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「ネット診察を活用し1秒でも早く薬を届ける仕組みをつくる」

公開

<聞き手>
株式会社AGSコンサルティング
専務取締役 小原 靖明 氏(写真左)
1985年明治大学大学院法学研究科修了。1989年当社入社。2000年IPO支援会社ベックワンソリューション設立、代表取締役就任。2007年合併に伴い、当社取締役就任。2012年3月常務取締役。2014年3月専務取締役(現任)

<話し手>
ネクストイノベーション株式会社
代表取締役石井 健一 氏(写真右)
1978年生まれ。獨協埼玉高校出身。2001年帝京大学薬学部卒業後、アストラゼネカ(株)、ノバルティスファーマで医療情報担当者として従事。2013年関西学院大学専門職大学院経営戦略研究科卒業。2013年(株)メディイノベーションラボ代表取締役。2016年当社設立、代表取締役就任。

【ネクストイノベーション株式会社】
設 立 :2016年6月3日
資本金 :184,080千円
本 社 :大阪府大阪市北区天神橋3-6-5 ベルニーニ南森町1005
事業内容:インターネットを用いた遠隔医療サービスの企画及び運営
URL :https://nextinnovation-inc.co.jp/

<特別対談>これからのIPOスタイル

ネット診察を活用し1秒でも早く薬を届ける仕組みをつくる




■オンライン診療サービス『スマ診』『スマルナ』

小原:貴社は遠隔診療を補完的に用いたサービス『スマ診』『スマルナ』などの運営を行っています。2016年にサービスを開始し、登録ユーザー数は約7000人を超えました。
石井:私たちが顧客体験として重点を置いているのは、「診察、診断」というプロセスもさることながら、スマートフォンでのオンライン診察を利用して通院できない患者に「いち早く薬を届ける」プロセスの構築です。『スマ診』ではオンライン上のやりとりで医者が患者を診察し、処方された薬を最短翌日に自宅や職場など任意の場所で受け取ることができます。
小原:『スマ診』の診察は全て自由診療(自費診療)ですが、診療報酬に含まれる管理料、薬剤師の技術料コストが大半を占める調剤基本料を削減したことで3割負担の保険診療と同程度の負担額を実現している点が特徴です。
石井:隙間時間を活用した診察が中心であるため医者にとっても負担が少なく、1人当たり月間約300人の患者を診察することができます。現在の登録医者数は約30人ですが、おかげさまで多数のお問い合わせを受けています。
小原:石井さんは製薬会社でのMR、医療系のコンサルティングを経て起業されました。
石井:臨床現場での経験で、世の中には薬の処方箋を出してもらうためだけに診察を受ける患者が多いことに気づきました。忙しくて直接病院に行くことが難しい患者や対面診療に抵抗のある患者に対してより効率的に薬を届ける仕組みをデザインし、同時に医者にも本当に対面での診療が必要な患者にフォーカスしてもらいたいという想いから、この事業を立ち上げました。

■婦人科疾患から生活習慣病へ領域拡大

石井:これまではインフルエンザ予防や花粉症の診断、『オトコノスマ診』によるEDやAGAのオンライン診断を展開してきましたが、現在は2018年に開始したピル外来専門ネット診療サービス『スマルナ』が中心です。ピルは定期的に購入される薬であるためユーザー数は急速に伸びており、2019年5月に2万人、2020年5月には8万人に上る予想です。
小原:日本では未だにピルに対してネガティブなイメージを持つ人が多いですが、20代前半より若い世代では抵抗のない人が増えています。5年後、10年後に世代がずれこめば、市場性も変わってきます。
石井:現在の国内市場は約200億円ですが、対象人口における普及率は3%と先進国の中でも極めて低くなっています。フランスやオランダでは30%の普及率を達成しているため、日本でも今後2000憶円程度まで拡大する見込みのあるマーケットです。
小原:別の医薬品と組み合わせることで安定して客単価を伸ばすこともできます。
石井:既存顧客に対する脇・足のにおいなどのコンプレックス領域の治療薬やドクターズコスメの提供を検討しています。将来的には婦人科疾患領域での20~30万人のユーザー数獲得を目指しています。
小原:収益化のめどが立てば、対象疾患の拡大にも期待できますね。
石井:生活習慣病領域への進出を目指しており、既存の患者ではなく糖尿病や高血圧の予備軍層をターゲットとしたソリューションの提供を検討しています。並行して海外への横展開も行う予定です。

■IPOを経て医療データのプラットフォーム化を目指す

小原:生活習慣病への領域拡大が実現した後は、IPOも視野に入ってきます。
石井:2023年の上場を目指しており、追加の資金調達を終えた来年の秋頃から本格的な準備に入る予定です。
小原:医療業界では思わぬところで法規制が障害になる可能性もあり得ますから、慎重に準備を進めてください。医師会とも協調してスピード感をもって事業を拡大し、後続の企業が出てきた際にも貴社が患者を握っていることが重要になると思います。
石井:サービス内で使えるポイントを付与するなど患者にインセンティブを与えながらデータを収集し、将来的にはデータビジネスの領域に進出することを考えています。当社がプラットフォームとなって患者の医療情報を一元管理し、世界中の医者と患者を繋ぐ仕組みを構築します。
小原:ヘルステックの領域は日々進歩しているので、アライアンスにも期待ができそうですね。今後の事業拡大に期待しています。本日はありがとうございました。


*対談後のコメント

小原:『スマルナ』での来期売上は3億円を見込んでおり、「生活習慣病領域」への展開がうまく進めばIPOは問題ない事業だと思います。しかし、十分に理解されているのは承知しておりますが、対談の中でもあったように、医療・医師の世界では法的規制ばかりでなく、既得権益からの思わぬ妨害や障害も予想されるので、今後も継続的に慎重な対応が必要でしょう。
石井:まだまだサービスが立ち上がったばかりで、ユーザーの声を集めながらプロダクトマーケットフィットを進めています。現役世代の悩みにフォーカスしている、という特性を生かしながら医療×データ系ビジネスのプラットフォームになれるように頑張ります。応援何卒よろしくお願いいたします。

※「THE INDEPENDENTS」2019年1月号 - p22-23より