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「再び官民ファンドについて」

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國學院大学
教授 秦 信行 氏

野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。
1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。
1994年國學院大学に移り、現在同大学教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。
日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。
早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)




ベンチャーコミュニティを巡って


官民ファンドについては、昨年7月80回目のこのコラムで「官民ファンドの意義と課題」と題して取り上げた。そうした中で先般、「官民ファンド連携チーム会合」なる組織から日本ベンチャーキャピタル協会、日本ニュービジネス協議会連合会、そして日本ベンチャー学会の3団体に対して、民間との意見交換会を行いたいので参加してほしい旨のお誘いがあった。

「官民ファンド連携チーム会合」とは、最近増加している様々の官民ファンドの相互連携を図る目的で作られた組織で、シーズ・ベンチャー支援と地域活性化支援、この2つの政策課題毎にメンバーが決められている。まず、シーズ・ベンチャー支援については、産業革新機構、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)、そして最近誕生した東大、京大、阪大、東北大の4国立大学VC(それぞれの正確な名称は省略)がメンバーになっている。地域活性化支援については、中小企業基盤整備機構、地域経済活性化支援機構など6つの機構と日本政策投資銀行がメンバーとなっている。

今回の民間事業者との意見交換会は、官民ファンド相互の連携強化のみならず、有識者から民間事業者と協同した支援活動を行う必要性を指摘されたことから設けられたようだ。

意見交換会は4月26日に開かれ、当日参加の官民ファンドの自己紹介の後、呼ばれた3民間団体からそれぞれ意見を求められた。

筆者は、日本ベンチャー学会の代表の一人として会に参加し、学会としての、というより私の個人的な意見に近い見解を述べさせてもらった。話した内容は、先述したこのコラムの80回目にも書いたように、日本でのリスクマネーは依然として少ない。IT系のスタートアップ・ベンチャーについてはここ数年、金額的に小さくて済むためにシードマネーがかなり出始めているが、ものづくり系やバイオ系のベンチャーなどには民間だけでは十分な資金を供給することが難しい。そうした民間資金の補完、民間資金の呼び水として官民ファンドの意義は小さくないと考える。民業圧迫への懸念が言われているが、現状の民間の資金量を考えると、民業圧迫が懸念されるレベルではないのではないか。

今後を考えても、地方の疲弊は進んでおり、その活性化、さらには、今まで経済を牽引してきた大企業の構造的な低迷、それに代わる牽引役となるべきグローバルベンチャーの育成等を考えると、官民ファンドの必要性はますます高まると思われる。ただ、そうした役割を官民ファンドが十分に果たす上では、ファンド運用者の民間からの人材採用が非常に重要で、かつ、官民ファンドの中での人材育成の仕組みを上手く作って欲しいということを強調しておいた。

いずれにしろ、改めて日本における有効なベンチャー育成のエコシステムを考える時、米国、特にシリコンバレーと違って、日本人のリスクに対する考え方からして、官が担うべき役割を相対的に大きく考えなければならないのではなかろうか。


※「THE INDEPENDENTS」2016年6号 - p21より