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「プログラムの著作物性について」

公開


弁護士法人 内田・鮫島法律事務所
弁護士/弁理士 高橋 正憲 氏

2004年北海道大学大学院工学研究科量子物理工学専攻修了後、(株)日立製作所入社、知的財産権本部配属。2007年弁理士試験合格。2012年北海道大学法科大学院修了。2013年司法試験合格。2015年1月より現職。

【弁護士法人 内田・鮫島法律事務所】
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http://www.uslf.jp/

図参照


 今回は,プログラムの著作物性について争われた電車設計用プログラム事件を紹介します。プログラムは「思想又は感情を創作的に表現したもの」ではない場合,すなわち創作性を欠く場合には著作物とは認められず著作権法上の保護を受けられません。本判決はどのようなプログラムが創作性を欠くのか具体的に判示している点において実務上参考になる判例といえます。

1.事案

 原告は,CADソフト上で作動する「鉄道電気設計及び設備管理用の図面作成のためのコンピュータ支援設計製図プログラム」(以下,「原告プログラム」)を鉄道会社に納品していたところ,被告も同種のプログラム(以下,「被告プログラム」)を同じ鉄道会社に納品していました。
 原告は,被告プログラムには,原告プログラムと記述が実質的に同一である部分が存在しているとして,原告プログラムの複製権侵害および翻案権侵害を主張しました。

2.東京地裁の判断

 東京地裁は,プログラムの創作性の有無の判断基準について,「プログラムは,その性質上,表現する記号が制約され,言語体系が厳格であり,また,電子計算機を少しでも経済的,効率的に機能させようとすると,指令の組み合わせの選択が限定されるため,プログラムにおける具体的記述が相互に類似することが少なくない。仮に,プログラムの具体的記述が,誰が作成してもほぼ同一になるもの,簡単な内容をごく短い表記法によって記述したもの又は極くありふれたものである場合においても,これを著作権法上の保護の対象になるとすると,電子計算機の広範な利用等を妨げ,社会生活や経済活動に多大の支障を来す結果となる。…したがって,電子計算機に対する指令の組み合わせであるプログラムの具体的表記が,このような記述からなる場合は,作成者の個性が発揮されていないものとして,創作性がないというべきである。…」と判断しました。

3.本裁判例から学ぶこと

 プログラムのような機能的著作物においては,本判決中でも指摘されているとおり,音楽や絵画のような作品と比べると,表現の選択の幅が限定せざるを得ません。そのため,プログラムの具体的記述が,誰が作成してもほぼ同一になるもの,簡単な内容をごく短い表記法によって記述したもの又は極くありふれたものである場合には,作者の個性が発揮されていないものとして,創作性が認められない点に留意が必要です。
 著作権法は,著作物の表現を保護するものであり,アイデアを保護するものではありません。そのため,プログラム言語や規約,解法といったプログラムの表現との関係ではアイデアに位置付けられるものは,著作権法上の保護対象となりません。例えば,処理の流れが目新しいプログラムであっても,一つ一つのプログラム自体に個性がない場合には創作性が認められず著作権侵害を問うことはできません。このような処理の流れに新規な特徴を有するプログラムの場合には、当該特徴が技術的思想の創作にあたれば、特許により、他社の模倣を防ぐことが可能となるので,当該アイデアを特許出願しておくことが肝要となります。プログラムは、著作権と特許権の両面により保護が可能となるのです。

(注釈)
*1.本裁判には他の争点も存在しますが,本誌では紙面の都合上,関連部分のみ紹介しています。


※「THE INDEPENDENTS」2018年8月号 - p32より