「「タンパク質合成技術を幅広いバイオ関連産業のプラットフォームとして社会に貢献していきます。」」
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<起業家インタビュー>
NUProtein株式会社 代表取締役 南 賢尚 氏
「タンパク質合成技術を幅広いバイオ関連産業のプラットフォームとして社会に貢献していきます。」
名古屋大学多田教授チームから生まれたタンパク質合成技術を世界に展開していくベンチャー企業
知財開発とCVC(コーポーレートベンチャーキャピタル)を経験してきたパナソニック出身の起業家
■ バイオ創薬開発においてタンパク質の合成と解析は欠かせません。
細胞は、15%がタンパク質(protein)で構成されています。遺伝子情報から転写と翻訳という工程を経て行われるタンパク質合成は、人工的な再現が非常に困難です。古くは家畜等の死骸から、BSE以後は大腸菌、蚕、ハムスター細胞等から抽出していましたが、大腸菌などの場合は培養・集菌・溶菌工程で2週間超要する上に失敗する事が多く、結果的に非常に高価なものになっていました。このような細胞と大腸菌等からの製造方法に対し、無細胞でタンパク質が工業的にも合成できれば簡便性とコスト面で大きなイノベーションをバイオ産業にもたらします。■ どんなタンパク質でも1日で合成可能になる画期的技術です。
名古屋大学遺伝子実験施設の多田安臣教授が発見発明したDNAからRNAを抽出する鋳型作成技術と、RNAからタンパク質へ翻訳する独自のコムギ胚芽抽出液がベースとなっています。大規模な設備も遺伝子組換技術も必要としないタンパク質合成技術で、これまで難合成であった膜タンパク質やリン酸化酵素等も簡便に合成可能になりました。■ タンパク質合成のターゲットは研究試薬市場からになります。
バイオ創薬や大学等の研究機関などで、合成するタンパク質の新奇性や網羅性が求められています。世界の研究試薬市場は毎年10%成長しており、当社のターゲットとする市場規模は700百万ドルほどと予想しています。バイオ市場は日本の1に対して米国4倍、欧州4倍の規模ですので海外戦略が重要になります。■ 競合先について教えてください。
研究者向け無細胞タンパク質合成キットでは、米国プロメガ社やセルフリーサイエンス社がありますが、価格と合成能力面で圧倒的な優位性が私どもにあります。工業用タンパク質受託分野では、ハムスター細胞を用いたスイスロンザ社、韓国サムスンバイオロジックス社などの大企業が占めていますが、無細胞系では現状は私どもだけになります。■ 総利益率が非常に高いですね。
研究者向けキット価格は5万円ほどを予定しています。コムギ胚芽抽出液を主原材料にしている点、短期間で製造できる点などで製造コストが非常に低くなります。工業用ではハムスター細胞のバイオリアクター(培養設備)4000リットル級と同等のものが、ポリタンク10個分規模(200ℓ)で実現可能で、設備投資額も少なくなります。ただしマイナス80度での配送(コールドチェーン)が必要になるため販売管理費は高くなります。■ 日本に製造拠点を持ちながら世界へ展開する計画です。
製造ノウハウの海外流出を避けるため海外に製造拠点は設けない方針です。知財戦略は基本特許をJSTの支援を受け国際出願済です。翻訳液の製造はノウハウとして秘匿し、模倣困難性を高めます。販売面では国内は大手流通ルート(試薬販売代理店)を通じて、海外は米国・英国に流通拠点(コールドチェーン)を設けて直販していきます。製品は冷凍されるので年単位で保存できます。■ 無細胞タンパク質合成キットの販売計画について教えてください。
国内では3期目に年間18,000キットで売上5億4千万円と経常利益4億円を想定しています。海外はその7倍の売上30億円を見込んでいます。海外を早期に狙うことで大きな収益を上げ、BCMO(バイオ医薬品製造受託)事業に参入したいと考えています。■ 南社長はエンジニアとしてもインキュベーターとしても経験豊かです。
パナソニック時代には、DVD、SDカード、Blu-ray等の技術開発および標準化に取り組みました。SDカードの必須特許を含め連名含め100件超の特許発明者です。併せて米国にてコーポレートベンチャー投資、インキュベーション業務を経験しました。名古屋大学では産学官連携推進本部の特任講師でした。■ NEDO主催のビジネスプランコンテンストでの最優秀賞受賞が創業のきっかけです。
名古屋大学在職メンバーチームが、国内トップクラスの「NEDO TCP」コンテスト2015年で最優秀賞になりました。副賞としてシリコンバレーでのアントレプレナー研修を受け、そこで開催されたSVForumでも優勝しました。その後チームで創業準備をしましたが社長候補がおらず、名古屋大学産学官連携推進本部で本プロジェクトを担当していた私が会社を設立しました。普段から「パッションが大事だ」「リスクを恐れるな」と言っていた手前もありますが、このタンパク質合成技術が世の中に普及しない事は大きな社会的損失だと思っています。■ 本日はありがとうございました。最後に今後の展開について教えて下さい。
私たちのビジョンは、無細胞タンパク合成技術をコアに、研究開発市場から工業的生産にまで拡大し、創薬・農薬・工業酵素を含むすべてのバイオ産業のプラットフォームにする事です。タンパク質合成キットの外販を第一段階として、第二段階はタンパク質の大量合成事業を展開していきます。そのために資金調達を行い、将来はIPOも目指していきます。※「THE INDEPENDENTS」2016年12月号 - p6-7より