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「医療診断ソフトウェアの知財戦略」

公開

<聞き手(左)>
弁護士法人内田・鮫島法律事務所
弁護士 鮫島 正洋さん
1963年1月8日生。神奈川県立横浜翠嵐高校卒業。
1985年3月東京工業大学金属工学科卒業。
1985年4月藤倉電線(株)(現・フジクラ)入社〜電線材料の開発等に従事。
1991年11月弁理士試験合格。1992年3月日本アイ・ビー・エム(株)〜知的財産マネジメントに従事。
1996年11月司法試験合格。1999年4月弁護士登録(51期)。
2004年7月内田・鮫島法律事務所開設〜現在に至る。

<話し手(右)>
株式会社イノテック
代表取締役 伊藤 賢治さん
1962年6月21日生まれ。広島城北高校出身。1985年広島経済大学卒業後、株式会社猪原商会入社。1996年株式会社イノテック設立、代表取締役就任。

鮫島正洋の知財インタビュー

医療診断ソフトウェアの知財戦略


鮫島:中国地域ニュービジネス特別賞受賞おめでとうございます。ソフトウェア単体で医療機器認可を取得した膝関節診断支援ソフト「KOACAD」が広島だけでなく全国でも高く評価されました。
伊藤:「KOACAD」は東京大学の岡敬之特任准教授との共同開発による膝関節の障害の自動診断支援システムです。従来のX線写真読影では医者個人のスキル依存度が高く診断結果の客観性確保が難しかったのですが、「KOACAD」によってX線画像読影が一定品質で診断支援出来るようになりました。

鮫島:高齢化社会を迎え、歩行困難な変形性膝関節症患者が増えています。膝軟骨関連市場は再生医療分野でも注目されていますが、今後どのような事業展開を考えていますか?
伊藤:クラウド型の遠隔診断支援ソフト事業(遠隔診断サービス)や、医療機器メーカーへの軟X線装置・超音波診断装置へのOEM供給や医療ソフト共同開発などに取り組んでいきます。要介護・要支援の原因の上位を占める変形性膝関節症市場を軸に、私たちの企業理念である健康で痛みのない高齢化社会の実現を目指していきます。

鮫島:元々は工業用画像処理ソフト開発会社としてスタートしたと伺っていますが、医療分野にはどのように参入されたのですか?
伊藤:私どもは工業用光学機器販売会社のソフトウェア開発会社として1996年に設立されました。当時32歳の私が営業課長から大抜擢で社長に就任しました。画像処理技術を根幹として世の中に無いソフトウェアによってトータルソリューション提案する事が事業コンセプトです。現在も売上の大半は工業用画像処理ソフトウェアです。医療分野は大学との連携による取り組みの結果、今期売上比率2割までに育ってきました。

鮫島:貴社の画像処理技術と大学の知財によって新しい市場を切り開いた訳ですね。
伊藤:2007年2月に広島TLOを通じて広島工業大学から作図計測画像処理ソフト「QuickGrainPad」の特許(3909604号)の特許許諾契約を締結したのが始まりでした。その後、各大学のTLOから注目をいただくようになり、東京大学整形外科とも特許許諾契約結び、膝関節診断支援ソフト「KOACAD」を共同開発しました。東京大学小児外科と組織細胞画像処理ソフトを共同開発も行っています。同業は富士フィルム・東芝など大企業ですが、整形外科関節症診断支援のソフトウェア市場においては私どもがオンリーワン企業です。

鮫島:新分野展開にあたっては技術による差別化も重要ですが、市場を絞ってトップシェアを目指す戦略はベンチャー成功のセオリーだと思います。今後のビジネス展開について教えてください。
伊藤:ソフトウェア単体での医療器番号取得が可能になる事で今後は全く新しい医療ビジネスモデルを誕生させたいと思います。クラウド型の遠隔診断支援ソフト事業(遠隔診断サービス)、医療機器メーカーとの医療ソフト共同開発(軟X線装置・超音波診断装置へのOEM)などの新しい展開に取り組んでいきます。脊髄計測、股関節診断、リュウマチ診断支援の次世代型ソフトを開発中です。診断情報のビッグデータ化を行うことで、保険点数収載医療機器ソフトの認証サービスを展開したいと考えています。

鮫島:特許をきちんと取得するベンチャー企業は伸びていきます。なぜなら経営効率が良いからです。大企業からも対等なビジネスパートナーとして認められます。縦割り組織の日本の大企業は新しいビジネスモデルには直ぐに対応できないのでベンチャーとの連携が必要になっています。知財戦略を重視する貴社であれば、大企業との提携によって医療診断ソフトのプラットフォーム化が実現できると思います。本日はありがとうございました。

―対談後のコメント
伊藤:小さな、小さなITベンチャー企業が、巨人の大手企業と対等に渡り合うには、唯一無二の特許技術しかありませんでした。ソフトウェアは、ある日突然さらに優れたソフトが出現します。20年間も経営を継続できたのは、知財戦略を柱に、思いやりと迅速なフットワークでニーズに対応してきたからだと思っております。鮫島先生より、知財戦略の大切さを伺い、大変勇気づけられました。これからもドン・キホーテになった気持ちで突き進んで参ります。
鮫島:大企業と競合するような大きな市場ではなく、ニッチな市場で知財取得を積み重ねることがニッチトップへの早道であり、ベンチャー企業が効率よく成功するための定石である。医療用の画像診断ソフトの市場自体は大きな市場であるが、同社の場合、あえて「膝」の診断にターゲットを絞った。いわば、大きな市場からニッチ化しているのであり、この点が成功へつながる鍵である。

―機関誌「THE INDEPEDENTS」2016年7月号 P18-19より

株式会社イノテック

住所
広島市南区金屋町2-15 KDX広島ビル2F
代表者
設立
平成8年7月1日
資本金
10,000千円
従業員数
事業内容
URL
http://www.inotech.co.jp