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「日本の株式市場の問題点(1)」

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國學院大学
教授 秦 信行 氏

野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。
1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。
1994年國學院大学に移り、現在同大学教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。
日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。
早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)




 2018年の日本の株式市場への新規上場企業数は、東京プロ市場への上場会社を除くと90社、市場別の内訳はマザーズ63社、ジャスダック14社、アンビシャス1社、東証1部7社、東証2部5社だった。2017年のプロ市場への上場を除く新規上場社数89社、それから見ると2018年のプロ市場を除く上場社数は昨年比1社増えたことになる。

 新興市場への新規上場社数に限ると、マザーズが前年比15社と大幅に増加、ジャスダックは前年比4社減少、加えて札幌のアンビシャスで新たに1社上場という結果になった。

 東京プロ市場への上場社数は2018年が8社、2017年が7社であったので、それらを含めたすべての新規上場社数は98社、2017年の96社より2社増加したことになる。

 ご承知のように、日本での新規上場社数は2000年代後半のベンチャーの相次ぐ不祥事やリーマンショックの影響によって2009年には19社にまで落ち込んだ。しかしその後回復に転じ、2015年には東京プロ市場を除く新規上場社数で92社(プロ市場込みで98社)と直近のピークをつけた。それ以降は2016年83社(プロ市場込みで86社)、2017年89社(プロ市場込みで96社)、2018年90社(プロ市場込みで98社)と年間100社近くの水準が続いている。加えて2019年も今の見通しではここ数年と同水準と見る見方が多い。

 このように新規株式上場の動きは堅調に推移している模様なのだが、変調の兆しも見え始めている。一番の懸念は株価で、ここ数年新規上場会社の株価は上場後も堅調に推移していたのであるが、株式市場全体の株価動向が世界的に見ても2018年の秋口以降不安定化する中で、2018年に新規上場した会社の株価は年末段階で初値割れの企業の比率がかなり高くなっており、どうやら株式市場は踊り場から下降局面に入った感も出て来ている。

 日本の株式市場への年間新規上場社数について更に過去に遡って長期的に見てみると、以前の新規上場社数は現状と比較して倍近くあったことが分かる。すなわち、新規上場社数の直近のピークであった2006年を見ると188社となっており、ここ数年の約倍であった。更に年次を遡ると2000年の新規上場社数は204社であった。新興市場だけを見ても、2006年はマザーズ41社、旧ヘラクレス37社、旧ジャスダック56社、合計134社、2000年ではマザーズ27社、旧ヘラクレス33社、旧ジャスダック97社、合計157社となっており、過去の新興市場への新規上場社数はかなり多かったことが分かる。こうした状況に鑑みると、日本の新規株式上場=IPOは現状活況だと言っていいのであろうか。

 更に、日本の株式上場ないしは株式市場全体の在り方にについては幾つかの問題が浮上している。その一つが2011年に統合された日本取引所グループの傘下にある東京証券取引所の4つの市場、すなわち東証1部、東証2部、マザーズ、ジャスダックの再編問題である。この問題については既に「市場構造の在り方等に関する懇談会」が作られており、有識者による議論が始まっている。次回以降では、この市場再編問題も含めて日本の株式市場や株式上場について改めて考えてみたい。




※「THE INDEPENDENTS」2019年1月号 掲載
※掲載時点での情報です