「ボールSAWセンサーによる小型・高速・高感度な微量水分量の開発」
公開
<話し手>
ボールウェーブ㈱ 代表取締役 赤尾 慎吾 さん(左)
1999年筑波大学大学院理工学研究科修了。同年10月凸版印刷株式会社入社総合研究所配属。2003年より凸版印刷総合研究所でボールSAW関連の研究開発に従事。2009年東北大学大学院工学研究科材料システム工学専攻博士課程後期終了。同年より東北大学未来科学共同研究センター客員准教授。2014年に凸版印刷を退職、文部科学省STARTプロジェクト「ボールSAW微量水分計の開発」に東北大学未来科学共同研究センター特任准教授として参画。2015年11月当社設立、代表取締役就任。
<聞き手>
弁護士法人内田・鮫島法律事務所
弁護士 鮫島 正洋さん(右)
1963年1月8日生。神奈川県立横浜翠嵐高校卒業。
1985年3月東京工業大学金属工学科卒業。
1985年4月藤倉電線(株)(現・フジクラ)入社〜電線材料の開発等に従事。
1991年11月弁理士試験合格。1992年3月日本アイ・ビー・エム(株)〜知的財産マネジメントに従事。
1996年11月司法試験合格。1999年4月弁護士登録(51期)。
2004年7月内田・鮫島法律事務所開設〜現在に至る。
鮫島正洋の知財インタビュー
「ボールSAWセンサーによる小型・高速・高感度な微量水分量の開発」
■大学発新産業創出拠点プロジェクト(START)から東北大学発ベンチャーとして創業
鮫島:東北大学未来科学技術共同研究センターの山中一司教授(現取締役)の研究成果であるボールSAW(surface acoustic wave:弾性表面波)を応用した高性能・高感度なガスセンサーを基に製品化・事業化を図っています。
赤尾:山中教授のボールSAW利用のガスセンサーの基盤研究は、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業のCRESTに採択され、その後文部科学省が実施している大学発新産業創出拠点プロジェクト(START)の2014年度プロジェクトにも採択されました。このプロジェクトでは、事業プロモーターとして日本戦略投資に事業化の支援をしていただきました。この事業化の過程の中で2015年11月に当社を設立しました。■小型・高速・高感度な微量水分計『Falcontrace』
鮫島:貴社のボールSAWセンサーの特徴を教えてください。
赤尾:「球の表面波はどこまで伝搬しても広がらず、同じ幅を保ったまま伝搬する」という原理を応用しています。球状の圧電体の赤道上に、すだれ状電極を設置すると、表面波は音速で何百周も回ります。これにより極微量でも測定できる画期的なボールSAWセンサーが誕生しました。従来のSAWセンサーより100倍の高感度で、感応膜を変えることで様々な気体測定にも対応できます。圧電体には約3mmの単結晶水晶を使うため、耐腐食性が高いのも特徴です。鮫島:ボールSAWセンサーの生産プロセスの開発では、東北大学の半導体試作開発設備を活用しています。
赤尾:われわれの技術はMEMSを使用しているのですが、MEMSの製造には非常に高価な設備が必要になります。そこで、東北大学西澤潤一記念研究センター内にある「試作コインランドリ」を活用しています。「試作コインランドリ」では、技術支援を受けながら、必要なときに必要な装置を時間単位で自ら操作して試作開発を行うことができます。東北大学に蓄積された多くのノウハウにもアクセスすることができ、効率の良い研究開発が進められるとともに、開発投資を減らすことができます。現在の製造キャパシティーは1000個/年ですが、受注の増加により製造設備の導入を計画しています。鮫島:最初の商品としてガス中の超微量な水分を測る微量水分計『Falcontrace』を開発しました。
赤尾:近年、高集積、微細化した半導体デバイスの進化に伴って、製造過程で使用される材料ガスの高純度化が重要な課題になっています。その中で不純物として問題にされる物質の一つが水分ですが、最も厳しい要求はppm(100万分の1)のさらに1000分の1のppbレベルの制御が必要とされています。ターゲットは、半導体製造装置メーカー、LED等の材料ガスメーカーの品質管理などを想定しています。『Falcontrace』は今年の9月に大手メーカーに納入済みです。■今後の事業展開
鮫島:2016年9月にVCから資金調達をおこないました。
赤尾:特許の実施許諾を受けたタイミングで、東北大学ベンチャーパートナーズがリードとなって、大和企業投資(復興ファンド)、七十七キャピタル、SMBCベンチャーキャピタル、三菱UFJキャピタル、みずほキャピタルより総額2億5000万円の出資をうけました。増資後、特許買取資金の目処がついたことから、特許移転の交渉を開始しました。鮫島:複数の特許権者がいたので、整理するのが大変だったと思います。
赤尾:会社設立時に、山中教授が持っていた特許は譲渡していただきましたが、その他の特許についてはサブライセンス付きで東北大学TLOの(株)東北テクノアーチに一旦集めました。現在、全特許権は当社が買取りましたが、JSTの支援をうけて取得した特許1件のみ東北大学に残しています。製品も完成し特許買取も完了しましたので、今年度中に次回ファイナンスを検討しています。赤尾:今後は、ボールSAWをコア技術に、これまでの研究成果を応用した水素センサーや多種類のガスが測定可能なガスクロマトグラフへ事業を拡大していきます。われわれのセンサーは、高感度・高速を謳っていますので、まずはハイエンドの市場を狙っていきます。将来的にはセンサーの製造・販売を行うグローバルセンサーメーカーを目指していきます。
鮫島:実際のマーケットでは、いろいろなニーズがあると思います。マーケットに応じてミドルレンジの製品を開発するなどの柔軟性も必要かと思います。但し、特許を全て取得するのは資金的に難しいので選択と集中が必要です。本日はありがとうございました。
―「THE INDEPENDENTS」2017年11月号 P24-25より