アイキャッチ

「中小ベンチャー企業における 特許総論(2)」

公開


弁護士法人 内田・鮫島法律事務所
弁護士/弁理士 関 裕治朗 氏

1999年早稲田大学理工学部機械工学科卒業後、特許庁入庁。運輸、車両制御、冷却機器の各部署において、特許・実用新案等の審査に従事。2015年1月弁護士法人内田・鮫島法律事務所入所。

【弁護士法人 内田・鮫島法律事務所】
所在地:東京都港区虎ノ門2-10-1 虎ノ門ツインビルディング東館16階
TEL:03-5561-8550(代表)
構成人員:弁護士23名・スタッフ10名
取扱法律分野:知財・技術を中心とする法律事務(契約・訴訟)/破産申立、企業再生などの企業法務/瑕疵担保責任、製造物責任、会社法、労務など、製造業に生起する一般法律業務
http://www.uslf.jp/


1.前回のおさらい

 特許権とは、特許公報の「発明」(=「特許請求の範囲」の「請求項」)をいいます。また、ある製品Aが特許権を侵害しているというためには、原則として、この特許権である「特許請求の範囲」の「請求項」の記載と製品Aとを対比して、製品Aがこの「請求項」の記載に一字一句違わずにあてはまる必要があります。

2.「広くて強い特許」とは?

 「広くて強い特許」とは、どのような特許をいうのでしょうか。「広い」とは、特許権が及ぶ範囲の広狭に関し、特許権の及ぶ範囲が広いことを意味します。侵害者側から見れば、回避することが難しい特許ということができます。これに対し、「強い」とは、いったん成立した特許権が事後的に無効にされにくいことを意味します。
 今回は、「広い特許」について考えてみたいと思います。

3.「広い特許」を取得するには?

 「広い特許」とは、侵害者側から見れば、回避することが難しい特許でした。これは、本質的な要素のみで構成される特許と言い換えることができます。
 ここで、a+b+cという要素から構成される特許αを考えます。製品Aが特許αの侵害品というには、製品Aが特許α(=a+b+c)に一字一句違わずに該当する必要があります。つまり、製品Aがaかつbかつcである場合にはじめて特許権侵害となります。そうすると、「広い特許」とは、その構成要素がなるべく少ないものといえそうです。  しかし、特許の構成要素が何でもよいのかといえば、そうではありません。先の例でいえば、特許αの実施品と同じ効果を有する製品Bがあったとします。製品Bを分析すると、製品Bは、a+b+dだったという場合、製品Bは、特許α(=a+b+c)とは異なるので、特許αの侵害品とはなりません(特許αはcという構成を有しているのに対し、製品Bはdという構成を有しているため。)。
 このケースでは、特許αにどのような問題があったのでしょうか。まず、特許αは、a+b+cという構成でしたが、本当にa+b+「c」である必要があったのでしょうか。言い換えると、「c」という限定は、特許αという発明にとって、本質的な限定だったのでしょうか。「c」ではなくて、「d」ではダメだったのでしょうか。さらに、そもそも、特許αとして、a+bではダメだったのでしょうか。
 このように、a,b及びcという構成がなぜ必要だったのでしょうか。それらは、発明にとり、第三者が回避できないような本質的な要素だったのでしょうか。「特許請求の範囲」の「請求項」の記載とは、事前にこういった検討を十分に行い、本質的な要素のみで構成されるようにしてはじめて「広い特許」になります。先の例では、「c」という要素が本質的な要素ではなかったか、第三者が「d」という要素で特許αを回避したことが大発見だったのか、さて、どちらでしょうか。

※「THE INDEPENDENTS」2016年5月号 - p20より