卒業後、住友ベークライト(株)、(株)ドリームインキュベータを経て沖縄で起業されました。

河村:当社は那覇に拠点を置き、超音波画像診断装置(エコー)の開発・製造を行っています。2012年にJICAのプロジェクトでアフリカ・スーダンを訪れた際、平均寿命は50歳にも満たず、乳幼児死亡率は日本の100倍以上、そして医者もほとんどいないというアフリカの過酷な現状を目の当たりにしました。このような医療空白地帯を埋めるべく、特許切れの技術を用いた安価な超音波エコーの販売を世界約50カ国で進めています。

國本:FLOSFIA社、レキオ・パワー・テクノロジー社はともに世界展開を視野に入れています。

原:J-Startupは経済産業省、JETRO、NEDOが三者一体となって事務局を運営しており、現在、海外展開支援はJETROが主体となって行っています。日本政府が掲げている「2023年までにユニコーン企業を20社創出する」という目標の達成に向け、世界を目指す企業を応援したいという想いもあり、海外進出の支援にも力を入れております。

國本:お二人は実際に選定を受けてからどのような変化がありましたか。

河村:沖縄という土地柄もあり、これまでは人材採用に非常に苦労していました。J-Startup選定企業に選出されてからは問い合わせが増え、当社に入社するために沖縄に移住してくれる仲間が集まるようになりました。
人羅:正直なところ、直接的なメリットはまだあまり実感できていません、しかし、内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」に採択されたり、Japan Venture Award 2019で経済産業大臣賞を受賞したりと様々な表彰を受けるに至ったのは、J-Startupの選定があったことも理由の一つだと思います。私たちの事業は地道に実験を繰り返すことの積み重ねであるため、量産が始まって実際に世の中に当社の製品が普及するまでは不安になることもあります。選定を受けたことで国や支援者から積極的に応援してもらえることは、社員にとっても非常に励みになっています。グローバル展開については、あくまで支援の一つとして考えて、個別の顧客開拓は当社自身が行っていかなくてはならないと考えています。

原:私たちが貢献できることの1つは、政府間の関係構築です。普段はほとんどスタートアップと繋がりのないような部署に対しても、私たちが間に入ることで両者を繋げるお手伝いをすることができます。
河村:当社の超音波エコーは医療機器としてだけでなく、状況に応じて非医療機器として国内外に販売を進めています。日本の法律では治療診断予防を目的とするものが医療機器であると示されていますが、例えばエコーで行う内臓脂肪や筋肉の測定、妊婦による自身の胎内の赤ちゃんの様子の観察は、そのどれにも該当しません。これらのグレーゾーンの市場創出戦略について、経産省と相談しながら各省庁に確認してもらっています。これまでは国内であまり対外的なPRを行わずに事業を進めていましたが、J-Startupに選出されたことで様々なイベントへ招待されることも増えたため、一気に周知を図り、拡大に向けて進むべく事業計画も見直しました。2023年までにユニコーン企業20社のうちの1社になることを目指し、日々事業を進めています。
原:ベンチャーにとって、法的な規制が課題になりうることは私たちも認識しています。各省庁との交渉や助成においてできる限りスタートアップの方々がうまく立ち回れるように、私たちをつなぎ役として積極的に活用してほしいと思っています。

國本:経産省はスタートアップの側に立ち、一緒に拡大に向けて歩んでいく存在として、各社を牽引していってほしいと思います。


國本:今後のJ-Startupプログラムはどのように進んでいくのでしょうか。

原:2018年6月に第一弾としてスタートアップ92社を選定し、まさに今後の展開を議論している最中です。また、スタートアップだけでなく、サポーターの皆様とも盛り上げていきたいという思いがあります。経済界に深く根差し、ニーズを深く理解しているサポーターの皆様とスタートアップとを私たちが繋げ、スタートアップ界隈全体の活性化に貢献していきたいと考えています。もしスタートアップとの関係を強く持っていきたいという企業がいらっしゃいましたら、是非お声がけいただきたいと思います。

國本:最後に関西に所縁のある皆様から一言ずつお願いします。

河村:私は東京から沖縄に移住して、人が少なくのんびりしている今の環境の方が事業に集中できていると感じています。地方都市ならではの優位な部分を活かして、当社を含めた地方都市発ベンチャーの成長に期待したいと思います。 人羅:J-Startupに選定された際、喜ばしい反面、ベンチャー企業が国に認められて喜んでいて良いのか、ベンチャーとしては反骨精神を持つべきではという葛藤もありました。今後形成されるベンチャーコミュニティが、ベンチャーならではの個性や反骨精神も受け入れられるものであってほしいです。
原:実際に各地域を訪れると、日本各地でスタートアップコミュニティが興り始めていることを実感します。京都や大阪など関西地域からも多様なスタートアップが輩出されることに期待しつつ、今後も様々な取り組みを進めてまいります。


2019年2月15日京都インデペンデンツクラブ 京都リサーチパークにて