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「「FinTech×会計の未来を語る」」

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(株)オービックビジネスコンサルタント
代表取締役社長 和田 成史さん (右)
1975年立教大学経済学部卒業。1980年公認会計士および税理士登録。同年株式会社オービックビジネスコンサルタント設立、代表取締役就任。一般社団法人コンピュータソフトウェア協会名誉会長・理事、経済産業省産業構造審議会ソフトウェア小委員会委員、公益社団法人経済同友会幹事など多くの公職も務める。

一般社団法人FinTech協会 代表理事
メリービズ(株) 代表取締役 工藤 博樹さん (左)
2000年東京工業大学修士課程修了後、日本IBM入社、グローバルプロジェクトのプロジェクトマネージャーを担当。2008年INSEAD-MBA取得。経営戦略事務所にて大手企業向けに経営戦略をコンサルティング。2010年Locondo.jp立ち上げ。2011年スローガン新規事業パートナー、GREEグローバルアライアンス担当。2012年2月当社設立、代表取締役就任。FinTech協会代表理事も務める。

<(株)オービックビジネスコンサルタント *2016年3月>
設 立 :1980年12月
資本金 :105億1900万円
所在地 :東京都新宿区西新宿6-8-1 住友不動産新宿オークタワー32F
拠 点 :大阪、名古屋、札幌、仙台、関東(さいたま)、横浜、静岡、金沢、広島、福岡


株式会社オービックビジネスコンサルタント 代表取締役社長 和田 成史 氏

一般社団法人FinTech協会 代表理事 工藤 博樹 氏(メリービズ株式会社 代表取締役)


昨今、金融(Finance)と技術(Technology)を掛け合わせた「FinTech(フィンテック)」分野が大きな注目を集めています。2015年9月に一般社団法人FinTech協会を設立し、ご自身もメリービズ社の代表としてFinTechサービスを手がける工藤博樹氏に、FinTechが急速に普及した背景と今後の動向、そして奉行シリーズで知られるオービックビジネスコンサルタント(以下、OBC)和田成史氏にFinTechと会計の未来について語っていただきました。

―まず2015年に日本でFinTechが普及した背景と今後のFinTechの動向を教えてください。


工藤:スマートフォンやタブレットの普及による行動様式の変化はもちろん、データのクラウド化・API化やAI(人工知能)の発達による技術的背景も一因として考えられます。ユーザーにとって理想的な金融サービスとは何かについて、実現できる環境が整いつつあり、これにチャレンジするFinTechスタートアップが増えていることが大きなうねりになっているのだと思います。
金融庁もFinTechに本腰を入れ始めており、FinTech協会にも大手金融機関だけでなく、地銀や信金の加盟が増えてきました。スタートアップでは、会計ソフトがその蓄積されたデータを融資に活用するなど、金融機能の中枢に迫ってきています。金融機関としては、その動きに危機感は持ちつつ新たな発見もあるようで、提携可能性も見据えながら、FinTech時代の在り方について模索しているという印象です。

―ビジネスの世界及び会計業界におけるFinTechの流れはいかがでしょうか?


和田:コンシューマの分野では、価値があるものに価格が設定され、取引が自然発生する。FinTechもそのような必然性があったのでしょう。当社が属するビジネスの分野でも、コンシューマによるFinTechの流れを受けてクラウドサービスの普及が加速しています。ほんの数年前までは業務データをクラウド上に保管することに抵抗のある企業が多かったのですが、ここ最近はクラウドありきのご提案がほとんどです。金融庁などの積極的な動きを見てビジネスの世界でも普及の後押しになっているのでしょう。
会計システムに関連するテーマで言えば「仮想通貨」が興味深いですね。かつてはビジネスで当たり前に使われていた手形も今は電子手形に置き換わりました。これと同じ流れを仮想通貨にも感じます。とは言っても仮想通貨はまだ投機的要素が強く、コンシューマ向けの印象がありますが、大手金融機関が仮想通貨の発行を予定していますので、ビジネスの世界でも活用が拡がっていきそうです。会計システムとしては仮想通貨がビジネス上利用できるようになったとしても固定レートが保証されれば対応可能と考えられます。

工藤:キャッシュレスの流れは今後加速していきますね。その中である程度のルールや標準化をどう設計するかが課題になるでしょう。例えば、ブロックチェーン技術を使った暗号通貨について、ある金融機関が提供しているA通貨は使えるのに別の金融機関が提供しているB通貨は使えないという状況は利用者が不便になるだけです。
同様に、FinTech関連のベンチャー企業が金融機関とシステム連携をしたくとも、金融機関側が提供しているAPIがバラバラだと、金融機関ごとに開発しないといけなくなります。ある程度の統一化は図りつつイノベーションを阻害しないために慎重な議論が必要です。

和田:こういった課題をひとつずつ解決して前進することが大切です。消費者も自己責任を前提に、リスクにさらされながらも金融サービスと関わっていくことが社会の発展につながるのではないでしょうか。

工藤:英国やシンガポールではサンドボックスを設けたりと、規制に対して実験プロジェクトを行い、FinTech推進に積極的です。100%安全な金融サービスは不可能で、リスクとリターンは常にセットです。そういった意識がもっと日本でも浸透すれば、FinTechも面白くなってくると思います。

―「奉行シリーズ」など会計ソフト分野で高いシェアを誇るOBCの、FinTech時代における取り組みは如何でしょうか。


和田:当社では、次世代型クラウド会計システムの開発に取り組んでいます。これによって、まず「コラボレーション」「アウトソーシング」「コミュニケーション」の機能が大きく進化します。パートナーである会計士や税理士、金融機関、投資家等の社外の専門家とお客様がいつでもどこでもクラウド上でつながり、相談・協力、そして必要に応じて会計業務のアウトソーシングも可能です。開発プラットフォームはマイクロソフト社のWPFを採用し、安全性やセキュリティはもちろん、リッチクライアントによってこれまで以上の操作性も実現しています。

工藤:デモ版を拝見しましたが、心地よい使用感でした。FinTechのキーワードとして、「自動化」や「可視化」が挙げられると思いますが、そのあたりはいかがでしょうか。

和田:領収証や入出金情報を、過去の取引状況を参照しながら自動仕訳するなど、「データオートメーション」にも力を入れています。OCR(文字認識技術)や機械学習も取り入れながら、効率性もより強化していきます。また、Web API機能によって外部データの取り込みや他のソリューションとの連携を可能にし、つながる拡がるシステムを目指しています。

工藤:従来の会計システムは取引を記録することが主でしたが、これからは会計情報を経営判断にどう役立てるかが重要になります。単純な自動化では不十分で、経営判断に必要な情報をどう整理するか。求められているのは会計データを用いた「サービス」です。まさに御社が得意とされている部分ではないでしょうか。

和田:その通りだと思います。かつて紙とペンで行ってきた仕訳起票はテクノロジーに代替され、効率性・生産性が大幅に向上しました。そして現在、会計データをクラウド上で共有し、いつでもどこでも外部の専門家とコミュニケーションを取りながらデータ分析やマーケティング活動を行うという新しい会計サービスへ転換しています。これが次世代会計の在り方であり、当社にも「サービス」としての振舞いが期待されています。

―最後に、FinTech時代を乗り越えていくための、今後の展望についてお聞かせください。


和田:FinTechの台頭によって、我々が果たすべき本質的な機能は何かを見つめ直す契機になりました。物事は突き詰めて考えればシンプルに帰結します。無駄が多い部分では、時に大胆な発想が必要です。まだDOSが主流だった時代に、思い切ってWindowsに開発を切り替えた歴史が当社にはあります。当時そんなことを考える人は数人しかいませんでしたが、これと同等以上の覚悟で、次世代クラウド会計に臨んでいます。これまで以上に貢献できる仕組みや機能を、会計を必要とされる方々に提供していきたいと考えています。

工藤:FinTech協会としては、スタートアップを支援すること、ならびにスタートアップを中心にエコシステムを形成することを主眼としていますが、割賦販売法の改正に協会意見が採用されるなど、活動の成果が出始めています。インフラ整備やセキュリティ強化には大きな投資が必要ですが、来年予定されている銀行法の改正によって事業会社への出資制限が緩和され、スタートアップにお金が集まる環境も整いつつあります。FinTechがバズワードで終わらないように、各団体・企業が切磋琢磨し、ひとつひとつ芽を出していきたいですね。

―本日はありがとうございました。


※「THE INDEPENDENTS」2016年12月号 - p18-19掲載