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「「これからの大企業との提携戦略」」

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1965年神奈川県生まれ。1990年早稲田大学教育学部卒業後、日本合同ファイナンス(現・ジャフコ)入社。1995年6月メンバーズ設立、代表取締役就任。2006年11月名証セントレックスへ上場。2016年4月東証二部市場、および名証二部市場上場(2130)。東京ニュービジネス協議会理事として、大手企業やベンチャーキャピタルとベンチャー企業の交流を促進する「Connect!」を主宰。

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■ ベンチャーと大企業の交流の場を創る

 ニュービジネス協議会理事として、4年前に日本のベンチャー企業(以下ベンチャー)を盛り上げるためのイベント「connect!(コネクト)」をボランティアで立ち上げました。
 日本には大企業がベンチャーを見下したり、「起業家は変わり者」と見做す風潮がありますが、私は大企業とベンチャーはもっと仲良くすべきだと考えています。そこで思い着いたのが“飲み会”です。私はVC出身なので起業家の知人が多く、また社業(メンバーズ)を通じて大企業との接点もあったことが幸いしました。

■政府を巻き込む

 「日本では新設会社のみが新規雇用を創出している」というデータがありますが、感情論ではなくこのような事実を拠り所にして、ベンチャーに対する政府の関心を高め、起業家のステータスを上げる必要性を感じます。一方で「日本人は失敗を恐れるため起業が敬遠される」という調査結果もあります。実は起業が盛んな諸外国は、政府の啓蒙活動によって起業への不安を払拭したのです。この事実は日本でも政策次第で国民の起業に対する意識を変えられるということを示しています。そのためには、このテーマを担うべき経産省が従来の大企業応援団という立場からベンチャー応援に傾注していくかがポイントになります。いずれにせよ、政府を巻き込まなければベンチャー市場は活性化しません。

■ 大企業による“ベンチャーM&A”の重要性

 日本のベンチャー市場の特徴としてよく話題になるのがVC投資の少なさです。確かに日本のVC投資額は米国の20分の1程度です。しかしIPO社数に日米での大差はありません。格差の原因はM&Aの数にあります。米国ではVCの投資EXITのうち9割近くがM&Aです。大企業が支出した多額のM&A資金が、VCを経由してベンチャーに還流する仕組みが出来上がっているのです。日本においてもベンチャーの買収が活発にならないとリスクマネーがベンチャーに供給されません。“ベンチャーM&A”こそが日本のベンチャーを活性化させるカギなのです。
 では、大企業によるベンチャーM&Aを活性化させるためにはどうすれば良いのでしょう。富士通総研のレポートに重要な示唆があります。「シリコンバレーはベンチャーだけのものではなく大企業のものでもある」という一節です。米国IBM社は自社の事業ロードマップを公開しています。するとVCはその戦略に沿ったベンチャー投資を行い、M&AによるEXITを考えるようになります。IBM社はVCを無報酬で事業開発アウトソーサーとして利用できるのです。因みにIBMはクラウド時代への対応のためにベンチャーM&Aに数年で2兆円使ったと言われています。
 大企業の新規事業成功確率はかなり低いと言えます。1事業に数億円を投下しても成功確率が1割未満なら、50億円でM&Aを実施する方が効率的かもしれません。日本の大企業にはこのようなドライな考え方必要です。そして、それを実現するためには、「connect!」のように大企業自らが敷居を下げてベンチャーやVCに接する場が必要なのです。

■ エッジの立った研究開発型ベンチャーの出現

 「connect!」を立ち上げた時に目標を3つ掲げました。①国との共催 ②総理大臣の参加 ③1000人規模の会合ですが、昨年全てを達成することが出来ました。
私が次に掲げる目標は、「時価総額1兆円越えのメガベンチャー創出」です。世界インフラとなり得る研究開発型ベンチャーは、ネットベンチャーと違って言語の壁がないので、その先に広大な市場が拡がっています。それ故、世界に通用するエッジの立った技術や製品サービスを開発するためには多額のリスクマネーが必要です。しかし日本のベンチャーは日銭稼ぎに追われがちで、壮大な技術ビジョンに特化した研究開発の継続は難しく大企業から注目されるチャンスも多くありません。「エッジが立たない⇒M&Aされない⇒リスクマネーが入らない⇒エッジが立たない」という鶏と卵の悪循環に陥っているのです。このような環境から出て来る成功事例はアプリ開発などの小粒ベンチャーが中心です。大企業はそんな小粒ベンチャーは(財務的な)投資対象にはなっても、次の時代を支えるイノベーションになり得ない事を知っています。
 VCの意識改革も必要です。それはIPOを急かさないことです。Facebook社は未公開段階で2000億円を調達し、毎期500億円の赤字を出しながらプラットフォームを構築しました。大胆に赤字を出しながら世界で覇権をとれる技術開発に専念できるのは未公開段階しかありません。上場して四半期決算に追われるようになると大胆な投資は難しくなります。
 それでも、最近は時価総額が1000億円を超える研究開発型ベンチャーのIPO事例や、「connect!」にも世界トップレベルの技術を持つ楽しみなベンチャーが数社あります。環境は変わりつつあると思っています。

■ 質疑応答

Q:出資を受けるベンチャー企業としてのコメントは?
A:当社のような属人的サービス会社にはM&Aの妙味がありません。一旦離陸したら、人から製品やサービスに価値が移転しなければならないと思います。
Q:ベンチャーが昨今のマインドの(低い)大企業に買収されても幸せになれないのでは?
A:IPOした後で大企業に買収されるとか、まず中規模ベンチャーによる買収が行われてその後大企業によるM&Aに発展するような「二段階方式」もあり得ると思う。
Q:保守的な大企業の本部長クラスにベンチャーM&Aの気構えはあると思うか?
A:コネクトのような場を通じて徐々に思いを強くしていただければ幸いです。
Q:大企業の人材は安定志向が強く危機感が不足していると思わないか?
A:教育によって国民の意識を変えることが出来ます。日本でも「起業家はかっこ良い」という雰囲気が徐々に高まっていると感じています。

―2016年6月7日インデペンデンツクラブ月例会(東京21cクラブ)にて