「中国企業の市場戦略」

1989年に来日、在日中国人向け総合中国語新聞「中文導報」を創刊し、メディアを軸に物販事業も手掛けてきた中文産業グループ代表羅怡文（ラ・イブン）氏に、日本での起業、ラオックスの買収、そして日本と中国の関係について話を伺いました。

―ラオックスを買収した経緯について教えてください
大阪にある当社ショッピングセンター「上海新天地」にFCとして出店していました。ラオックスは秋葉原の中でも免税品ビジネスの先駆けであり、外国人の間ではとても知名度が高かったからです。ラオックスへの経営参加を決断した最大の理由は、そのブランド価値にあります。中国の家電業界はものすごい勢いで伸びており、切り口を違えて見れば、日本においてもまだまだ可能性があると思います。

―中国の蘇寧電器（ソネイデンキ）と一緒に資本参加されました
蘇寧電器は中国国内最大の家電量販チェーンで、中国全土に約1,000店舗あります。彼らは日本の家電製品はとても高く、家電量販店のサービスやノウハウを日本から学びたいと考えていました。一人一人のお客様に対してきちんと挨拶する姿勢、商品の陳列方法やポップの作り方など、きめ細かい点で日本は独特な文化を持っています。中国と何か決定的な違いがあるとはいえませんが、日本という手本を見ただけではなかなか真似はできません。

―ラオックスの社長に就任して、一番変えたいと思う点はどこでしたか
過去のラオックスには明日なくなるかもしれないという不安がありましたが、今はマーケットが中国まで広がる可能性がでてきました。数ヶ月で劇的に会社は変わりませんが、倒産危機も遠くなり将来性も見え、社員が安心感や将来に対する希望を持てるようになりました。われわれは事業会社です。いつか抜けてしまう投資ファンドとは違い、この会社を永続的に発展させたいと思います。

―もともと日本で起業するつもりだったのですか
1989年に留学で来日したときは、中国にすぐ買えるつもりでした。ところが日本でアルバイトをしているうちに自分で何か事業をやりたいと思うようになりました。当時の中国は資本主義経済を取り入れ始めた頃で、まだ起業など考えられる環境ではありませんでした。1992年に中国書籍の貸本店を開業してから事業が拡大していき、気づいた時には中国に戻れなくなってしまいました。自分の中にはもう国境を意識する事はありません。

―在日中国人の市場が成長しています
その頃、在日中国人は20万人でした。現在は80万人になり、近い将来には100万人を超えていきます。観光で来日する中国人も増えています。日中間の経済や文化交流に伴い、在日中国人向け新聞である「中文導報」のマーケットは非常に大きくなりました。一方で新聞だけでなく、テレビやインターネットなど情報取得ルートが多様化した結果、情報の価値が下がり今やほとんどが無料です。新聞を有料で販売するモデルもいつまで続くかわかりません。1997年にはCSテレビ放送を始めました。時代をリードしたい気持ちはありますが、後を追っかけているのが現状です。

―発行部数はトップですが、特徴はどこにありますか
日本国内にある中国語の新聞では専属記者がいて自分達自身で編集しているのは当社だけです。日本だけでなく中国のニュースも扱う総合情報誌ですが、在日中国人のコミュニティ情報を掲載しています。我々の読者は在日中国人社会であって、同時に彼らは我々の記者でもあります。現在の発行部数は8万部、広告スポンサーは在日の中国系事業者が主です。

―メディアの社会的な役割についてどのようにお考えですか
新聞の中立性や社会性に関して我々に規制はありません。ただ、読者の視点で表現するだけでなく、時代の先を見る点とのバランスは重要です。中文導報はその名に「導」という字を使っているように、日本に来る中国人が早く日本社会に適応するために役立ちたいと思います。現在、「中文導報」は在日中国人社会ではかなりの影響力を持つようになりました。中国に帰って活躍している方々から「中文導報の読者だった」という話を聞く事を我々は誇りに感じています。

※全文は「THE INDEPENDENTS」2010年3月号 - p4-7にてご覧いただけます