「「老朽構造物市場にチャレンジする中小企業の戦略的経営」」
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<聞き手>
株式会社AGSコンサルティング
専務取締役 小原 靖明さん(左奥)
1985年明治大学大学院法学研究科修了。1989年当社入社。2000年IPO支援会社ベックワンソリューション設立、代表取締役就任。2007年合併に伴い、当社取締役就任。2012年3月常務取締役。2014年3月専務取締役(現任)
<話し手>
株式会社鈴木商店
代表取締役 鈴木 弘朗さん(右手前)
1973年3月6日生。焼津中央高校出身。近畿大学商経学部経営学科卒業。積水ハウスを経て、2001年1月鈴木商店入社。2009年4月代表取締役就任。2013年自社開発商品として、LonGood、Good UPなどを誕生させ、現在に至る。
【株式会社鈴木商店 概要】
設 立 :1970年4月
資本金 :5,000千円(株主:経営陣)
所在地 :静岡県焼津市三ヶ名253番地
事業内容:ネジ卸売業・貿易業務、防錆加工処理技術の研究開発・製造卸売
<特別対談>これからのIPOスタイル
「老朽構造物市場にチャレンジする中小企業の戦略的経営」
■ 卸業から防錆技術開発へ
小原:ドアミラー部品商社として静岡で安定した基盤を築いてきた貴社が、次世代表面処理技術「LonGood」という独自技術製品を開発したきっかけは何ですか?鈴木:2005年に六価クロム禁止という大激震が自動車業界に走りました。錆に極めて強い特性がありながら毒性が高く人的環境被害も予見される事から、自動車部品での使用が全面的に禁止されました。このクロムフリーの影響で私どもが取り扱うドアミラー部品も取り付け時につく小さな傷から錆びが発生してしまいました。その為、2013年浜松にサビを研究する開発拠点を新設し防錆事業を開始、耐食性試験を重ねる中で三層構造による耐食被膜形成方法を開発し、2015年10月に特許取得する事ができました。更に今年からはそのコーティングの一部を自社で処理できるよう、メーカーとしてのチャレンジも行っています。
■ 事業承継と事業転換
小原:鈴木社長が先代から社長職を引き継いだのはいつですか?鈴木:大学卒業後は住宅会社に入社して販売営業を行っていました。2008年までは父が個人事業主でしたが、2008年に法人化して2009年に私が当社代表を引き継ぎました。
小原:卸業からメーカーへの転換に際して、技術開発人材や体制はどのように構築したのですか?
鈴木:技術を持つ企業との連携を深め、更に、関連技術に関する造詣の深い人材は顧問として迎えました。
小原:外部に技術開発リソースを持つネットワーク力が貴社の強みを活かしたわけですね。
■ 新市場チャレンジと経営体制の構築
小原:防錆技術は自動車業界だけでなく、建築業界にもとても大きな需要があります。日本だけでなく世界中で老朽化が進む建築構造物の長寿命化と安全対策は大きな問題になっています。しかし一方で大きな市場だけに中小ベンチャー企業にとっては対応次第では企業の命取りになる事もあります。鈴木:私はお客様と接している時間が、とにかく一番楽しく充実しているのですが、それでは一営業マンで終わってしまいます。売上の倍までは現状体制で行けても、その先は全くの未知の世界です。
小原:大きな飛躍へとチャレンジする前には、一度立ち止まって自社の内部体制を考える時間を設ける事が肝要です。ベンチャー企業も中小企業もトップ自らが走り回るので営業力はありますが、経営管理体制は後手に回りがちです。ネジ卸からスタートしたミネベアも私どもがコンサルを始めた1970年代は資金繰りに悩む中小企業でした。月次決算、原価計算体制構築による戦略的経営体制へのシフトが重要です。
■ 中小企業の財務戦略
鈴木:製品開発や人材開発、販売チャネル開発などへの投資資金をどのように調達するかも課題です。小原:モノづくりの開発は短期間ではできません。IPOを目指すだけではなく、技術に出資したいというファンドもあります。地域経済活性化支援機構(REVIC)など官民ファンドもあります。
鈴木:日々の資金計画、月次決算だけではなく、長期的な財務戦略を検討しないと思い切った投資もできません。
小原:これからの中小ベンチャー企業の財務戦略は、経営管理体制を構築して外部機関への説明理解を深める事から始まります。静岡県には素晴らしい技術やサービスを持つ企業がたくさんあります。貴社が戦略的経営によって静岡から世界へ大きく発展する事を期待しています。本日はありがとうございました。
【対談を終えて】
株式会社AGSコンサルティング 小原靖明
自動車部品、土木建築資材、いずれの業界も新製品でマーケットインするには、想像以上に時間がかかります。そのため、今以上に綿密に販売戦略を練る必要があるでしょう。また、事業計画、特に投資計画を入念に作成し、一方で貴社の技術性評価を第三者から得て、貴社の事業性評価を高めることも必要でしょう。その上で、VCやファンドから資金調達が出来れば、新たなステージで事業拡大を図ることができ、地方のベンチャー企業として大きな期待を得ることになると思います。株式会社鈴木商店 鈴木弘朗
新時代を生き抜く為に、ここ2~3年は自社で新しい技術を確立する動きを中心に、東奔西走してきました。お客様にとっての品質向上、原価低減、長寿命化インフラに貢献し、新技術を広げていきたいという想いばかりが先行し、足元の経営基盤を築く事が出来ていませんでした。両輪で物事を進めていく必要性を改めて小原先生に鋭くご指導頂き、有難いと感じています。また、「目標数字も控えめですね」と云われましたが、それは本格的な事業計画に踏み出せていない裏返しだと感じています。真の成長戦略を進め、企業体質を強め、外部からの信用度も上げていかなければと思います。貴重な機会有難うございました。これからもご指導の程宜しくお願い申し上げます。※「THE INDEPENDENTS」2016年7月号 - p16-17より