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「モーニング・ピッチ」

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國學院大学
教授 秦 信行 氏

野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。
1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。
1994年國學院大学に移り、現在同大学教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。
日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。
早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)



ベンチャーコミュニティを巡って


「ピッチ」というと「投げる」とか「位置を定める」といった意味で使われる英語だが、米国では「売り込む」とか「宣伝する」と言った意味でも使われる言葉だそうだ。ベンチャーの世界では最近この後者の意味での「ピッチ」という言葉がよく聞かれる。

「モーニング・ピッチ」というイベントが毎週木曜日の朝7時から、新宿野村ビルの48階で、トーマツベンチャーサポートと野村證券が幹事役となって行われている。イベント内容は、毎回5社程度のベンチャー企業が一社当たり数分で自社の「売り込み」を行い、オーディエンスとして参加している主として大企業との提携や彼らからの資金調達につなげてもらおうというものである。

筆者はこのイベントを聞いて知ってはいたが、朝早いこともありこれまで参加したことはなかったのだが、先週木曜日一度覗いてみようと思い参加させてもらった。いつもは事業分野毎にベンチャーを選んでいるようだが、その日はサイバーエージェント・ベンチャーズというVCの投資先5社が選ばれ「ピッチ」を行った。

参加してまず驚いたのは、朝7時という早朝にもかかわらず100人位入れる会場の席が7時前にほとんど埋まったことだ。聞くと、毎回同じような状況だという。

会は司会役であるトーマツベンチャーサポートの方のリードでまず隣同士の挨拶と名刺交換から始まった。私は只の興味本位で参加した大学教員であったが、隣の方お二人はいずれもオリックスの新規事業開発部隊の方々で、「ピッチ」が始まって分かったのだが、参加者の多くがオリックス同様大企業の方のようであった。

「ピッチ」は確か持ち時間4分、その後フロアーからの質疑応答の時間となり、1社20分位で終了という形であった。

先週はVCの投資先だったからであろうか、「ピッチ」でのプレゼンテーションは大変上手い方々ばかりであった。当日参加の大方のベンチャーには質問者が次々に出たが、質問者が途切れた時には司会者が参加名簿を見て関係ありそうな方を指名することで会は継続して盛り上がりを見せていた。

このイベントは2013年1月から始まったとのことで、毎週木曜日、年間50回弱として延べ3年半で150回以上、イベント1回に5社登壇するので登壇企業数は約800社に達する。これだけの数のベンチャーに声を掛け登壇してもらうための主催者側の努力は並大抵のものではない。そのことも大きな驚きであった。

加えて、毎週行われるこのイベントにかなりの大企業が参加している事実をみると、日本でもようやく大企業が本当の意味でベンチャーに興味を示し始めていることが分かる。ベンチャーと大企業のマッチングという意味で具体的な成果がどれくらい上がっているのかは分からないが、確かに日本のベンチャー・コミュニティが変わり始めていることを実感させるイベントであることは間違いない。


「THE INDEPENDENTS」2016年9月号 - p21より